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無力なことは罪ではありません

やっと夜になります。一日が長かった……。

目の前には、こちらを一心に見つめるお百姓さん。

後ろには『あぁぁあぁぁー』とため息をついているレティーさん。


どっ!


(どうしよう!!)


待って、落ち着いて考えよう。

おじさんたちは何て言ったっけ?


(えっと、土地がないのよね。今管理してる畑じゃ狭いと。で、新しく土地を開墾したら、作物の種類と量も増やさないと皆に食糧が行き渡らない)


だから、まずは畑を広げる事からやらなくちゃなんだけど……この国の土地は、土質が悪くて畑を作るのに向いてない。

それに……確か王様の手紙! 人の生活できるのは小さな島国だけだって。それって、この国のことだよねぇ!?

つまり、どのくらいの国土があるかは分からないけど、この国のある島の中だけで――――なんとか――――しな


「…………」


え! それ解決方法なんかあるの!?

大体私、農業についての知識何にもないのにアイデアなんて出てくるわけない!


(待って。土地の管理はどうなってるの? 空いてる土地を勝手に開墾して大丈夫? それに作物の種類を増やすって……今まで育てたことがない物をいきなり作って成功できるの? いや、その前にこの国の土地は水はけが良すぎるって言ってたじゃない!)


――あぁ、私――――


本当に、何にも知らないんだ。

この国についても、この国に今必要な知識ことについても。


私、無力だ――――。


「私……私、ごめんなさい。何も思いつきません。

役に立てそうなこと、何も知らないんです」


「……え?」


ザワリと揺れた空気に、思わず肩が跳ねる。

怖い。


責められるのかな? 無責任って、役立たずって罵られる?

だんだん大きくなるざわつきに、胸が苦しくなってきた。


(怖い……何で? 私は巻き込まれただけなのに。無理やり押し付けられただけなのに。私が責任を負わなくちゃいけないの?)


やけを起こして、全て投げだして逃げてしまいたい。

もう――


「救様、お顔をあげてください」


「……」


最初に話したおじさんの声。すごく、穏やかな声。


(笑って、る?)


「正直に申し上げます。

恐らく救様には、この世界について知っていただく時間が必要でしょう。相当に努力していただけなければならないかもしれません」


「はい……」


要するに、もっと勉強して出直してこいってことだ。


「ですがその前に……私どもの育てた野菜を見ていってください。

今年はキャベツが甘く育ちました。葉も柔らかいので、サラダにしてもおいしいですよ?」


え?


「村長? 一体何を……」


「救様は、いつこちらへ来られたのですか?」


おじさん、村長さんなんだ。


「儀式を執り行ったのがぁ、今朝のことだねぇ。鐘の音が聞こえなかったぁ?」


えぇっと、これはなんの話?


「そうですか。

それでは、まだ食事をされてないのでは? お腹はすかれてませんか?」


お腹……


「すきました……」


しまった! 思わず――


「村長! 私らにそんな余裕はないはずだ!」


「静かにしなさい。

救様は、召喚によって執政官となられた。

この国についても、この世界についても知識がないのは当然だ。それぐらい、分からないか? 

いや――知識以前に、混乱されただろうし、憤りだって……感じられたことだろう」


「それはっ! しかし……」


「そんな思いをされただろう方が、こんなに早くに我々の下へ……最下層階級の我々の下へ来てくださった。この国のために、こんなに早く動いてくださっている。

我々はそれを『当然のことだ』等と思ってはならないんだ。決してね」


「……村長」


「救様。

私はあなた様のお力を信じます。先程からのお話を聞いていて、そう確信しました。進むべき道を指し示していただければ、協力は惜しみません。

だからどうか、この国をお見捨てにならないでください」


「私……私本当はっ!」


言ってしまいたかった。

自分にはそんな力も知識もないんだって。

帰るために頑張ってるだけなんだって。

でも……


「――お腹、すいちゃいました。

畑も見てみたいです。案内してもらえますか?」


きっと、それは言ってはいけないことなんだと思う。

理不尽だと思う。身勝手だと思う。

不安だし怖いし、逃げてしまいたい。

でも、逃げ道なんか最初からないから……だから、言葉を飲み込んで、ついでにおいしいご飯もお腹に入れよう。


もちろん、不安も恐怖も無くなったわけじゃない。

覚悟を決めたから、すぐに無敵の心を手に入れられる訳じゃない。私は、物語の主人公じゃないもの。


だから私は、怖がりながら前に進もうと思う。

その方が私らしい。


「レティーさん! ご飯を頂いたらお城に帰ってもう一仕事しましょう。

あ、それから村長さん。ひとつお願いがあるんですけど――」




「救ってさぁ、なぁんにも考えてないようで、実は深ぁくいろんなこと考えてたりするぅ?」


いきなり訳の分からないことを。


「何のことですか? 急に」


「さっきのお願のことぉ。本当にビックリしたぁ」


「あぁ……でも、効率を考えるといいかなって」


レティーさんは私のお願を『ビックリ』と言うけど、私からしたらあの後見せてもらった畑の方が『ビックリ』だった。


まだ軽く混乱してるんだけど……野菜たちは、一見ごく普通の、私も慣れ親しんだ見た目をしていた。

シロップ茶に驚かされた後だったからかなり不安だったんだけど、心底安心したのだ。

それなのに! いざ口にしてみると全く違う。

キャベツですと言って出されたのは見た目はキャベツなんだけど、味はブロッコリー。

ニンジンはレタス、じゃがいもはトマトだった……。

これらにドレッシングでサラダですって。


(斬新ですねって言っちゃったけど、褒めてないって気づかれちゃったかな)


