6話
「セイタ、危ない!」
その瞬間、
濃い紫色だったプラズマが、次第に明るい紫へと変わり、
より激しく周囲を巻き込み始めた。
イナオカは引き寄せられないよう、咄嗟に背を向けてその場を離れようとした。
だが、プラズマの近くにいたはずのセイタの姿が見えない。
――次の瞬間。
セイタが、プラズマの中へ吸い込まれているのが見えた。
身体のほとんどがすでに内部へ引き込まれ、
ただ片腕だけが、外へと伸びたまま残されている。
逃げなければ――
頭ではそう理解していた。
だが、身体は逆に、プラズマへと向かって走り出していた。
イナオカは、
外に残されたセイタの腕を掴み、
全身の力を込めて引き戻そうとする。
しかし、
プラズマの引力には抗えず、
二人はそのまま、一緒に内部へと吸い込まれていった。
内部は、まるで宇宙のようだった。
空気が存在しないかのように、息ができない。
セイタが言葉を発せなかったのも、
きっとこのせいだと、イナオカは思った。
周囲には、無数の星が漂い、
二人を取り囲んでいる。
呼吸ができず、苦しいはずなのに、
目の前に広がるあまりにも美しい光景に、
イナオカは一瞬、我を忘れた。
――セイタが学校で言っていた通りだ。
本当に、宇宙の中を漂っているみたいだ。
そのとき、
自分たちが、どこかへ微かに引かれている感覚に気づく。
慌てて周囲を見回すと、
先ほど目にした、あの丸い物体の方へ、
少しずつ近づいていっていた。
月にしては小さすぎる。
そもそも、形も似ていない。
正体のわからない白い球体へ、
二人はゆっくりと近づいていく。
やがて、
セイタの身体が先に、その球体へ触れた。
その瞬間、
セイタの手から光があふれ出した。
――正確には、
彼がはめていた指輪が、強く輝いたのだ。
次の瞬間、
眩い光が弾けるように放たれ、
二人は、プラズマの内部から外へと弾き飛ばされた。
同時に、
紫色へと変化していたプラズマは、
跡形もなく消え去った。
まるで、
最初から何事もなかったかのように。
二人は、
溜め込んでいた息を、一気に吐き出した。
「……セイタ。
俺たち……生きてるよな?
死んだ……わけじゃないよな?」
「……たぶん。
プラズマが爆発した跡もないし……
でも、なんで急に消えたんだ?」
「……君の指輪。
急に、光ったんだ」
息を整えていた、そのとき。
イナオカは、
誰かに見られているような感覚に襲われ、
反射的に右側の草むらへ視線を向けた。
だが、
そこにあるのは静けさだけで、
人の気配は感じられない。
突然の行動に、
セイタもつられて草むらを見ながら声をかける。
「……どうした? 何かいるのか?」
「……いや。
誰かに、見られてた気がしただけで……」
「さっきまで、あんなことがあったんだ。
気のせいだろ。
今日はもう、家に帰って休もう」
二人はそのまま立ち上がり、
ベンチに置いていた鞄を手に取ると、
静かに山を下り始めた。
公園にいた間は、
胸が締めつけられるように不安だった。
だが、山を下り、
車や人の姿が目に入った途端、
少しだけ、心が落ち着いた。
家へ向かう途中も、
二人はほとんど言葉を交わさなかった。
セイタと、
こんなにも静かに並んで歩くのは、
初めてだった気がする。
その沈黙の中で――
セイタが、慎重に口を開いた。
「……このことは、誰にも秘密にしたほうがいいよな?」
イナオカは答えず、静かに頷いた。
家がもうすぐだと知らせる分かれ道で、
二人は「また明日」と言葉を交わし、
セイタは左の道へ、イナオカは右の道へと別れた。
家に着くなり、イナオカは玄関に座り込んだ。
今まで張り詰めていた身体の力が、一気に抜けたからだ。
鞄を引き寄せて立ち上がり、
そのままリビングへ向かい、
ソファに身を預けるように倒れ込む。
頭の中を整理していると、
ふと、朝に姉が用意してくれたオムライスのことが思い浮かんだ。
イナオカは立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。
扉を開けると、ビニールに包まれたオムライスが目に入った。
皿を取り出し、包みを外す。
一口も手をつけていない、
丸いオムライスを見つめた瞬間――
公園で見たプラズマの姿と、それが重なって見えた。
頭が痛むような感覚に襲われ、
イナオカは思わず目を強く閉じ、冷蔵庫の扉を閉めた。
ソファに放り出していた鞄を手に取り、部屋へ戻る。
疲労のせいか、制服を片付け、寝間着に着替えるまでが一瞬だった。
それ以上動く気力もなく、
そのままベッドに身体を投げ出す。
目はすぐに閉じたが、
公園での出来事が何度も脳裏に浮かび、
なかなか眠りには落ちていかなかった。
プラズマによって失われかけた思い出を守れたことへの安堵と同時に、
それ以上に強かったのは、
――どうやってプラズマを消滅させたのか、という疑問だった。
もしかしたら、
プラズマによる被害を防ぐこともできるのではないか。
そんな考えがよぎる。
だが、
消滅の仕組みがわからない今、
深く踏み込むべき問題ではない――
そう自分に言い聞かせた。
*
翌朝、イナオカはいつもより早く学校に到着した。
校門をくぐった瞬間、ポケットの中でスマートフォンが震える。
靴を履き替えながら画面を確認すると、
セイタから「少し遅れそうだ」という連絡が入っていた。
了解の返事を送り、イナオカは階段を上る。
教室は廊下の端から二つ目。
辿り着くまでに、少し距離がある。
いつも通り廊下を歩いていると、
ふと、後頭部に刺さるような視線を感じた。
周囲を見回すと、
廊下で騒いでいた生徒たちが、
なぜか会話を止め、イナオカをじっと見つめている。
トイレへ向かう生徒、
今登校してきたばかりの友人、
さらには教室の窓から、何人もの生徒がこちらを窺っていた。
――ほとんど全員が、自分を見ている。
そう言っても過言ではなかった。
中には、
口元を手で隠し、ひそひそと話す生徒の姿もある。
理由のわからない視線に、
不快感よりも、妙な居心地の悪さを覚えながら、
イナオカは足早に教室へ向かった。
――教室に入れば、さすがに見られなくなるだろう。
そう思っていたが、
教室に入っても状況は変わらなかった。
全員が、変わらずイナオカを見ている。
(……何だよ。
なんで、みんな俺を見るんだ……?)
胸に引っかかる違和感を抱えたまま席に着き、
鞄を掛けて座る。
何か学校でやらかしただろうか――
そう考え始めた、その時だった。
突然、
息を切らしたセイタが、
イナオカの前へと駆け寄ってきた。
「セイタ?
遅れるって言ってなかっ……」
言い終わる前に、
セイタは勢いよくスマートフォンを起動し、
その画面をイナオカの目の前へ突き出した。
まだ日本語が下手で翻訳機に依存して文を書いたので、誤訳があるかも知れません。 多少変な翻訳部分があっても些細なハプニングだと思ってくださって面白く見てください。




