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1-6

揺れている


箱の状態で、プラプラ、プラプラと


フェルトリエの手に鎖を持たれて


大分ホームから離れている。というより街の外だ。他の街に売りに行くのだろうか。


そして、この女は手首に手錠をはめたら魔力を取られるとでも思っているのか、手錠をはめたら記憶を読まれるのか、手に持っている。


まあ、はめると魔力は取れなくても記憶を読むくらいライラには造作もないことなんだが。


そんなことより、ライラはどこに売られるのだろうか。


アーツの記憶を読むかぎり、人型になれる神器というものはとても珍しいらしい。

だからとても高価で取引されるだろう。

それこそ貴族や、上級層の攻略者、トップクランに位置する、金をたくさん持っている人間に買われるのだろう。


ーーーー上級層の攻略者?


セインとフェルトリエはその上級層の攻略者だったはずだ。いや、セインはともかくフェルトリエは現役で上級層の攻略者だ。

6年、6年だ。それだけあればフェルトリエ一人でも、アーツの十数倍は稼ぐことができるんじゃないのだろうか。

しかもアーツの記憶では、セインは金品を奪われた、とフェルトリエから聞かされていた。だがセインは魔法使いだ。指と口さえ動けばそれなりに戦えるだろう。フェルトリエがいたならなおさらだ。

例え本当に奪われていたとしても、探索者は金をギルドに預け、本人以外取り出せないらしい。


おかしい。


アーツは子供の頃に聞かされたからか、フェルトリエが嘘をつくとは思っていないのか、全く微塵も疑問に思っていなかったが、これはすごくおかしい。


「フェルトリエよ」


とりあえず箱の状態で話しかけてみる。

手首についていたなら記憶も読めるし、声を出さなくても頭の中に直接話しかけることもできる。まあ、今はできないが。


「…………」


無視か。まあ、別に返事をされることを期待したわけではないのだが。


「貴様の記憶を読ませてもらったのだが」

「……!?」


もちろんハッタリだ。だが、慌てて箱を手放したということは、何か読まれたくない記憶でもあるのだろう。


手から離れたので人型になった。正直いつでも人型になれるのだが、持たれているとできないと思われていた方が後々いい気がするのでこのタイミングが一番いいと思った。


「お前達はなんで……アーツに嘘をついているんだ」


もしかしたらこれでハッタリとばれるかもしれないが、下手に会話をして何も情報を得られないよりは、アーツを騙しているのか、いないのかはわかる。それだけは知っておきたかった。アーツは二人を信じているのだから。


「……少し、黙れ」


フェルトリエは服の中から本を取り出す。


どうやら、アーツを騙していたようだ。理由はわからないが、その事実だけで十分だ。


紫色の髪は、闇属性の魔法を得意としているらしい。闇属性は状態異常系統の魔法が多いらしい。


得意としているだけで、基本人は全ての属性を使えるらしい。髪が象徴する属性は他の属性に比べ身につけやすく、威力も高くなるらしい。大抵の人は一つの属性を極めるらしい。これは魔力が火は火の魔力、水は水の魔力という風に決まっているため、得意属性以外は成長しにくく、中級まではまだしも、上級以上を使えるようになるには凄い時間がかかるから、らしい。まれにエルフにはどんな魔法も使える魔力を持つ個体が生まれるらしい。