「でぇ? ファン書記官を説得できそうー?」


「……必ず認めてもらいます。それに、協力だってしてもらいます。

私は、1人で何でも解決できるような超人ではありませんから。皆さんに神経擦り減らしながら禿げるほど働いていただきます」


「禿げるのはぁ嫌だなぁ……さぁ、着いたよぉ。ここから先は執政官としての腕が試されるねぇ」


大きな城門の前に、数時間ぶりに見る姿。

カレンさんと、ファンさん。


「帰りました」


「よくお戻りになられました。何も問題はありませんでしたか?」


カレンさんは今にも抱きつかんばかりの勢いで近寄ってきた。……ちょっと、抱きつかれてみたい。


「この国の現実は、分かったか」


「はい。

私がどれだけ無知で、無力かもよく分かりました。

今私に必要なことが、基本的な知識を身につけることだってことも」


「理解できたなら、無駄ではなかったな。

今日はいろいろと疲れただろうから、明日の朝から――」


「でも! 今日農場へ行って、現場をきちんと見る事も大切だって思ったんです。

だから、明日からは皆で農場へ行きましょう。移動のときにお勉強します。皆さんにいてもらえれば、現地にいても疑問はすぐに答えてもらえますし」


「なっ!? 何を言って……正気か?」


「お言葉ですが、ファンさんこそ正気ですか? ご自分がおっしゃったじゃないですか。食糧問題は、早急に解決しなければならないって」


「それとこれとどういう関係があるんだ!」


「じゃあお聞きしますが、執務室じゃないとダメな理由って何ですか?」


「なんだと?」


「カレンさんは、お野菜育てたことあるんですか?」


「え!? い、いいえ。私は専門外ですので……」


「ファンさんは? 野菜についてや土について、聞かれてすぐに答えられますか?」


「あっ!」


カレンさんには言いたいことが伝わったみたい。ファンさんも……分かったかな? 表情も分からないから推測できない。


「すぐに答えのもらえる場所で仕事をする方が、効率いいと思いませんか?」


「なんて……狡賢いことを考える女だ」


「ずっ!」


狡賢いなんて初めて言われたぁ! ひどい!


「……身分制度はどうするつもりなんだ」


「当然廃止ですよ! どうしても廃止しないというならそれでもいいですが……上流階級の方たちに惨めな思いをさせるだけになると思いますよ?」


「説明しろ」


何でこの人はこんなに偉そうなんでしょうか?

私が口をパクパクさせている間に、レティーさんがお百姓さんたちにしたのと同じ説明をしてくれた。

それに対する感想。


「おまえは正義の執政官ではなく悪役に向いているな」


助ちゃん、お姉ちゃんそろそろ怒ってもいいかな?


「ファン書記官! 口が過ぎます。

素直に言ってしまえばいいじゃないですか」


「マクリーン術師長!」


「身分制度の廃止は、ファン書記官が長いこと訴えていた案件なんですよ。

でも、事はうまく運ばなかった。それが、救様のおかげてやっと実現できそうなんです。

心の中では救様に感謝しているはずですよ?」


え……


「素直じゃないよねぇー?」


「……どんなに論理的に説明しようと、反発する奴は出てくるはずだ。無駄にプライドも高いからな。

どうするつもりだ?」


もしかして、照れてるのかな?


「聞いてるのか!?」


「あっ! はい!

それについっては、これから相談しなくちゃなんですけど……ただ、何もかもを変えるつもりはないんです。必要な仕事をしてもらうことが第一ですから」


「そうか……」


すっかり日が落ちた。

どんな仕組みなのか、城門の周りにある街灯もどきに明かりがともる。

「ひとつだけ、言っておくことがある」


――――まだ文句があるんですか。


「――――無知も無力も罪ではない。

本当の罪は、無関心であることなんだ。


これより私は天宮執政官に忠実であることを誓います。

共に、進んでいっていただきたい」


膝を折って、ファンさんが頭を垂れる。

何この急展開!


「えっ! ヤダっ!」


カレンさんとレティーさんまで!


「たっ、立ってください! お願いですから」


立ってくださいー!!!


3人を立たせるのに結構な精神力を使ってしまいました。


やっと、私に用意したという部屋に通された時にはもうふらふらで……制服も脱がずにベッドに倒れこんだのです。


とにかく今日は、おやすみなさい――――

見た目と名前が一致する食物は小麦のみ。

あとは何だかズレてます。

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