陽光臨戦〈2〉
目の前の敵は陽光隊の上官、ハーゲ=ヤビン。
目指すは【ヒノサククニ】を志す最大の難関を“光の力”で立ち向かう。
運命の関所を突破するのは陽光隊かハーゲか?
闘いは、更に続く……。
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「ロウス、あのドラム缶に割烹着に“照準の力”をぶっ放せっ!」
バースは丸々とした体型のハーゲが引き連れた武人を指差して、ロウスを促した。
「お世辞にも筋肉質とは言えない体格をしている。俺の美的センスと余りにもかけ離れている」
「お二人の言葉で既にダメージを与えているようにも見えますけど?」
呆れ顔のタッカと笑いを堪えるタクトは怒りを膨らまして赤面する武人を遠巻きに見つめて、そんな会話をする。
「俺を指名した理由は?」
ロウスは眼鏡の縁を指先で押し上げながらバースに訊く。
「見た目に騙されるな。意外と素早いドラム缶に割烹着だ。あいつの戦力は、かつての〈戦〉でも一役買っていた」
「ダグ=グッダ。あの頃の面影なんて何処にもないほどの変貌振りが情けないものだ」
ロウスは呼吸を整えると掌から“紺色の光”を輝かせると反物に象らせ、ダグ=グッダに向けて解き放す。
「此のまま、おまえと連動しながら攻撃する。頼むぞ、相棒」
「了解」
タクトはバースとロウスのやり取りを理解出来ず、アルマに訊こうとする。
「手を止めてる暇はないっ! タクトはアルマとそっちの芋虫を転がし捲れ」
バースはタクトの背の半分ほどの武人を指差すと、背後にいるロウスと共にこまごまと移動するダグを追っていく。
「タクト、私が援護する。おまえの感じたまま、奴を蹴散らせ」
「バースさんが『転がせ』と指示した意味が理解できないのに、アルマさんまで同じような言い方が気になります」
「ならば、率直に述べる。奴はたいした武力は持たないが、口を武器にしている。其処を逆手に取るだけで良いっ!」
「はあ? それでも軍人なんて、何故ですか」
「あの、お方を取り入れる程、まさに口から生まれたような奴だからだ」
「無茶苦茶な人材。と、見解しました」
タクトは険相して武人を見る。
「あ、おまえだろう? ルーク=バースの腰巾着と僕達の部隊では有名なタクト=ハイン」
「頭にくる言い方だね? それに自分の名前を言えない癖に偉そうに上官にくっついてるところがもろ、弱そうだよ」
「口を慎むのだ。おまえなんか、僕がぎったぎたにしてやる」
タクトはこめかみに青筋を浮かべると、頬に息を溜めて一気に吐き出しながらこう言った。
「バーカ」
敵は直立不動の姿勢のタクトをじっと見据えると、目に涙を溜めながら拳を握り締めて、飛び掛かってくる。
「僕は『バーカ』じゃなくて、ドング=リーと、いう立派な名前があるのだぁああっ!」
「アルマさん『転がせ』の意味、解りました」
「丁度良く、溜め池がある。おまえの“力”諸とも、填まらせろっ!」
ーー了解っ!
タクトは足元を蒼く輝かせ、右膝を曲げて脚を上げる。
褄先はドング=リーの鳩尾に命中して、空中に舞い上がると更に靴底が押し当てられる。
「池に落ちたら大変の競技て何でしたっけ? アルマさん」
「ゴルフだ、タクト。だが、この場合は『ナイスショット』と、誉めてやる」
駅舎の側の溜め池から水飛沫があがり、小さな虹がうっすらと輝いていた。
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「一応、手柄だ。堂々としとけ」
「勝ったけど、弱いものいじめみたいであと味悪いです」
背中を丸めるタクトにアルマは誉め称える。
「此方も見事にボコボコにへこんでいる様子だ。一旦休戦するから、あんたも下っ端を叩き直せ」
ダグ=グッダの襟首を掴んでバースはハーゲに叫び、放り投げるように掌を解す。同時に溜め池から這い上がったドング=リーもハーゲの傍にやって来て、押し問答と呼べる光景が繰り広げられた。
ーー司令官、奴のスタミナは半端ではありません。
ーーこの、馬鹿めっ! 貴様の体型がそもそも原因なのだ。コラッ! ずぶ濡れでしかも水草を絡めたまま、ワシにしがみつくな。
「やはり、所詮は寄せ集めの連中だ。だが、油断はするな」
バースは隊員を一ヶ所に集めて囁く。
「バース、やはり噂は事実だったのか?」そう言ったのはタッカだった。
「ああ、軍の上層部はかなり空中分解している。特にあいつに意見を提示した幹部は尽く潰された。俺達が相手にしているのは、奴にとっては都合が良いやつらばかりだ」
「僕達は、軍を敵に回した?」
「決めつけるのはまだ、早い。此のまま、対峙する振りをして奴の野望を探るっ!」
バースは不安げな形相のタクトと目を合わせて笑みを湛えるとロウスに振り向く。
「どれ、ロウスにはひとっ走りしてもらおう。タクト、転送装置はどうしてる?」
「はい。勿論持ってますが、ロウスさんと何か関係があるのですか?」
「大有りだ。ロウスと連動してる最中“同調”してしまってな。その時見えたのがこいつのヨメさんだろうな? 今回の件もおそらく何かを握っていると直感した」
「俺を嵌めたのか?」
ロウスはバースを睨みつけながら言う。
「怒るな、ロウス。ドラム缶に割烹着はこの俺の目でも動きが捕らえる事が出来ないのだ。おまえのお陰で奴は撃沈した」
「どうするのだ、ロウス。バースの指示を拒否しても良いのだぞ?」
「いえ、妻は〈団体〉の職員です。この情況を是非見てもらって、真実を語ってくれるようにと、願います」
ロウスはタクトから転送装置を受け取ると、アルマにそう言って深々と一礼をする。
「バンド、おまえも付いて行け」
「了解だ、アニキ。万が一のこいつの用心棒の役目だろう?」
「ああ。だが、呉々も元の生き方の方法は取るな」
「あの日から俺はあんたに忠誠心を誓ってる」
「バンドさん?」
「悪いっ! 流石に此れだけはタクトにはバラせない。急ぐぞ、ロウス」
バンドの促しにロウスは転送装置を作動させると二人は光と姿を変えて、空高く粒を撒き散らしながら飛翔する。
遥か彼方の一筋の白い閃光を、バースは瞳を澄みきらせて見上げていた。