つまり、何が言いたいのかと言うと、そのまれに生まれる個体というのが、目の前にいるエルフーーーフェルトリエ・クシャム、らしい。


フェルトリエは本をパラパラとめくり、一つの魔法を発動する。



「なあ、フェルトリエよ。アーツの部屋に入ったことはあるだろう?先ほど入ったとき、何かに気がつかなかったか?」


「…………」


「アーツの部屋の神器をライラが持っているのだ!」


向かってきた状態異常系統の魔法を鏡をかざして無効化する。

三つまで魔法をストックし、その魔法を即時発動できるという神器。

普通は強力な魔法をストックして使うものだが相手の魔法を無効化してさらに使うこともできる。


ちなみにこの神器はアーツが家から持ち出してきた神器らしい。


「……チッ」


フェルトリエは本をしまい、剣を抜く。


神器の効果は他人にはわからない。フェルトリエは『魔法を無効化する』神器と思ったのだろう。


サクッと、剣の先を地面に刺す。


何をしているんだ?と、思っている時には吹き飛ばされていた。

痛い。


「な、にが……?」


強化魔法を使った気配はない。ならあの速さはあの剣にあるのだろうか。


アーツの記憶でフェルトリエが魔法以外の技を使った事がなかったので油断していた。よく思い出してみればいつも帯剣していた。


「……お前は私に勝てない……アーツの部屋にあった、ほとんどの神器はたいした金にならない、弱い物だ」


強い神器は売っていたのだろう。セインのために。


「……そういえば……お前は、私達がアーツに、嘘をついている理由を、聞いていたな……教えよう……もうじき、ここに商人が来るはずだ……連絡したからな」


フェルトリエは語り出す。


「……まず、『完全再生薬フルリバース』はもう持っている……だが使わない……使えばアーツは、セイン様のクランを、抜ける可能性が、出てくる」


「そ、そんなこと……」


「……ないとは、言い切れない……あいつが今、あのクランに、いる理由は、あの方に救われたという、恩義だ……それがなくなれば、小さなクランより、大きなクランへ行きたいと思うのが、人間だ」


「お前達には、力があるだろう。あれだけの強さがあれば、メンバーは増えていくだろう」


「……エルフは、あまり、友好的な種族ではない……閉鎖的な種族だ……以前のクランは、そこまで仲間意識のあるクランでは、なかったため、籍をおいていた、だけだ」


フェルトリエは、話が変わってきたな、と話をもとに戻す。


「……ようするに、セイン様は、アーツを手放したくないんだ」


「……なるほど、な」


(だそうだ、アーツ)


「フェルトリエさん……」


「……!?アーツ、なぜっ!」


「『何でも屋』に、ホームの前で会って、ダメ元でフェルトリエさんの居場所が知りたいって言ったら、その人の足跡を辿る神器を後払いで貸してもらえました」


何者なんでしょうねあの人……といいながらアーツはアハハと笑う。


アーツとは魔力で繋がっているため、腕にはめなくても、頭の中で、会話ができる。


だからアーツが起きた時からずっと繋げていた。話は全部聞かれている。


「フェルトリエさん、僕はあなたやセインさんを凄いと思っています。尊敬しています。僕がクランを抜けるなんてあり得ません」


「…………っ」


「正直、クランなんてどこでもいいんですよ。ダンジョンに潜りたいだけですから、僕」


「……私達は、お前を、騙していたんだぞ……それでも……」


「それでも、僕を育ててくれたのは、他でもない、二人ですから。多少の嘘はいいじゃないですか、家族、なんですから」


「……あのー」


誰かが話しかけてきた。空気を読んでもらいたいものだな、いい場面シーンだというのに。


「神器を買い取りに来た者ですが、神器は……」


「……取引は、中止だ……すまないな」


「フェルトリエさん……!」


「すまないな、じゃあすまないんですよ、本当に。夜遅くに起こされたんですよ。それなりの物を取引できないと、私が上に怒られるんですよ」


「……そうか……なら、これはどうだ……この剣は、『破壊神の黒剣』……どんな物も壊す、剣だ」


「少々お待ちください。効果を確認致します。っっ重っ!」


商人が持った瞬間、残像が見えるくらい商人がぶれ、地面に落ちた。

剣が関係ないなら、あの女の速さは身体能力か!化け物か!


「こ、効果を確認致しました。どうやら正しいようです。せ、千五……いや、二千五百万でどうでしょうか?」


「は?」とはアーツの声。そりゃあ、いつも見ていた人が持っている剣が、『完全再生薬』(千五百万)を買える物だと知ったら呆れるだろう。


「……は?」とはフェルトリエの声。冷たい声に、冷たい視線が加わっている。


「っというのは冗談でして……五千万でどうで……いや、八千万で!」


五千万の時フェルトリエが溜め息をついたら三千万上がった!


ちなみにアーツはそれはもう、ポカーンと口を開いている。


「……この剣を、手に入れたとき、仲間が死んだんだ……二人も……二人ともいい奴らだった……あいつらの命を、お前は一人四千万だと、いうのか?」


「し、少々お待ちください。上に聞いてみます」


そう言って商人はポケットから長方形の紙を取り出し、背を向ける。


アーツの記憶によれば、通信用の道具らしい。魔力を記憶させて思念を飛ばす物らしい。しかしダンジョンでは使用不可。


「えっと、そちらの言い値で買い取るらしいです」


「……二億五千万だ……それ以下では売れない」


最初の十倍になった!あの商人どんだけ吹っ掛けたんだ……。


「え!二億五千万はちょっと……ええ!いいんですか!?ああ、はい、はい、では……」


通信を切ったらしい商人が言う。


「では、最寄りのギルドでお金を払います」


こうして、ライラ達はセインのいる街へ戻ることになった。

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