大輪の盾〈2〉
エターナは語る。
【サンレッド】が【国】を目指す為の〈関所〉だが、選ばれた者のみが潜り抜ける事を許される。
〈関所〉には『扉』が施されている。ただし、条件が必要だった。
エターナ曰く“無垢な光の力”を『16』集める。もうひとつは“大輪の盾”の 『血』を解放させるーー。
エターナの宝石をあしらう髪飾りは陽の光を浴びる。大輪の花のように彩る紅の輝きが食堂車の天井に反射される象を、ルーク=バースは凝視していた。
「ヨメさん、あんたが述べた事は俺も知っている。だが〈関所〉の先にある【国】の真実が、なに一つ語られてない」
「《団体》が、一般人には就労の目的で人員を募集した。場所は【国】で、内容は資源の採取。しかも、女性限定としてました」
「怪しい人の集め方だな?」
「《団体》が事業を企画して、事前の調査で資源は特殊な物質だった。機械での採取より、女性が『器』として品質が保てる。ですが、女性の人権を損ねると警告を行政機関より受けてからは、事業を縮小した。それでも利益は失いたくないと、次に着手したのがーー」
「子供達を利用する?」
タクト=ハインが眉を吊り上げて、エターナの言葉を遮る。
「勘が鋭いですね? タクトさんがおっしゃる通り《団体》は試験的に子供を『器』として扱う。成功したら、実用すると計画したのです」
バースが横目で追うロウスは額から汗を滲ませていた。
我妻の語る《団体》の内部事情に困惑している筈だと、思考を膨らませる一方、四年前の自身が経験した出来事を振り返る。
ーーバース。いつかこの地に風を吹き込ませてーー。
閃光と共に開かれる『扉』を潜り抜けた、タクトの母親。だが、エターナが言う『鍵』を持っていなかった。
一か八かの賭けだとバースは息を呑んで、心を震わせてる。
「ヨメさん、あんたが言う『鍵』ではなく【国】の“民”でも〈関所〉の『扉』を開くは可能なのか?」
「臆測を否定は致しません。しかし『扉』を開く条件は、私がお話しした通りと申し上げます」
「あくまで《団体》が施した『扉』だろう?【国】の“民”の子孫が現代に存在するならば“力”を応用した事業、或いは行動を実行するは考えられないか?」
バースはロウスに珈琲の催促をする合図をしながら言う。しかし、一向に微動さえしないと気付くと、鼻から息を荒く吹かせる。
「まるで俺が悪人だ。だが、此方は部下の安否を気にしてる。同時に覚悟があっての『先を目指す』なのだ。今一度言うが、あんたの正体を明かせっ!」
「私は《団体》の職員。そして、ロウスのーー」
「何もかも捲き込んだ揚げ句に、しらを切るなっ! あんたが言うのを躊躇うならば、俺が代わりに述べてやる」
ーーバースさん、何をそんなに苛立っているのですか!
絶叫に近いタクトの言葉に、バースは我に返るような目差しを剥ける。
「エターナさんも辛い思いをしていた筈です。ご家庭を犠牲にしてまで仕事を選んだ。先ずは、其処を配慮致しましょう」
「タクトさん、貴方は心優しいですね? ご両親、特にお母さまがどれ程貴方に愛情を注ぎ込まれたと、察する事が出来ます」
「でも、母さん。いえ、母は居ません」
「亡くなられていたのですか?」
「生まれたばかりの弟を置いて、何処かに行ったきり帰って来ない。更に僕も軍人になってしまった。今だから言えますが、バースさんは母と会わせる為に僕を誘ってくれたと、理解しました」
タクトは目頭を赤く染めていた。バースは自身の髪をくしゃりと、握り締めながら口を突く。
「タクト、アルマを呼んでこい」
タクトが鼻を啜る音と共に、食堂車の扉が開いていった。




