2話
ドサッ。
「いった……頭、痛……」
イナオカは慌ただしくベッドから転げ落ち、その衝撃で目を覚ました。
――さっきまでの出来事は、夢だったのだろうか。
そう思ったものの、夢にしてはあまりにも生々しく、今もなお夢の中にいるのか現実なのか、判別がつかなかった。
ただ、頭に走る鈍い痛みが、その答えをはっきりと示していた。
頭を押さえながら呻き声を漏らし、ゆっくりと起き上がってベッドに腰掛ける。
夢の内容を思い返す間もなく、ドアの向こうから姉の声が聞こえてきた。
「アルニ、起きた?」
「……うん。起きたよ」
イナオカは、まだ余韻の残るぼんやりとした意識のままベッドに座り込んでいたが、
再び姉の声がかかり、ようやく部屋を出る気になった。
洗面所へ向かう途中も、床にぶつけた頭がずきずきと痛む。
顔を洗うつもりではあったが、
それよりもまず、頭にこぶができていないかを確認したくて、
洗面所に入るなり鏡の前へ立ち、顔をあちこちから覗き込んだ。
鏡に映る自分の頭を見ながら、ぶつけた辺りを両手でそっと触る。
幸い、こぶはできていないようだった。
ほっとして視線を落とした、その瞬間。
鏡に反射する光の隙間に、首元を何かがかすめたような気がした。
思わず目をこすり、改めて鏡を覗き込んだが、そこには何も映っていない。
一瞬の違和感を覚えたものの、深く考えずに顔を洗った。
身支度を済ませ、部屋に戻って手早く制服に着替え、
鞄を手に取ってリビングへ向かう。
キッチンでは、姉が黙々と料理をしていた。
食卓にはすでに朝食が並び、セッティングも終わっている。
それでも姉は、なおもキッチンで何かを作り続けていた。
何をしているのか気になり、イナオカはそっと姉の隣へ近づく。
姉は、イナオカの鞄の空いたスペースにぴったり収まりそうな、小さな弁当箱に料理を詰めていた。
そのとき、誰かの気配を感じたのか、姉はふと周囲を見回し、隣に立つイナオカに気づいて声をかけた。
「さっき、何かあった?」
「え? 別に」
「ううって唸る声が聞こえたから、あんたかと思って」
「俺が?」
イナオカは、ベッドから転げ落ちたことを姉に話した。
姉はくすくすと笑ったが、
イナオカは夢の中でも強いめまいを感じたのだと、興奮気味に語り始める。
普通なら、夢というものは目覚めてしばらくすれば、自然と記憶から薄れていく。
だが、先ほど見た夢は、起きてからかなり時間が経っているにもかかわらず、
今なお鮮明に脳裏に残っていた。
さらに話そうとしたその時、
テレビから流れるニュースの音声に、言葉を遮られた。
――次のニュースです。
石川県近郊に、極めて巨大なプラズマが発生しました。
従来観測されていたものの五倍以上と見られるこのプラズマは、
発生からわずか五日で周辺一帯を消滅させ、市街地の中心部に巨大な穴を形成しました――
――見るだけで足がすくむような状況ですが、
警察の厳重な規制により、現在のところ人的被害は確認されていません。
しかし、森林や周辺の建物を含む土地が、一瞬で消失し……――
イナオカはニュースの音声に耳を傾けながら、
姉が用意してくれた朝食を食べようと食卓に腰を下ろした。
スプーンを手に取り、姉特製のオムライスを一口食べようとした、その瞬間――
ふと、今朝一度も時計を見ていないことに気づく。
気づいたと同時に、慌ててポケットからスマートフォンを取り出し、時間を確認した。
そして、表示された時刻を見た途端、勢いよく立ち上がる。
「やばっ……姉ちゃん、遅刻する! 先行く!」
「ちょっとアルニ! もっと食べていきなさい!」
「食べたら完全に遅れる! ごめん! 放課後に戻ってきて食べるから!」
「お弁当は!?」
「持った!」
イナオカは靴を半ば押し込むように履き、
そのまま家を飛び出して学校へ向かって走り出した。
ずり落ちそうになる鞄を押さえながら走り続け、途中で何度か靴を履き直す。
だが、家を出るときにきちんと確認せず履いたせいか、
どこか噛み合っていないのか、足が抜けそうになる。
一度は完全に脱げかけたが、つま先が引っかかり、どうにか踏みとどまった。
不幸中の幸いか、
学校近くの横断歩道の信号が赤に変わり、ようやく立ち止まって息を整えることができた。
ここでようやく靴をきちんと履き直す。
安堵とともにスマートフォンを確認すると、
遅刻まで残り五分もないことがわかった。
この横断歩道から学校まで走っても、五分以上はかかる。
それを理解しているイナオカは、頭の中で最短ルートを組み立てながら信号を待ったが、
どう考えても、時間内に正門から入るのは無理だと悟った。
――そのとき。
この場所から右に進めば、
学校の裏門につながる近道があることを、ふと思い出す。
結局遅刻はするが、
その道を使えば誰にも見つからず、叱られずに登校できる。
そう思った瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけ、安堵が押し寄せた。
そのときだった。
すぐ隣から、肩をトントンと叩かれる。
「うわっ!」
驚いて声を上げ、振り向くと――
そこに立っていたのは、幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼なじみのセイタだった。
まだ日本語が下手で翻訳機に依存して文を書いたので、誤訳があるかも知れません。 多少変な翻訳部分があっても些細なハプニングだと思ってくださって面白く見てください。




