MIDNIGHT PRISONER
このシーンが書きたくて書き始めた小説なので、ちょっと感動です。
部屋に入るなり、ベッドへ倒れこむように眠ってしまった救。
「……」
すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
「……今日はよく頑張ったな。ゆっくりおやすみ、救」
傍らに寄り添ったまま目蓋と額に口付けると、ほんの少しだけ救が笑んだように見えた。
「…………」
どのくらいそうしていただろう。
救の寝顔とぬくもりをたっぷり堪能した俺は、ベッドから体を起こし立ち上がる。
「寝間着はどこだったか……」
服を着たままでは皺になってしまう。着替えさせたほうがいいだろう。
「用意の悪い。女物はないのか……」
仕方がない。
「少し動かすぞ? 寝てていいからな」
俺は自分の着ていたシャツを脱いで、それから救の服に手を伸ばす。
紺色のジャケット、臙脂のリボンは外すのに少し手間取った。クリーム色のベストに白いシャツ、臙脂のスカート……
「綺麗だ……」
しばらくそのまま堪能していたが、救が体を小さく丸めるようにしたのを見てはっとした。
「すまない。寒かったな……」
俺は、脱いだ自分のシャツを救に着せると、手早く脱がせた洋服を吊るして『再生』をアレンジした術を掛けた。これで、新品同然になる。
「すぐに温めてやるからな?」
丸まった救の小さな体を腕の中に抱き込む。
あぁ……やはり少し、体が冷たくなってしまったな。
風邪をひかないよう、いっそう体を寄せる。
頬に当たる栗色の柔らかな髪はふわふわと肩までの長さ。このままだと朝は寝癖で大変かもしれない。少しすいてやろうか……
「助……ちゃん」
「――――」
不意に救の唇からこぼれ出た名前に、黒い衝動がこみ上げる。それを押しとどめるために、俺は伸ばしかけていた手をきつく握った。
その名前が『双子の弟』のモノであることは分かっている。
それでも……その細い首筋から足先のいたる所に噛みついて、俺自身を刻みつけてやりたい。俺以外の全てを彼女の世界から締め出してやりたい。
そんな欲望が尽きることなく生まれてきてしまう。
「救……俺の名前も、呼んで欲しいんだ」
その瞳に姿を映してもらうことも、その声で名を呼んでもらうことも叶わない。
だからだろうか――こんなに強く求めてしまうのは。
「俺の名前は、アンバー・ミスティ
アンバーだ……」
俺自身の護る眠りにいる救に、俺の声が届かないことは良く分かっている。それでも――
(こんなに囚われるなんて思わなかった)
俺は今日、救がこの世界に召喚された瞬間から救を見ていた。
混乱して、怖がって、弟の名を呼び、立ち上がった姿には強さを感じた。
国王の手紙に怒り、悲しみ、恐怖し、涙を流し……それでも、ひとしきり泣いた後に、顔を上げた彼女はいじらしいと思った。
子供のようなことを言ってみたり、驚くほど考えの深いことをしてみたりする多面性には驚かされた。
しかし何より、あの等身大な心が、俺を捕えて離さない。
「たった1日でこれじゃ、明日からどうなってしまうんだろうな?」
想像すると、自分で自分が恐ろしくなってしまう。
契約に縛られていることが、逆に安全だとすら思うほどなのだから。
「もう、夜明けなんだな」
救……俺はお前を護ろう。それが国王と交わした契約だ。だけど、いつかその契約に終りが来たり――反故にされた時には
「俺の全てを捧げよう。
代わりに、お前の全ては俺のものだ」
夜明けと共に、さぁ、お前の命により近い場所へ……