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何気ないことからも学びましょう

ここから異世界生活2日目です

朝起きると見覚えの無いシャツを着ていました。


「ええぇ……びっくりですけどー」


頭があまり働かないし、寝る前の記憶もぼんやりしてるけど……私が自分で着替えたと言うのはありえないだろう。


「私の部屋ならまだしも、初めて来た場所で着替えを探すなんてことはしないはず」


て、ことは? 誰かが着替えさせてくれた、ってことよね。


異世界

顔と名前が一致するのは3人


「誰が!!?」


いや! 落ち着こう。常識的に考えて、カレンさんかそうでなくても女性のはず。


「救様、お目覚めでらっしゃいますか?」


あぁ……ほらね? やっぱりカレンさんなのよ。私、信じてました!


「はい、起きてます」


あわてて返事をしてベッドから降りようと掛け布団をめくりあげ――


「っ!!!!」


痛い……ビックリの衝撃で心臓が痛い。

何この子!?


「真っ赤ですけど、猫ですよね?」


「救様? どうかなさいましたか?」


「あっ! いえあの……この子、いつの間に入り込んだのかなと思って。

誰かが飼ってるんですか?」


部屋に入ってきたカレンさんに、いつの間にやら同じベッドで寝ていたらしい猫(多分)を見せる。

絵の具の赤のように真っ赤な毛並みが、血のように見えて心底驚いた。


(いやでも、カバは青かったし――――)


「これは……もしや、守護の指輪でいらっしゃいますか?」


「……は?」


「救様、指輪は嵌めてらっしゃいますか?」


「指輪?」


左手を見ると、小指には何もついていない。

えぇ? じゃあ、何で話ができるの?


「ありません」


「やはりそうですか……。

救様、そちらの方が守護の指輪だと思います。その姿が本性なんだそうですが、現れることは滅多にないそうです。

救様は守護の指輪に認められたのでしょう」


「そうでしょうか?」


真っ赤な猫ちゃんを抱き上げてみる。


「ニアー」


おぉ! 猫っぽい鳴き方。


「名前はないんですか?」


「どうでしょう。

あるのかもしれませんが、本性を現すことさえ非常に稀なので誰も知らないのではないでしょうか?」


「そっか……でも、守護の指輪が名前なんてちょっとかわいそうだし。

名前、付けたらダメでしょうか?」


「どうでしょう……」


何とも言えない表情ですね。

抱き上げた真っ赤な猫(多分)は、特に抵抗することも無く抱かれている。


「私が名前をつけてもいい?」


「ニーアー」


分かんない。

でも、逃げていったりしないし、引っ掻かれもしないから……うん、付けちゃおう!


「しかし……何て名前にしようかな?」


白猫ならシロ、黒猫ならクロ、虎猫ならトラ。だけど、赤いのよねぇ?


「赤? ないな……。

流石にストレートすぎる」


んー。

ん?


「君、目が琥珀色なんだね。指輪の琥珀は君の眼の色だったのかな?」


きらきらしてて綺麗だなぁ。


「そうだ! えっと、電子辞書は……」


ベッド脇に置いた通学鞄をあさって、再びベッドに腰掛ける。


「琥珀、こ、は、く――

あった! アンバーかぁ。これも悪くないな」


「ニーヤーニーヤー」


「わ! 何?」


突然激しく鳴きながら擦り寄ってきたよ? 何故!?


「お腹すいたのかな?」


「守護の指輪が食事をするでしょうか?」


確かに。昨日はずっと指輪だったし、普段にしても猫でいることはないって言ってたもんね。


「言葉が分かればいいんだけど……。

んー。名前に反応したのかな?」


「ニーヤーニーヤー」


お、また鳴いた。


「琥珀」


「……」


黙ったね。


「アンバー」


「ニーヤーニーヤーニーヤー」


「アンバーが良いわけね」


鼻やら頬やらしきりに舐めるので、多分喜んでるんだと思う。


「アンバーはもう指輪にはならないんですか?」


「分かりません。ですが、姿はしゅ――アンバー様のご気分で自在に変えられるのではないかと」


なるほど。


「あ、そういえば。

あの、この服なんですけど……着替えさせてくれたのってカレンさんですよね。すいません、ありがとうございました」


うぅ、ちょっと照れる。

出るところがババン! と出てるカレンさんにこの貧相な体を見られたかと思うと……。


「着替え……ですか? すみません、何の事だか」


「…………」


黙って見つめあっているうちに、カレンさんの顔色が悪くなってきた。


「ニーヤーニーヤーニヤー!」


『っ!』


しきりに鳴きながら、アンバーが吊り下げられた私の制服に飛びかかっている。

何事?


