8話
「みんな、今すぐ離れろ!
プラズマから距離を取れ!」
ヒカギは首から下げたカメラを操作しながら叫ぶ。
そして、そのままセイタに向き直った。
「これまでの分析が正しければ……
あのプラズマを消す方法は一つしかない。
直接、内部に入って待つんだ。
そうすれば、指輪がまた光るはずだ」
「正気ですか!?
あの時、死にかけたのに、
また同じことをやれって言うんですか!」
イナオカが制止しようとした、その時。
セイタはまっすぐイナオカを見据え、言い切った。
「でも……本当かもしれない。
今やらなきゃ、ここにいる生徒たちが全員死ぬ」
「それでも……!
危険すぎる。
お前だって、わかってるだろ!」
「できるのは、俺たちだけだろ。
ここにいる誰も、
プラズマを消した経験なんてない」
「……急げ。
嫌な予感がする」
濃い紫色を帯びたプラズマの周囲で、
空気が深く、激しく吸い寄せられていく。
引き寄せられる途中、
周囲にあった木の枝が、
くるくると回転しながら、イナオカの方へ飛んできた。
避ける間もなく迫る枝――
だが、
ヒカギが一歩早く踏み込み、
その枝を素手で掴み取った。
「……あ、ありがとうございます」
「セイタ、急げ。
いつ爆発してもおかしくない」
ヒカギの言葉に、セイタは小さく頷くと、
一切の迷いも見せず、
そのままプラズマへ向かって走り出した。
走る背中に、恐怖の色は微塵もない。
飛び交う木の枝を軽々と避け、
次の瞬間には、セイタの身体はプラズマの中へ消えていた。
何の準備もなく、
ただ飛び込んでいくその姿を見て、
イナオカはその場で足踏みすることしかできなかった。
――確かに、公園でプラズマを消滅させたのはセイタだ。
指輪から光が放たれ、吸い込んだのだと、
ヒカギ自身が言っていた。
プラズマを徹底的に分析してきた人物の確信を、
簡単に疑うことはできない。
それでも――
不安が胸を占めるのも、紛れもない事実だった。
たった一度、偶然うまくいっただけ。
その“一度”を信じて再び中へ入れば、
今度こそ爆発するかもしれない。
頭が痛くなるほどの不安に耐えながら、
イナオカは深呼吸をし、
「消せるかもしれない」という僅かな希望に縋って、
じっと見守った。
隣では、ヒカギがカメラを構え、
懸命にプラズマを撮影している。
だが時間が経つにつれ、
イナオカは違和感を覚え始めた。
――ヒカギの映像では、
中へ入って数分も経たずに現れた“光”が、
いくら待っても見えない。
その事実に気づいた瞬間、
背筋を冷たいものが走った。
そして――
プラズマの色が、ゆっくりと紫に染まり、
吸引の力が、明らかに強まっていく。
これは、おかしい。
セイタを助けなければ。
そう思い、プラズマへ駆け出そうとした瞬間、
イナオカはヒカギに腕を掴まれ、止められた。
「中に……まだセイタが……!」
「プラズマを消したのはセイタだ。
君まで入って、そこで爆発したら、
被害者が増えるだけだ」
その言葉を噛みしめるように聞いた後、
イナオカは冷え切った視線でヒカギを睨みつけた。
「……じゃあ、
セイタが怪我する可能性をわかってて、
中に行けって言ったんですか?」
ヒカギは明らかに動揺し、
喉を震わせながら言葉を詰まらせた。
「あ、いや……その……
そういう意味じゃ……」
短い沈黙。
その直後、
まるで暴走するかのような異音とともに、
プラズマが完全に紫へ変色し、荒れ狂い始めた。
ヒカギがその光景に気を取られた一瞬。
イナオカは掴まれていた手を強く振りほどいた。
怒りが込み上げたが、
言葉をぶつける代わりに、
全力でプラズマへと走り出す。
「……っ!」
周囲からは、
「え、え……!?」という生徒たちの声、
そして背後から――
「待て、イナオカ!」
ヒカギの叫びが聞こえた。
だがイナオカは振り返らない。
そのまま、プラズマの中へ飛び込んだ。
内部は、外とは比べものにならないほど静かだった。
前回と同じように、微かに引き寄せられる感覚はあるが、
まるで空を泳ぐように、
思った方向へ自由に進める。
その不思議さに一瞬意識を奪われたが、
すぐに我に返り、周囲を見渡す。
中央には、前と同じ丸い物体。
そこに、力なく貼りつくようにしているセイタの姿があった。
足元には、
学校の風景が立体的に映し出されている。
セイタはイナオカに気づいていないのか、
周囲を見回すばかりだ。
必死に名前を呼ぶが、
前回と同じく、声は出ない。
息もできない。
さらに、
あの丸い物体の方へ、
自分の身体がゆっくりと引き寄せられていく感覚があった。
イナオカは、
状況を理解することよりも、
「セイタを助ける」ことを最優先に決め、
中央へ向かって泳ぐように飛んだ。
その途中、
セイタの動きが止まったのが見え、
焦りのまま手を伸ばす。
――届いた。
丸い物体のそばに辿り着き、
力なく垂れていたセイタの手を掴んだ、その瞬間。
待っていたかのように、
指輪が強く輝き始めた。
光は一瞬でプラズマ全体を包み込み、
渦を描きながら、
すべてが指輪の中へ吸い込まれていく。
やがて、
プラズマは完全に消え去った。
次の瞬間、
二人はその場に崩れ落ちた。
周囲から、
歓声と拍手が一斉に巻き起こる。
その中に、
小さく名前を呼びながら駆け寄ってくるヒカギの声が混じっていた。
イナオカとセイタは、
荒い呼吸を繰り返しながら、
ただその場に座り込んでいた。
近くまで来たヒカギは、
言葉を選ぶように、ためらいがちに口を開いた。
「……急に、こんなことに巻き込んでしまって、すまなかった」
先ほどのやり取りを知らないセイタは、
「大丈夫です」と軽く返しながらヒカギを見た。
そしてカメラを指さし、
手振りで「撮った映像を見せてほしい」と伝える。
映像の中では、
イナオカがプラズマの中へ入ってから、
少し時間が経った後に光が発生していた。
それを見たセイタは、驚いたように声を上げる。
「……イナオカ?
イナオカも、入ってたの?」
荒い息を整えながら、
イナオカは顔を上げ、セイタを見て答えた。
「……待ってても、
プラズマが消える気配がなかったから。
せめて、君だけでも助けようと思って……」
その瞬間、
イナオカとヒカギの視線が、静かに交差した。
だがヒカギは、
目が合った途端、
すぐに顔を逸らし、視線を逃がした。
その微妙な空気を察したのか、
セイタは二人を交互に見つめ、
ズボンの埃を払って立ち上がる。
「……でも、
今回のことで、
プラズマを確実に消せるってわかったのは、
不幸中の幸いですね」
ヒカギは、
どこか歯切れの悪い声で、
「……ああ……」
とだけ答えた。
イナオカもスカートを払って立ち上がる。
だが、
ヒカギに向ける視線から、
警戒と不信の色が消えることはなかった。
その様子に気づいたセイタが、
「二人の間に何かあったのか」と聞こうとした――
その瞬間。
もう一度イナオカとヒカギの視線が、静かに交差した。
まだ日本語が下手で翻訳機に依存して文を書いたので、誤訳があるかも知れません。 多少変な翻訳部分があっても些細なハプニングだと思ってくださって面白く見てください。




