食糧自給率が問題のようです
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今回は少々残酷な表現があります。苦手な方はお気を付けください。
休憩中、おやつ代わりに鞄に入れていたカロリーメイツをレティーさんと分けて食べた。
「何これぇ、うまぁい!」
「もうありませんから、その手をひっこめてください」
で、今は再びベルの背中に乗って移動中。
「……あの、ちょっと質問いいですか?」
「んー?」
「さっきから見てると、家も道も壊されたような跡がないんですけど……あの、魔族と戦ってたんじゃないんですか?」
魔族と口にするのはかなり抵抗があるけど、疑問を解消する方が重要だし。
恥を忍んで口に出した。
「あぁ、そういうことねぇ。
あのねぇ、ここは魔族の『牧場』だったんだよ」
「は? 牧場、って……どういう事ですか?」
「この世界にはねぇ、大きな大陸が2つとぉ、その間に小さな島が2つ。それだけしか陸地はないんだぁ。
魔族はねぇ、その大陸で破壊と虐殺を繰り返してぇ、とうとう強大な力を持っていた2つの国は滅びちゃったわけぇ……。
にもかかわらずぅ、この国がある島にはなぁんにもしてこなかった。
救は、何でだと思う?」
「……」
分かってしまった。
『牧場』の『人間』は殺さない。
つまり、全ての人間を殺してしまったら、もうそれ以上人間を――――。
「怖がらせてごめんねぇ。大丈夫。もうそんな魔族はいないから。
……手、冷たくなっちゃったねぇ」
眼下に見える風景は、緑が多く穏やかだ。私がイメージする中世ヨーロッパの街並みはこんな感じです。
というような石造りの建物に、風車や水車も確認できる。
その全て、そこに生きる全ての人が、いつか来る『狩り』の日に怯えていたんだろうか。
(やっと解放されたのに、今度は食糧が無くなるかもしれないなんて……)
あれ? 何だかそれって、今の牧場話と被る気が――
(これ、同じ考え方で身分制度を廃止させられるんじゃない?)
私すごい! この考え方で説明すれば、ファンさんを説得できるかも!
帰ったら早速話をして、何が何でも身分制度を廃止してもらおう。
「――プラスに考える事にします。
この国はどこも壊されてないんですよね? だったら、復興するのも早いですよ。
早くこの国が元に戻ってくれれば私も早く帰れるし。
うん、そう考える事にします」
「……そうだねぇ。
それぐらい図太い神経の方が、復興事業を担当するにはいいのかもしれないねぇ」
図太いは、褒め言葉ではないと思います。
「あぁ、そろそろ着くよぉ。
ベルぅー、街道の端に降りてぇ」
「わぁ……結構広いですね」
見渡す限りの広い土地に、25メートルプールぐらいの広さに区切られた畑が作られている。
「ベル、ありがとう」
「ゆっくり休んでてねぇー」
さて、ここの管理をしている人はどこにいるかな?
「誰だい? ここで何してるんだね」
「あっ! あの、ここの畑をお世話してる方ですか?」
「そうだが……お譲ちゃんたちはお遣いかね? 何を頼まれたんだい?」
「お譲ちゃん……たち?」
物置のような小屋の陰から出てきたのは、目の細い中年男性。
にこにこ話しかけてくれて悪気はないんだろうけど……何だかレティーさんの気に障ってるみたいですよ?
「お遣いではないんです!
――はじめまして。私、先ほどこの国の執政官に就任しました、救 天宮です。
畑のお手伝いをさせていただきたくて来ました」
「……は? なんですって?」
おぉ! この世界に呼ばれてはじめて、私が誰かを驚かせた! ちょっと嬉しい。
「――俺から説明させてもらいます」
私の自己紹介後、何故だか大きくため息をついたレティーさんがこれまでの経緯を簡単に説明してくれた。
(ちょっとストレートすぎたかな?)
「なるほど……話はわかりました。
ですが、身分制度の廃止など本当にできるとお考えなんですか?」
「はい。ちゃんと根拠もあります」
レティーさんの説明を聞いたおじさんは、お百姓の仲間を集めてくれた。
そこで再びレティーさんからの説明が入り、今に至る。
「お聞きしても、よろしいですか?」
「もし身分制度を残しても、上流階級と言われる人たちは結局没落するでしょう。
だって今この世界で一番価値があるのは、皆さんの作ってる農作物なんですから」
「あぁ、なるほどねぇ」
レティーさんは気がついたみたい。
対して、お百姓さんたちはまだ納得出来てない様子。さて、なんて説明しよう?
