1-9
ああ、太陽の日差しが眩しい。僕はベッドから降りて窓の外を見る。
時間の流れは中々早いもので、あれから3ヶ月の時がたった。
この3ヶ月の日々は決して面白いとも、楽しいとも言えなかったけど、どちらかと言えばキツかったし、辛かったし、苦しかったけど、今までのダンジョンに入り浸っていた生活よりは、強くなっているという実感というか、なんというか生産性のある有意義な時間だったと思う。
僕とライラは、上級階層、しかも60階まで攻略することができるようになった。
でも僕一人の場合、45階辺りで辛くなった。力だけのごり押しだけでは通じない魔物もいるし、仲間の大切さを思い知った。
ライラとともに攻略した上級階層で出た神器は売る必要はもうないので、使わないものは全部ライラに入れてある。
明日はとうとう入学試験がある日だ。
合格できるかわからないという不安とか緊張とかも、もちろんある。
セインさんやフェルトリエさんが面倒を見てくれたのだから、ちゃんと合格しないといけない、とも思う。
でも、今、この瞬間、そんなことがどうでもよく思えてしまう。
あれ?この街から王都って一週間くらいかかったよなぁ。
「セインさん!フェルトリエさん!明日試験って、王都ですよね!? たどり着けないじゃないですか!」
セインさんも、フェルトリエさんもぽかんとしている。
ライラは僕より先に起きて朝食を食べている。
「あれ?フェルトリエ話してなかったの?」
「……私は、セイン様が、話すものとばかり……」
「そうなの?大丈夫よ、アーツ。一瞬で移動する神器を使うから。あ!折角だし王都に一日早く行ってみる?見学見学!」
「は、はあ」
「じゃあ早くご飯食べて準備してね!」
そう言えば僕この街以外の街にいったことないな。
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というわけでやって来ました王都!
「とりあえず学園でも見てきます」
と言って、単独行動を開始した。
セインさんがついてこようとしたのをフェルトリエさんが止めていた。
ちなみにライラとも別行動だ。
王都の街並みを見てまわる。
一番目につくのは大きな城。
さすが王都、人が多い。
様々な髪の色。白い髪はあまりいない。白い髪の人は染める人が多いらしい。それは、見た目で無能者と判断されると絡まれることがあるから、そういうことをなくすためだ。
様々な種族の人たちがいる。人族、獣人族、エルフ、ドワーフ……等々。
見るものすべてが新しく見える。
しばらく歩いていると、道がわからなくなった。まあ、もともと学園の場所なんて知らなかったけど。
とりあえず道を人に聞くべきか?いや、なんか嫌だな。白い髪を馬鹿にされそうで嫌だ。
うーんできれば白い髪でなおかつ同じくらいの年の人いないかなぁ。
「ま、そんな都合のいい人いるわけないか」
「何が?」
「!!!」
いきなり後ろから声をかけられた。
咄嗟にナイフを構えようとしたけど、こんな人の多いところで出すものじゃないと自重した。
恐る恐る振り向く。
そこには1人の少女がいた。しかも白い髪の。
いや、声の高さから判断したから、もしかしたら少年かも知れないけど。
でも、整った顔立ちにサラサラなショートヘアの髪からして女の子かな。女の子だったら美少女、男の子だったら美少年だなぁとかどうでもいいことを思ってしまう。
「ん?ボクの顔になにかついてる?どうしたの?おーい」
『僕』という一人称からして男の子かな。
それより馴れ馴れしい。
「いや、男か女かわからないから考えていたんです」
「むむっ!君は失礼だね。ボクが男の子に見えるのかい?ボクは正真正銘女の子さ!このレイス・ファストル売られた喧嘩は勝てそうなら買う主義だよ!」
それは僕に勝てそうだ思っているということなのか。
僕も売られた喧嘩は勝てそうなら買う主義だ、とはわざわざ口にしない。面倒なことになりそうだし。
「喧嘩を売ってるつもりはないですよ」
「いいっていいって!敬語使わなくても!どうせ同い年でしょ?明日の試験受けに来たんでしょ?仲良くしようよ!気軽にレイって呼んでね!」
じゃあ遠慮なく敬語抜きでいこう。敬意を払う必要無さそうだし。
試験と言われて用件を思い出した。
「あ、そう言えば学園の場所知ってる?知ってるなら教えてほしいんだけど」
「知ってる知ってる。やっぱり試験受けに来たんだね!下見だね!ボクは三年前も来たことあるから学園への道のりなら任せてよ!」
「ん?三年前?え?落ちたの?中等部の試験に?」
「いやー、お父さんが『名前さえ書いていれば受かる』って言ってたからね。真に受けちゃったよ。若かったなー」
「へ、へー」
バカだなー、とか言える間柄じゃあないので言葉に困る。
「あ!そう言えば君の名前何て言うの?聞くの忘れてたよ」
「ああ、えっとアーツだよ。アーツ・オライト。気軽にオライトって呼んでね」
「よろしくね、アーツ!」
さりげなく名前で呼ぶなと言ったつもりがスルーされてしまった。
「アーツって名前何だか男の子みたいだね」
「!?」
ん?何て言ったこの人?
