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 ルーク=バースは食堂車に向かった。扉を開くとロウスが『客』をもてなす準備をする最中の姿があり、テーブルの上にティーセットと焼き菓子が並ぶ車窓側の席に一人、異国の民族衣装を彷彿させる朱色の衣を身に纏う女性が椅子に腰掛けていた。


「始めまして。私は、エターナ。ロウスの妻です」

 凛として、澄みきる声で女性は腰を上げて自己紹介をする。一礼をすると同時にしゃらりと、身に着ける装飾品が音を奏で車内に響き渡っていく。


 バースはエターナと目を合わせると僅かに唇を尖らして、テーブルに靴を鳴らして行くとすとりと、椅子に腰を下ろす。


「バースは珈琲が良いだろう?」

「ああ、ブラックで構わない」

 ロウスはバースの注文を受けて、キッチンに立つと珈琲豆をハンドル式のミルに投入して挽く。そして、コーヒーメーカーのタンクにミネラルウォーターを注ぎ入れ、粗挽きにした珈琲豆をセットすると、ドリップを開始するスイッチを押す。


「タクトはどうしている?」

「此方には姿を見せていない。バース、様子はおまえが知っている筈だろう?」

「ハケンラットにメンタルケアを頼んでいた。何様、タッカを置いて列車に戻って来たものだから、俺は奴に恨まれてしまった」

「大体の経緯は察する。あのお方の“力”は相当な威力がある。タクトとアルマさんが危険な目に合うのを避ける為にタッカは自ら盾になったと、俺は解釈する」


 バースはロウスの言葉に違和感を覚え、咄嗟に口を突く。

「ロウス、誰からの情報だ? 俺達の状況は、まだ開示していない」


「私が感知したのです。現場に戻るのは危険と、直接列車に案内をお願いしたのです」

「あんたがかよ?」

「バースさんでしたよね? 夫は貴方から私を連れてくるようにと、依頼を承けた。お招きされた目的をお訊きしたいです」

「先ずは、タクトを呼ぶ。其れから、じっくりと話を聞き出してやる」

 バースはそう言うと、小型通信機を耳に装着して通信を開始する。


 そして、淹れたての珈琲をバースに運ぶロウスと同時に、食堂車の扉が開かれる。



「バースさん、僕に何の用ですか?」

 タクトは険相の眼差しをバースに剥けて言う。


「『客』を紹介したい。タクト、何処かで見たような顔をしてると思わないか?」


 バースの促しにタクトは渋渋と同席をすると、左斜めに視線を向けると同時に口を大きく開く。

「確かに、タッカさんが見間違えて当然です。御召し物も僕の母さんが新年等の節目に着ていた。色は違うけど、似ています」


「ロウス、タクトを呼んだ理由は解っただろう? おまえのヨメさんの共通は、タクトのお袋さん。そしてーー」


「お待ち下さい、バースさん。先ずは、あなた達が辿った経緯と私の接点をお話し致しましょう」

 エターナはバースの会話を遮ると、不安げに見つめるロウスに首を横に振る。



 エターナは自身が《マグネット天地団》の職員と明かすと《育成プロジェクト》の幹事と付け加える。ただし、選抜した子供16名の護衛依頼をしたのは《団体》では無い。


「出鱈目にも程がある。人様の子供を集めて、責任は丸っきり無しの言い草だ」

 バースは眉を吊り上げて、感情を剥き出しにして言う。


「信じて頂けないのは承知致します」

「俺達は《団体》の為に何れだけ危険を伴った任務をしたのかは、ロウスから聞いている筈だ。此処にいるタクトは、あんたの娘を身をもって守る程の事態に捲き込んでしまった」


「娘? どう言うことなの、あなた」

「ちょっとアクシデントが起きて、その時に親子関係が隊員の一部にバレてしまった。ただ、其れだけだ」


「何を呑気な言い方をする! ロウス、おまえはヨメさんに結果的には振り回されたのだぞ」

「バースさん、落ち着いて下さい。その前に、列車が減速したのがそもそも、事の原因だったのです」


 タクトの一声で、バースは鼻息を荒くしながらカップに残る珈琲を一気に飲み干す。


「『減速』で気になった。俺は『怪奇現象』なんて言ったが、何者かが意図的に実行したと言い換えれば、誰に疑いが掛かると思うか?」

「待て、バース。タッカはただの目の錯覚だろう? 減速してまで俺達の任務を妨害をしたのが、エターナだ。なんて言うつもりなのか?」


「その通りだ。離れた場所の状況を感知する“力”を持っているならば、他にも“力”が備わっている筈だ。自分のヨメさんの能力を知らないとは言わせないぞ、ロウス」


 バースはロウスを睨み付けるとエターナに視線を向ける。


「あんた、何者なんだ?」


 食堂車に息苦しく、尚且つ重い沈黙の空気が漂う。

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