1-3
目の前に裸の美少女がいる。
彼女の中には僕の魔力が流れているらしい。
なるほど、それで髪が赤色なのか。納得。
彼女と僕の手首は手錠で繋がっている。
これをはずすことはできないのだろうか。あとで聞いてみようと思う。
そんなことより
さっきまではちょっと気が立っていて特にどうとも思わなかったが、人と話せる神器なんてすごいレアだ。29階層なんかで出るような代物じゃない。人の形をとれる神器ならなおさらだ。少なくとも上級階層のかなり深いところから出るはずだ。
魔力のあるなしで騒いでいたけど、もうそんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくないけど。
「ライラ」
「ん?なんだ?」
「ありがとう」
「どうした急に?まあ、感謝されて悪い気はしないぞ」
上機嫌に髪を揺らすライラ。裸なので髪が揺れるたびに大事なトコロが見え隠れしている。とても目のやりばに困る。
「ライラ、そろそろ服来たら?ーーあ、ないのか。これ来て」
僕は自分の着ていたローブを脱いで、ライラに渡す。
「おお、アーツいいところに気がついたな。正直ちょっと寒かった」
そう言ってローブを受け取る。
手首が繋がっているため、ローブは翻っているが、サイズは僕が基準なので小さな彼女を隠すことはできた。
もしライラが人間なら顔を赤くしたり、叫んだりするかもしれないけど、しないのは彼女が神器だからなのか、見た目相応的に10歳位だから気にしないのかはわからなかった。
「ねえライラこの手錠はずせないの?」
「ライラがはずしたいと思ったらはずせるぞ。ライラに逃げられないように、ちゃんと優しく接するんだな。」
ほら、とライラは手錠をはずしてみせて、すぐにつける。そしてもとの箱に戻った。
「ライラ……ローブも一緒に消えたんだけど、戻ってくるよね?」
(ああ、次出てくる時にライラが着て出てくるから心配しなくていいぞ)
「ならいいけど」
(あと声に出す必要はないぞ。ライラの顔を思い浮かべて心の中で話しかけるとライラに声は届くからな)
(こう?)
(そうだ)
今夜の月は明るく地上を照らしていた。
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「……あ、ここどこ?」
無我夢中で走っていたため、現在地がわからない。
(ライラは箱の中にいるとき外の景色は見えるの?見えないの?)
(別に見えるぞ。その正方形の箱が透明になっていると思ってくれればいい)
(なら僕がどういう道を通ったとか見てない?)
(多分わかる。外が珍しくてずっと見ていたからな、まずその道を戻って……)
ライラの指示にしたがって路地裏を進む。
どの道が正解かわからない僕は黙ってライラの言うとうりに進む。
しばらく歩いたあと、僕はライラに言った。
(ライラ……わからないなら、適当に言わなくてもいいよ……)
(いや、わかる!次は右だ!間違いない!)
(いや、でも……)
どのみち正しい道はわからないからライラに従う。
「お?無能者がいるぜ。おい!ジュド!」
「声でけーすよ、わかってますよ」
路地裏をうろうろしていると、二人の男が現れた。1人は細身の青年。もう1人は少し太った中年の男だった。中年の男は酔っているのか、顔が赤い。
ちなみに無能者とは白色の髪を持つものにつけられる蔑称。
これから僕の身ぐるみを剥ごうとでもしているのだろうか。だけど僕はこんな奴らに負ける程弱くはない。
(アーツ、大丈夫?)
(大丈夫だよ、魔法がなくてもこのくらいならいける)
(信じるけど……ライラが危ないと思ったら勝手に出てくるからな)
(なら珍しい神器を人に見せたくないから頑張らないといけないなぁ)
僕は足についているホルダーからナイフを取り出す。もちろん神器。
『幻痛ナイフ』
タイプ<短刀> の神器。
切りつけた相手に外傷を負わせない代わりに痛みを数倍にする効果がある。相手を殺さないようにするために使っている神器だ。
僕はナイフを構える。
「なんだ、やる気か?こっちはそんな気なかったんだけどなぁ。そっちがやる気ならやるしかねぇよなぁ?いくぜ?」
男の1人が動き出す。1人で十分と思っているのか、細身の青年は見守っている。強化魔法を使っているのか、その動きは普通の人間より速い。
だが、
「……そのくらいの速さなら中級階層でざらにいるっての」
男の拳を避け、その腕をナイフで切りつける。
「グァァァッッ!いてぇ、痛ェよぉ!ウグゥ、ジュド!やれ!ぶっ殺せ!」
ジュドと呼ばれた男は動かない。
「いや、ダインさんよ、弱いものいじめする趣味は俺にはないんすわ、それよりあんたが無能者に負けたことを酒の肴にした方が旨い酒が飲めそうだ。」
「はあ?おい、ジュド!」
なあ?と、ダインを無視してこちらに同意を求めてくる細身の青年ーーージュド。
僕は拍子抜けして、はあ、と、答えるしかなかった。
「えっと、無能者君?君はどうしてこんなところにいるのかな?」
「……迷ったからですが?」
「プフッ、アハハ、面白いな無能者君は。まあ、それなら話は早い。ここから出る道を教えるからダインさんのことは許してくれないか?悪い人じゃないんだわ」
「……いや、えっと……」
(ライラ、この人を信じていいと思う?)
(そんなやつに聞かなくてもライラが教えてやる!ライラの言うことを聞けばいいんだ!)
「……あ、ではそれでお願いします」
(アーツゥ!)
そろそろ戻りたいし、ここはこの人を信じようと思う。
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しばらく歩くと路地裏を抜け出すことができた。
「ここからの道はわかるかな?」
「……ああ、はい。どうもありがとうございます」
「いいって、こっちも悪かったし、それより俺を覚えておいてくれ。『何でも屋』をしている、ジュド・フォートだ。金さえ払えば何でもやってやるぜ」
「……はあ」
「じゃあそろそろダインさんのとこに戻らないといけないから、じゃあな無能者君。何かあればここら辺の誰かに俺を呼んでもらってくれよな」
そう言ってジュドさんは路地裏に消えていった。
(あの人、悪い人じゃあなかったね)
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(……もしかして道をジュドさんに聞いたこと気にしてる?)
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(機嫌直してよ、今から僕の、僕らのパーティホームにいくんだからさ)