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待っている人は少ないですが遅れてすいません。がんばります。
「……ぅぅん」
頭がクラクラする。
この感覚はあれだ。魔法を使いすぎたらなるやつ。簡単にいうと魔力枯渇。
人間は魔力がなくなると死んでしまうから体がストップをかけて意識をなくさせるとかなんとか。
原因はあの箱か。
僕の魔力量は普通の人より多いからいくら魔法を使っても、気絶どころか疲れを感じたり目眩を起こしたこともなかったのに……それだけあの箱が強力なのかもしれない。
まあ、魔力を限界まで消費させるという残念効果の神器かもしれないが……
チャリ
金属同士が当たったような、鎖が動いたような音がした。
「なにこれ……」
僕の左手首に、手錠みたいなのがはめられ、手錠の先にはあの箱がついていた。
どういう効果なんだろうか?
僕は箱に意識を集中させる。
頭のなかに箱の情報が浮かんでくる……
名称『玩具箱』
タイプ<箱>
効果:神創神器を無制限に収納することができる。また、神創神器の発動に伴う魔力の代償を代わりに払わせる事ができる。ただし、この神創神器の発動者の代償以上の魔力を超える魔力を一度に払うことはできない。
備考:この神創神器の魔力は時間経過によって回復する。
「ふむ……」
なかなかいい神器だ。神器は『収納袋』という、道具をある一定量まで入れることができる神器に入れる事ができないから必然的にあまり持っていくことができない。『爆石』などの小型の神器もあるけど、強力な神器は大きいものがほとんどだ。でも、この神器があればたくさんの神器を持っていくことができ、臨機応変に対応できる。ダンジョン攻略もはかどるだろう。
「よし!今回は当たりだったし、そろそろ帰ろうかな」
僕は奥の方にある魔方陣の上に立ち、帰還魔法を唱える。
体が光に包まれ、一瞬浮遊感を感じる。
目が見えてくるようになると、そこはダンジョンの外だった。
「ふぅ、早速ギルドに行こうかなっと」
ギルドとは、簡単にいうと、僕たちダンジョン探索者などが集まる場所だ。
モンスターから剥ぎ取る素材の買い取りや、神器の売買、依頼の斡旋などをしている。
まあ僕は死体を触ったりするのが嫌いだから、神器の売買くらいしか利用していないけど。
僕の背後が光る。ダンジョンから帰ってきた探索者だろう。ちなみに僕が光に触っていても、体の部分が、繋がる……なんてことはない。ちゃんと少しずれた場所に転送される。
出てきた探索者は、たまに一緒にダンジョンへ潜るロイドさんだった。中年の伯父さんだが、15歳に満たない僕にも高圧的な態度をとらずに平等に接してくれる探索者だ。
ロイドさんは、青色の髪をしており、水属性の魔法を得意としている。
赤色なら火属性、青色なら水属性、茶色なら土属性が得意……という風になっている。
「ロイドさん、今日は何階層へ行ったんですか?」
ロイドさんは僕を見ると、哀れんでいるような、そんな目を僕に向けた。
「誰だ?」
「へ?やだなぁ、アーツですよ。アーツ・オライト。ダンジョンで頭でも打ちました?」
「お前アーツか?あのアーツか?お前その髪はどうしたんだ?」
「髪?」
僕は言われてからようやく気づいた。
真っ白だ。僕の髪が。紅蓮に近い濃い赤色だった僕の髪が真っ白になっていた。
赤色の髪は火属性、青色の髪は水属性、では白色は?
答えは無だ。無属性の魔法が得意なわけじゃあない。無とは魔力量が極端に少ないという意味だ。使えて初級魔法、上級魔法はおろか中級魔法すら魔力が足りずに使えない。
初級階層は魔法がなくてもクリアできるかもしれない。中級階層は無理だ。いや、『爆石』などの神器を駆使すれば行けるかもしれないが割に合わない。
僕は絶望を感じた。気づけば走り出していた。目的もなく、ただ前に向かって走っていた。
どうしてこんなことになったのだろうか。原因はわかる。『玩具箱』だ。これを発動した代償だろう。探索者としてダンジョンに潜っている以上、死ぬ覚悟はできていた。自分が好きなことをしていて死ねるなら本望だとすら思っていた。
だがこれは違う。生きていながら死んでいるようなものだ。
気づけば暗い路地裏に僕は独り立っていた。
僕は手首に繋がっている箱を見つめた。少し触ったが、外れない。鍵穴もなかった。だから、怒りに任せて思い切り壁にぶつける。
ーーーこれのせいで……
ガンッ
(痛っ!)
何か聞こえた気がしたが気にしない。
ガンッガンッガンッ
(痛っうう~!!)
「?」
声は頭の中に直接流れているようだ。
「誰?」
(う?お前こそ誰だ?なぜ声が聞こえるんだ?)
「えっと、僕はアーツだ。声が聞こえる理由は知らない」
(そうか、アーツというのか。ライラの名前はライラだ。感謝しろよ、ライラの名前を知っているのはライラだけなんだからな)
ーーーこの箱か。
ガンッガンッガンッ
(え?ちょっとなんで!?ライラなにもしてないのに!)
ガンッガンッガンッ
(あ、わかった。アーツはライラの下僕になりたいんだな。だから気を引こうとしてるんだな)
ガンッガンッガンッ
(ライラさっき痛いっていったけど、実はあまり痛くないんだ。びっくりして反射的にいったというか)
ガンッガンッガンッ
(おい、アーツお前ちょっと怖いぞ?どうしたんだ?)
「ハァハァ、お前の……せいで……」
(えっ!?ライラなにもしてないぞ?何かしたか?)
「僕の……魔力を……」
(ああ、アーツがライラを起こしたのか。だから声が聞こえるんだな)
「返せよ!僕の魔力を!」
これが八つ当たりだと、頭ではわかっている。魔力を流したのは自分の意志だし、ライラはなにも悪くない。ただ、魔力をとられた物と意志の疎通ができたから、非難することができたから、こんなにも自分を抑え切れないんだ。
(…………………………)
ライラは黙った。
「…………………………」
僕も黙った。
少しの沈黙のあと、その状況を変えたのはライラの方だった。
(少し……アーツの記憶を読ませてもらった。ライラに魔力を流したから魔力がなくなったんだな。ダンジョンに潜りたいけど深いところに潜れないから、悲しくて怒っている……と。なんだ、そんなの子供じゃないか)
「お前になにがっーー」
(わかっている。それだけが理由じゃあないことも、ライラにはわかっている。いっただろ、記憶を読ませてもらったと)
ライラは続ける。
(でも、だからどうしたというんだ。魔法が使えない?いいじゃないか自分が使わなくても、ライラがいる。ライラの中にはアーツの魔力が流れているんだ。アーツが使えた魔法をライラが使えないわけないだろ?)
「いや、でも……どうやって?詠唱は省略できたとしても、魔方陣が書けないんじゃ、意味がない」
(いや、どうやってってーーー)
手首から繋がっている箱が光出す。
「こうやってに、決まってるだろ?」
そこには、長く、赤い、紅い、紅蓮の髪を二つにまとめた、10歳くらいの美少女が立っていた。裸で。
しかし、僕は裸の美少女が、目の前に立っているにも関わらず、なんのリアクションもせずに、少女のある一点……顔を見ていた。
「お、おい、流石のライラもそんなに見つめられると照れるというかだな……」
正確には頭の上……髪を。
そしてこう思わずにはいられなかった。
魔力とったのお前じゃねぇか、と






