1-4
まず、パーティとは、ダンジョンを探索するに当たって、組むチームのことだ。
大体、4人から6人でダンジョンに入るのがセオリーとなっている。多すぎず、少なすぎず、人が増えるかわりに一人一人の利益は減るが、死亡率が格段に下がる。
暇をもて余している探索者たちで野良パーティを作ることもあるが、よく知らない人とパーティを組むより、気心の知れた仲間と組む方が安心するし、後ろから刺される可能性も少ないので安全だ。
そんな探索者たちの思いから生まれた制度が[クラン] と呼ばれる制度だ。
クランとは、簡単に言うと派閥だ。チームといってもいい。
ギルドにそれぞれのクランの点数が管理され、競われている。
踏破階層の難度、依頼の達成率などで点数がたまり、上位のクランには、賞金や賞品が渡されたりする。
年に何回かクラン対抗の催しが開かれている。
当然上位のクランは人気が高いが、人数の上限が30人ということから、全員が全員入りたいクランに入れる訳ではない。
ちなみに、クランはギルドにある一定の金を渡せば簡単に設立できるため、その数はものすごくあると思われているが、案外その数はそれほど多くない。なぜならクランを作っても団員が増えずに設立の取り消しを申請するのがほとんどだからだ。
そして最後にパーティホームの説明をしようと思う。とはいっても、特に語ることはない。パーティホームとは、クランの団員が集まる場所のことだ。
大体クランの設立者ーーーつまるところリーダーの家やリーダーが使用している宿を指す。
そこで、クランの団員たちは情報交換や、次の日のダンジョン探索の計画を話し合ったりする。
********************
僕は僕の所属しているクランのパーティホームに着く。
(さあ、ここが僕の、僕たちのクランのパーティホームだ)
(……………………)
(まだ根に持ってるの!?……リーダー、えっと、セインさんに紹介するからちゃんとしてよ……)
(……セインとは、あの……アーツが、その……)
(ああ、記憶を読んだんだったっけ。うん。そうだよ。僕が早く強くなりたい理由で、僕がダンジョンに入る理由の人さ)
「……よしっ」
僕はドアをノックする。
鍵はかかっていない。ドアを開けて中に入る。
「セインさん、遅くなりました。アーツです」
「アーツ、お帰りなさい。随分と遅かったわね、何かあった……どうしたの、その髪は……」
「えっと……今回の探索でてに入れた神器の効果でなったみたいです」
「あらあら……大丈夫?別に私なんかのために無理をする必要はないのよ?」
「大丈夫ですよ、セインさんのためということも大きいですが、ダンジョンに入ること自体、好きですから」
そして、そうそう、と思い出す。
「今日の神器です。見てください」
(ライラ、出てきて)
箱が光、人影が現れる。
「ど、どうも。は、はじめまして、ライラだ……で、でしゅ」
「っ!あらあら、人型になれる神器……久しぶりに見たわ……あ、ライラちゃんだったわね、はじめましてセイン・オライトです。
アーツには、名字を貸しているだけで、血の繋がりは無いわ」
「は、はい。知っています。アーツの記憶を読んだ……読みましたから」
「記憶を読む……そんなこともできるのね、もしかして私のことも見た?」
「はい……すいません」
「別にいいのよ、こちらこそごめんなさい。見てて気持ちのいいものではないでしょうに……」
「えっと、その、あの……」
ライラは、箱に戻ってしまった。
「神器といっても、見た目と同じ10歳なのかもしれないわね」
「そうですね」
僕はセインさんの顔を見つめる。
濃い藍色の髪を前で切り揃え、後ろは床につくほど長い。エルフの特徴の長い耳に優しそうな青い瞳。エルフは老いるのが遅いと聞くけれど、なるほどどうみても20代にしか見えない。僕とは親子くらいに離れているはずなのに。
視線を下へ向ける。
白い肌の首。
右腕のない胴。
長袖から覗く痛々しい傷だらけの左手。
そして、両足のない下半身。
車椅子に乗らなければ、その場から動くことさえ叶わないその体にしてしまった原因は僕だ。
6年前、ダンジョンに憧れて家を飛び出し、何も考えずにダンジョンの階層を下がっていく少年ーーー僕。
握りしめた神器を、家から持ち出してきた神器を、絵本の英雄譚にでてくる強力な物だと疑わずにどんどん深い階層に進む。
モンスターに、遭遇しなかったのは、運が良かったのか、前の上級攻略者のパーティが狩って、少なくなっていたのか、その両方だろう。面白いほどに下へ進む。
そしてとうとう先行していた上級攻略者のパーティに追い付く。
少年を見つけたパーティは少し話し合ったあと、少年を地上に返すことにした。そのためには、ボス部屋に入り、ボスを倒す必要がある。上級攻略者のパーティは74階層を目指していた。30階層は余裕だと信じて疑わなかった。
しかし、その予想は裏切られた。
そのときのボスは「土鮫」だった。普通のボスと違い、複数体存在し、並大抵の攻撃では傷すらつかないダンジョンの壁を泳ぐという厄介なモンスターだった。
パーティ四人に対して土鮫は八体。少年をかばいながら戦うのは上級攻略者といえど難しいことだった。
しかし、モンスターは狡猾だ。一番弱いとわかっている少年へ狙いを定めた。
多くの土鮫が少年に向かってくるのを見て、少年は泣くことすらできずに固まっていた。その時、近くにいた上級攻略者ーーーセインは身を呈して少年ーーー僕を守った。
そのお陰で少年は無傷で地上へ戻ることができた。しかし、傷を負った上級攻略者に、他のパーティメンバーは冷たかった。クランの除名、動けないことをいいことに、金品を奪われたりした。
セインさんを慕っていたクランのメンバーも、セインさんと共にクランを脱退し、新しいクランを作った。
そこへ僕がセインさんに謝りに行き、クランのメンバーになった。
僕がダンジョンに入る理由、それは神器『完全再生薬』の発見、もしくはお金をためて『完全再生薬』を購入し、セインさんを元の姿に戻さないといけないからだ。
だから僕は魔法が使えなくても、明日またーーー階層は浅くなるだろうけど、ダンジョンへ潜る。