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生贄は舞台に上がる為に微笑む(プロローグ)

初めて書いたものです。

恥ずかしさしかないですが、いろいろご指摘いただけるとありがたいです。

よろしくお願いいたします。

 『力とは何だと思う』


 興味のなさそうなガラス玉のように無機質な眼で夜明(よあ)は訊ねてくる。

 大きな眼に気品のある顔立ち、気だるげなのに優雅な雰囲気、声は硬質な艶を持った色気のある声質だった。


 『久しぶりだね、暮月(くれつき)


 声質に反して、眼に続いて声までも無機質に響く。ギャップがより声の無表情を感じさせる。

 質問に続いた言葉はどうやら初めから問いに対しての答えは期待していないようだ。

 なにより、久しぶりなんて全く思ってないくせに。

 

 『ひ……

 『答えは今じゃなくてもいいよ、でもいつかは答えてね』


 久しぶりと言おうとした俺の言葉を遮って夜明は続ける。マイペースな奴だ。ちなみに本当に久しぶりと言いたかったのに。

 十年ぶりに再会したのに感動の挨拶はないものかなっと、暮月は自分が期待していたものと違う再会の形に少し寂しさを覚える。予想通りにいかないのは分かり切ってたことだけど、もう少し俺に対して反応してほしかった。いや、寂しさを覚えたのは記憶の中の夜明と、今、目の前にいる夜明が違って見えるからかもしれなかった。

 昔の夜明は賢いけど優しくて何より寂しがり屋だったから。

 

 『久しぶり、夜明』


 やっと言えた一言に、精一杯の笑顔を作ろうと思ったけど、はにかむようなちょっとぎこちない笑顔になってしまった。本当は、もっと上手に笑う事が出来るのにいざって時にうまくいかないのは何でだろう。


 『で、暮月はこんなところに何しに来たの』


 はにかんでいる暮月を気持ち悪い物でも見るかのように、夜明のガラス玉の瞳が軽蔑の色を浮かべる。 

 それを見て暮月はこっちの気持ちなんかこれっぽッちも考えていないなと思いイラっとする。

 俺だって男相手にはにかんでる自分は気持ち悪い。夜明が女の子だったら今の俺は最高に嬉しかったけど、昔の俺は男同士で嬉しかったと思っていたんだから、男ってのは自分の都合ばかり考えて勝手な生き物だ。でも、十年ぶりに再会したんだから感動の再会を想像したっていいじゃないかと思う。まあ、感動の再会というよりは未知との遭遇って感じだ。こいつは本当にあの夜明なのかと疑ってしまうほどにあのころと違う。

 とはいっても、あの頃の記憶なんて定かじゃないし、美化されているだろう。

 お互い一緒に居たのは5歳までなんだから。それでも夜明のことを一番信頼できる奴だと思っていた。理由は分からないし、説明もつかない。その気持ちが一方通行の気がした。


 もちろん俺にも夜明にも十年間が与えられていたのだから、変わるのも仕方ない。けど、変わっていて欲しいとは思わなかった。変わっていて欲しいというよりも変わっているなんて想像していなかった。少し考えればわかることなのにそれに思い至らなかった自分に暮月は呆れる。

 

 そう、人は自分が当事者になって初めて思い至る。

 そして、他人事であることはいつまでも他人事。

 考えればわかることなのに、考える事すら出来ない。


 きっと、想像力がないわけじゃない。だから、悲しいんだ。


 そうして、自分の思想にふけっていた俺に


 『で、暮月はこんなとこに何しに来たの』


 もう一度言う。すこし、意地悪な眼をしている。

 どうやら、質問に答えてくれないことに苛立っているらしい。


 『その、質問に答えるのはお前が俺の問いに答えてくれたら答える』


 夜明の眼が意地悪な眼から鋭い怒気を孕んだものに変わる。


 『お前なんて言うな』


 夜明はお前と言われたことに気分を害したらしい。

 俺には親しみに響く言葉は、夜明には苛立ちを覚える言葉。

 言葉の距離感は難しい。同じ言葉なのに、まるで意味が変わる。


 『悪かった』


 正しい言葉ではないけれど、この場を収める言葉ではあると思う。だから、俺はその言葉を使う。

 言葉通り俺は悪かったのか。相手に嫌な思いをさせたから悪いと言えば悪いのは俺だろう。でも俺は親しみをこめていった。答えは人それぞれ、そこに落ち着くしかない。

 そんな俺を見る夜明の眼は、無機質なガラス玉の眼に戻っていた。

 夜明の中の怒気が収まったのか、感情をあらわにするのが嫌になったのかはわからない。


 『で、さっきの質問だけど答えてくれる』


 俺は話を戻した。


 『質問の内容によるよ』


 言いたくなさそうな表情で夜明はそういう。質問の内容はわかっている、そんな顔をしてる。


 『覚えてるだろ、十年前の約束』


 『覚えてるけど、迷ってる』


 歯切れの悪い言葉に俺の表情は沈む。


 『迷ってる……か。確かに俺たちはあの頃よりいろいろ知って、いろいろ手に入れた』


 『うん、いろいろ忘れて、いろいろ失った』


 それが良いことなのか、悪いことなのか分からない。結果が出ても答えが出ないことに戸惑っている。二人とも同じような顔をしている。


 『それでも、俺は実行したいと思ってる』


 『そのための十年……だもんね』


 『そのための十年だ』


 お互いに自分を納得させるように言葉を繋いだ。

 今の自分と昔の自分、それぞれがそれぞれに約束を果たす為に。


 『その為の舞台はもう整えているからね。後は舞台の上で役割をこなすだけ』


 『ここに来た時から答えは決まっていたくせに』


 意地悪な眼を返すように、俺は夜明を見る。


 『誰かへの復讐で』


 『誰かには希望の光』


 『戦うための牙をやっと手に入れたんだ。牙を欲する者たちと一緒に戦おう』


 『牙を持ってなかった頃の悲しみを広げないためにね』


 俺は勝気に微笑み、夜明は悲しく微笑んだ。


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