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大輪の盾〈1〉

 ルーク=バースは、車窓越しから西の地平線に沈む陽を仰ぐ。空は蒼と紅が重なり、雲を朱色に染める一方、食堂車のテーブル席でロウスの妻と名乗るエターナが、微動せずに真っ直ぐと腰を下ろしていた。


「バースさん。貴方には、一切の誤魔化しは効きそうにもありませんね?」

 僅かながら、エターナがバースより先に口を開く。


「《団体》主催の《育成プロジェクト》の目的を開示しろ」

 バースはエターナを睨み、威圧感を含ませた言葉を剥ける。


 バースの罵声は食堂車の隅々まで轟き、拳で叩きつけるテーブルの振動を受けた一輪挿しの花瓶が床に落下して花を散らす。


「僕が片付けます」と、タクトが腰を上げて砕けた花瓶の破片を拾うが、指先を血に染めて滴を滲ませる。


「まぁ! 大変」

 エターナが驚愕ながらタクトの傷口に掌を包み込むと“金色の光”が照らされて、血の滴りが止まる。


「ありがとうございます。バースさん、こんなに優しい方が『悪人』と、僕は呼べません」

「タクト、俺達はどんな思いをして子供達を見守っていた? おまえなら、その答えを言い切れる筈だ!」


 眉を吊り上げ、こめかみに青筋を浮かべるバース。タクトの目蓋は綴じられ、身震いをする。


「子供達の未来を守りたい。そして【国】がどんな処かと、知りたいからです」


「最初からちゃんと言え!」

 バースは額の汗を掌の甲で拭い、息を大きく吐く。


「貴方達は【国】に行かれるつもりだったのですか?」

「先ずは、俺が提示した質問に答えろ」


 バースの提言は3点だった。


 列車が【サンレッド】目前で減速した要因に、エターナが関わっている疑惑。


 《団体》が企てた《育成プロジェクト》の本来の目的。


 そして、エターナの正体。


 バースは『3つ目』に重点を置いた。立ち往生して、解決策としてタクトの“加速の力”が詰まるカプセルを使用した結果、列車は遅行した運行時刻を取り戻す。しかし、タッカの目撃した列車内を彷徨う女性が、タクトが言うエターナの姿と一致すると確信を持つ。


 エターナは、自らロウスの妻と名乗り《団体》の職員ともうち明かした。その前にはハーゲ=ヤビンと対峙する最中、ロウスと“同調”して浮かぶビジョンに彼女がいたと、記憶していた。


 更に遡れば、護衛する子供達の中に夫婦の娘、シーサがいる。


 シーサは何者かに“習得の力”を意図的に植え付けられて、目視が原因でザンルの“地形の力”を習得した。


 ロウスも以前、妻に於いての経緯を語っていた。


「あんたは、俺達の情報を入手していただろう? 此れまでの護送任務に影響を及ぼす事態に関わっていると、疑われて当然だ。嫌でも辻褄が合うと、見解したに至ったのだ」

「私が夫から貴方達の任務状況を聞いていたと、お疑いなのですね?」

「ロウスはべらべらと、私的事を喋る奴ではない。況してや、あんた達は生活のすれ違いをしていた。夫婦の会話が成立する事はなかった筈だ」


「バース、何も其処まで介入する必要はない」

「黙れ、ロウス。そして勘違いをするな。おまえのヨメさんは《団体》職員。護衛依頼は自分ではないと言い切っているが、絶対に軍の関係者と吊るんでいた」


「バースさん。僕、子供達の様子を見に行きます」

「バンドが警護してる。タクト『あの時』誰が待ち伏せしていたか言ってみろ」

 タクトが腰を上げている最中、バースは腕を掴みながら言う。


「僕が証言するのですか?」

「つべこべ言わずに、さっさと述べろっ!」


 バースの苛立つ形相に根負けするように、タクトは一度息を大きく吐くと、暫く沈黙をして口を開き始める。


「僕達の上官が、軍隊編成で護送列車の到着を待っていた。しかも、子供達を引き渡すようにも言われた。対峙して、タッカさんを置いて転送で移動していた列車に戻ったと、いう経緯です」


 タクトは言葉を吐き出すと、唇を噛み締めながら俯いて身体を震わせる。


「タクトさんと、いうのですね? 失礼ですが、貴方は未成年でしょう。お顔がまだ、あどけない。軍に在籍した理由をお訊きしたいところですが、先ずは、おっしゃった上官のお名前をお願いします」

 凛として、尚且つ澄みきる声でエターナが言う。


「バースさん?」

「構わない」


 タクトはバースと目を合わせると、か細く「はい」と頷いてエターナを振り返る。


 ーーハーゲ=ヤビン。


 タクトは呟くと、再び口を閉ざす。


「そうですか。タクトさん、貴方の言葉に偽りはない。そして、私に誰かを彷彿させているご様子。辛い思いを止めるには、私が語るしかありません。皆さん、どうか心を静かにしてお聞きください」


 エターナが身に付ける装飾品がしゃらりと、音を奏でる。


 バースはタクトの髪をくしゃりと、軽く握り締めて姿勢を正すようにと促す。


「《育成プロジェクト》というのは、一般人には表向きの《団体》主催の“力の養成”計画。裏では『知られざる世界』を手にする野望を抱く人物が関わっていた。貴方達を捲き込んだ真の目的が【サンレッド】にあります」


 エターナは、真実を語りだす。バース達は注目をして、ひたすら耳を澄ませるーー。






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