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出張には空路を行くのが便利です

やっと『らぶ』のシーンです!

「甘く考えてたなぁ……車はないだろうとは思ってたけど、まさか移動手段がこの子とは思わなかった」


目の前で大口を開けているのは、真っ青なカバ。

その背中には、巨体に似合わぬ蝙蝠に似た小さな羽。


(いやいや、さすがにあれでは飛べないわよね。

いくら魔法使いのいる世界でも――)


「ベルゥー、羽おっきくぅ」


ボバッ!


「!!?」


レティーさんの言葉に反応して、小さな羽が一気に広がる。


「はは……。

服装はおかしいしお茶はシロップだしヒポは空を飛ぶかもしれないのね」


せめて畑と野菜は、常軌を逸した外見ではありませんように。


「僕の飛行獣ぅ、ベルだよぉ」


「飛行獣ってことは……飛びますか? この、ベルちゃん」


「もちろんだよぉ。あぁ、執政官の世界には居ないのかぁ」


「あー、とっても似た生きものは居ます。

ただ、空は飛べないので、ちょっとビックリしちゃって」


「そぉっかぁ。どうでもいい情報ぉありがとうぅ」


「……無駄話してすいませんでした」


レティーさんは、口が悪いのか腹が黒いのか……果たしてどっちなんだろう?


「じゃぁ、乗ってくれるぅ? あぁ、まだ死にたくないんだったらぁ、ベルの耳には触らない方がいいよぉ」


(聞かない。どうなるんですかとは絶対に聞かないもん)


ヒポを見上げると、立派な背中に座椅子のようなものが付けられている。

きっと、アレに座るんだろうけど……。


「あの……すいません。ちょっと1人では無理そうなので、手を貸してもらっていいですか?」


うん。あの、嫌そうなとか、苦虫を噛み潰したようなとか、眉をしかめるとか……とにかく、そんなリアクションが返ってくる覚悟をしていたわけです。

えぇ、私だって学習します。

だから、お腹にぐっと力を込めてレティーさんの様子を窺って……


「え――」


「……しょうがないなぁ。一気に鞍の中に入るんだよぉ? さっきも言ったように耳には触っちゃダメだからねぇ」


「は……い」


(びっ、びっ!!)


「さ、立ってぇ。

1、2、3で上げるからねぇ――1、2、3!」


「わ! っと」


びっくりした!! 何今の!? はにかんだようなあの笑顔!

何今の!? 私より10センチは身長が低いのに、ひょいって! 私、ひょいって持ち上がりましたけど!?


美少女! まさかの女の子? いやいや、だから私をヒポの背中まで抱き上げたじゃない。男の子よ。


(でも……私がもし男の子だったら、レティーさんに恋しちゃってた、かも)


「って、それはそれでダメなんじゃない?」


「何ぶつぶつ言ってるのぉ? 舌噛むよぉ」


「っひゃぁ!?」


飛・ん・だ!!

いや! 跳んだ!!


(羽ではばたくんじゃないの!?)


ブルーヒポは驚異のジャンプ力で高く跳び上がり、パラグライダーのように少しずつ降下しながら飛行してる。

ここへ来て数時間。驚くことに消耗しすぎて、まだお昼前なのにもうお腹がすいてきちゃった。


「途中で一回休憩取るけどぉ、お昼には到着するからねぇ」


「はい。ありがとうございます」


お腹鳴っちゃわないように気をつけな――


「!!?」


(え? 何? 何で!)


「あ、あの! 手が……」


「んー? なぁにぃ?」


ひぃぃぃ! お腹が鳴りそうだって思ったそばから、お腹に手を回さないでぇ! 音がしなくても、これじゃあ振動でばれてしまう!


(ダメっ! そんなの恥ずかしすぎる)


頬と耳が熱い。

赤くなってるかも……。


「あの、離してもらえませんか?」


「えぇ? だぁめぇ。ちゃんと捕まえてないとぉ、落ちちゃうかもしれないからねぇ」


耳元でクスクス笑ってる声がする。

完全にからかわれてる!


(いじめっ子だ! 今確信したわ。レティーさんは腹黒!)


「うぅ……。

レティーさん、何でそんなにご機嫌なんですか? さっきだって……手伝ってなんて言ったら、さぞ嫌そうな反応が返ってくるだろうと思ってたのに」


会話だ。会話を続ければ、音だけは誤魔化せるかもしれない。


「んー? 何でだろうねぇ?」


むぎゅう


(ひえぇぇぇ)


お腹刺激しないでぇ! 鳴っちゃうでしょ!?


「俺はねぇ、こんなナリしててもぉ男だし騎士なんだよねぇ。守る側なのぉ。

分かるぅ?」


「もっ、もちろんです! レティーさんは騎士団長だから一番強いんですよね。ちゃんと覚えてます」


「……救って、素直なお馬鹿さんなんだねぇ。

ふふふ……ねぇ? こんな密着すると、ドキドキしちゃうねぇ? 救はこういうの慣れてなさそうだしぃ」


(嘘だ。これだけ密着してれば、心拍数だって分かるんだから!)


「いいえ。

これぐらいなら日常茶飯事でしたから、平気、で」


間違えた! 平気って言ったら離れてもらえないじゃない。


(もう……正直に離れてくださいって言おう。

いつお腹が鳴るかびくびくしてるよりいいもの)


「……へぇえ? それはぁ意外だなぁ。

恋人ぉ?」


あ、手を離してくれた。よかったぁ……。


「いいえ。双子の弟です。甘えぐせが抜けなくて、いまだにくっついつくるんで……だから、密着すること自体は、慣れてるんですけど。

でもあの! 離れててもらえますか?

その……聞こえると恥ずかしいので」


「なかなか意味深な事を……ま、いいかぁ。あんまり追求して、うっかり落ちたらシャレにならないしねぇ。

さて、そろそろ休憩にするよぉ」


「あ、はい」


いつの間にか、ヒポはかなり高度を落とし、速度も緩やかになっている。

良かった……どうやら、私で遊ぶのに飽きてくれたみたい。


「ベルに水を飲ませたらぁ、すぐに出発するからねぇ」


「わかりました。

ベル、もう少しお願いね」


首すじ(多分)をなでると、耳がぴくぴく動いた。


「任せとけぇ! だってぇ」


さあ、ベルの給水と一緒に早めのお昼休憩にしましょうか。

――お腹も鳴ってることだし。

ケテロネ


青い羽の生えたカバ。

驚異的なジャンプ力を持つ。見た目よりずっと体重は軽い。

耳を触ると乗っている人間を振り落とすので注意が必要。

性格は温厚で、人懐っこいがスタミナがないのであまり長距離の移動は出来ない。

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