「いいですか? 人間はどうしたって食べないと生きていけません。全ての国民は、皆さんの作ったものを購入しますよね? そうなれば物価……物の価値を決めるのは、お百姓である皆さんということになる。
だから例えば――階級の上の人に、優先販売価格と言って高値で売ることだって出来るわけです。
階級が上であるほど、税金は高いと聞きましたから、今言ったようになれば自然に上流階級の人間は没落するでしょう」
「不当に搾取される可能性だってあるだろう! そうなれば、俺たちこそ生きていけない」
「もしそうなったら、2年後にはこの国が滅びるだけです。
皆さんが1番良くご存じでしょうが、農業は素人が簡単に出来るのもじゃない。皆さん亡き後、残った人間で次の年までに作物を作ることはまず不可能でしょう。
つまり、この国が存続するには皆さんが必要不可欠だと、そういうことになります」
「執政官殿が言った流れにならないよう、向こうもいろいろ策を練ってくるかもしれないけどぉ……でも、最終的に強いのはやっぱりここにいる人たちなんじゃないかなぁ? 何といっても命そのものを握っているようなものだしぃ」
「では、本当に……身分制度をなくすことができるんですね?」
「はい。必ずやり遂げると、お約束します。
だから――どうか、今私が話したやり方は絶対に取らないと約束してください」
「……そうですね。
他でもない、召喚によっておいでになった執政官様の頼みですから。約束を守っていただけるなら、私達も必ず守ると誓いましょう。
皆、異存はないだろう?」
おじさんがお百姓さんたちを見回すと、皆しっかりうなずいてくれた。
(良かった……)
「ありがとうございます。
では、本題に入らせてもらってもいいですか?」
「本題? 今のお話ではなかったんですか?」
「違いますよ! 最初に言ったじゃないですか。
畑をお手伝いに来たんです」
「は? 本気でおっしゃってらしたんですか?」
「もちろんです。
書記官が『1番の問題は人手不足です』と偉そうに言っていたので、手伝いに。
草むしりでも水やりでも、出来る限りお手伝いします!」
ブレザーを脱いでワイシャツの腕をまくる。
畑仕事は小学校でやったキュウリ栽培以来だけど……やってやれないことはないはず!
「いや! それはちょっと――」
「え?」
何でそんなにあわてているんですか?
「あぁー。
今、執政官殿の指示で新たに住民調査をしてるのでぇ、難民を含め農業従事経験のあるものは数日のうちに派遣されると思いますぅ。
皆さんには人の管理などもお手伝いいただくことになるかもしれませんが――」
「ちょっと待ってくれ! 確かに人手が足りないのは事実だが、それよりも農地の確保が先だ。
今人手を送られても、新たに開墾する土地がなけりゃ人手は余るだけになっちまう」
「この国の人口が今どれだけかは知らないが、今俺たちの作ってる作物だけじゃとても足りないはずだ。
もともとこの国は、かなりの食糧を輸入で賄っていただろう?
人手が確保できるのは確かに助かるが、その前に土地の確保をして作物の種類と量を増やせるようにしなけりゃならない」
なんだって?
何その話……私、聞いてませんけど!?
「救、説明最後まで聞く前に飛び出してきたじゃぁん。
自業自得だねぇ」
「問題は、それだけではありません。
この国……いいえ、この島の土地は、基本的に農作物を育てるのに向いてないんです。その中でもこのあたりはまだ養分もあり、土質も良かったので農地として開いてきましたが、他の土地は水はけが良すぎて作物を育てるには向きません。
山にはまだいい土がありますが、切り開くのは時間がかかりすぎます」
あの、問題が多すぎるんですけど?
(ファンさんの言ってた『現実』って、この問題のことだったんだ!)
「救様、何かいい案はないでしょうか? 我々としても、生き残った全ての人に生きながらえてほしいとは考えているのです。
ご指示があれば、身を粉にして働きます。どうか、お知恵をお貸しください」
お、拝まれてる!
どうしよう、本当に困った! 私、キュウリしか育てたことがないんですけど……。
皆がご飯を食べれるように、さぁ、何かいいアイデアをひねり出してみましょうか?
異世界 ベルエッジ
もっとも大きな大陸は北アメリカ大陸ほどの広さ。
もう一つの大陸は南アメリカぐらい。
リングリアはその二つの間にあって、オーストラリアより少し小さいくらい。日本の国土程の広さを持つ飛地がある。