「あ……もしかしたら。

アンバー様ですか?」


「ニーヤー」


「失礼ですが、お召し物に触れてもよろしいですか?」


「はぁ、どうぞ」


「――やはりそうです。

お召し物には何か魔術がかけられています。恐らく、アンバー様が魔術を使って救様の着替えを手伝われたのでしょう」


「魔術? え? 術式じゃなくて、魔術ですか?」


「まぁ! 術式についてご存じだったとは……救様、少し御時間よろしいですか? 恐れながら、魔術形態について説明させていただきたいのですが」


「あ、是非お願いします。

おいで、アンバー」


部屋に置かれたソファーセットに腰掛け、アンバーを膝に抱き抱える。

しきりにすり寄ってくるのがくすぐったいなぁ。


「まずはこちらをご覧ください。この世界の地図ですが……この真ん中の小さな

島に、我が国『リングリア』があります。

この、少し離れた場所にある島もこの国の領土なのですが、貴重な鉱山資源の豊富な土地で、人が生活できる土地はあまり広くはありません」


「なるほど……」


食糧は輸入に頼っているものも多いって言ってたよね。きっと輸出していたのはその鉱山資源なんだろう。


「地図の左側にある大陸にあったのは、レ・カン国です。現在は、魔族の生み出した新種のキメラがそのまま野生化しているようで、人の住める環境にはありません。

また、最も大きな大陸にあったウォルドガルド聖王国は魔族の生み出した瘴気がひどく、生き物は何も存在できない状況です」


「瘴気?」


聞いたことのない言葉。何のこと?


「魔王の特殊能力なんですが、空間を汚染することです。この空間にいて生き物が生き残れるのは……そうですね、1日もつかどうかでしょうか」


殺虫剤のようなものかな? こんな広い土地全てなんて、どれほどの威力なんだろう。


「この3国において魔術式を使うのは、リングリアのみです。

他の2国において使用されているのは、魔術――呪文と魔道具によって効果をもたらす方法です。魔術式よりも手軽ですが、効果を継続的に発揮させることは出来ません」


「ということは、魔術式を使えば効果がずっと続くってことですか?」


「その通りです。魔術式は、主に生活のなかで使われています。上下水道やキッチンなどが多いのですが……何か御覧になりましたか?」


「あぁ! 見ました」


確かに。この世界、いかにも中世っぽい生活水準なのに、トイレが水洗だった。今まで気が付かなかったなぁ。


「ふむふむ。なるほどねぇ……魔術と魔術式の違いは理解できました。

で、アンバーが使ったのは魔術な訳ですね?」


「はい。この国で魔術が使えるのはアンバー様だけです。ですから、ほぼ間違いないかと」


「納得。アンバー、ありがとう」


相手が猫なら全く問題ありません。安心したよ。


「あら、大変! もうだいぶ時間が経ってしまいました。救様、ご朝食の前に湯浴みはいかがでしょうか?」


「湯浴みって……お風呂ですよね? 入ります!」


やった! お風呂に入って着替えよう。


「アンバー、行こ!」





「滝だ…………」


移動術式という敷物に乗って瞬き一回。目を開けると、荘厳な大自然でした。


「ここは、国王の私室にある術式からしか来れない場所にあります。所用を済ませましたらお迎えにあがりますので、どうぞごゆっくりおくつろぎください」


話を聞くと、移動術式は2つの術式がペアになったもので、ペアからペアにしか繋がらないとのこと。


「まさか、こんなところまで来て露天風呂に入れるなんて……驚くことばっかり」


広い岩風呂は、恐らく天然温泉。湯気が立ちこめる中、かすかに東屋も見える。


「ん、ちょっと熱めかな……」


アンバーには熱すぎるかもしれない。ゆっくりつかって、嫌がるようなら出そう。


「アンバー、大丈夫?」


「ニーヤー」


肩まで浸かったけど、暴れない。見た目は猫だけど、やっぱり私の知っている猫とは違うんだろうな。


「あー、気持ちいいねぇ」


「ニーヤー」


シャンプーやリンスは無かったけど、香りのいい石鹸を借りれたから全身さっぱりした。もう少しだけ浸かったらあがろうかな?


「極楽極楽。やっぱり温泉は気持ちいいねぇ? 効能とか分からないかな?」


……ん?

温泉、温泉――


『水はけがよすぎて作物を育てるのに向いていません』


「――あぁ!!!」


もしかしたら!


さぁ、閃きが問題解決に繋がるか、まずは提案してみましょうか?

前回出てきた謎の男、アンバー・ミスティは『守護の指輪』でした。

これからも猫の姿で油断させて、おいしい思いをする予定。


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