「え、何て?」
「だから、アーツって名前が男の子みたいだねって」
「いや、みたいもなにも男の子だよ僕」
「えぇ!うっそだー!じゃあ何でそんなに髪が長いの?」
「これは魔力は髪に溜まるから、伸ばせば魔力量が上がるから!」
「それ迷信だって、何年か前に研究者かなんかが発表してたし!」
え、セインさんに騙された!
「というわけでボクが切ってあげよう」
と、いつの間にかハサミを持って、背後にたっているレイスもといレイ。
「どういうわけだよ!いいって、ていうかやめて!」
女の子を殴ったりするのは駄目だと思うので強く出れない。ほぼ無抵抗状態でいるとうつ伏せで押し倒された。
「ダイジョブだよ、ボクを信じて!ボクとアーツとの仲じゃないか!」
「出会って三十分も経っていない仲だよ!」
僕の叫びもむなしく、髪は切られていった。
髪を切られている最中、動くのもあれなので暫しの沈黙。 レイが話しかけてこないのが意外だった。
切られること十数分。
切られた髪がチクチクして気になる。
水で流したいけどそんな魔力量を持っている白髪ではない。
「あれ?思ったより変じゃない?」
普通に似合っていると思う。自分で似合ってるとか言うのもなんだけど。
「当たり前だよ!これ神器だもん。似合うように髪を切る神器。でもボクより少し長いね。神器からみても女の子っぽいんだねアーツは」
神器を貸してもらい、へーと思う。
「その理論でいくとレイは神器からみて男の子っぽいんだろうね」
女顔と言われてムッとして、つい言ってしまった。またちょっとした口論が起こるかもしれないと思ったけど、予想は外れた。
「アハハ、やっとレイって呼んでくれたね♪」
笑顔でそう言う彼女は、見とれてしまうほどに可愛くて、やっぱり女の子だ、と思った。
それから色々話ながら学園まで案内してもらい、軽く外から見て、別れることになった。
まさか学園の中に関係者以外入れないとは思わなかった。
「じゃあねアーツ。今日アーツに話しかけてよかったよ。楽しかったよ。また明日、絶対に合格しようね!」
「うん、僕も、まあ、楽しかったよ。また明日」
とりあえず背中が見えなくなるまで手を振っておいた。
うん、別れたのはいいけど、僕はこれからどうしよう。
思念を飛ばして連絡を取り合う道具、携帯念話紙をホームに忘れたため連絡がとれない。
あ、ライラとなら話せたっけ。
(ライラ、今どこにいる?)
(アーツ?アーツか!?どこにいる!?セインは!?フェルトリエは!?)
どうやらライラも迷子中らしい。
(学園……大きな時計の下にいるんだけど、わかる?)
(おお!すぐ近くにいるぞ待ってろ!)
結構近くにいたらしく、すぐにライラと合流できた。
「アーツ髪切ったか?切ったなライラにはわかる」
「まあ切ったけど、切られたけど、このハサミで」
あれ?何で僕これ持ってるんだろ?
あ、貸してもらってから返してなかった。
今から追いかけて間に合うかな?
「ライラ、ちょっと寄る所ができたからきて」
別にレイならライラを見せても構わないだろう。別に神器ってわからないだろうし、万一バレても黙ってくれる……かな?