プロローグ
昼休みが半分ほど過ぎても、空腹を感じることはまったくなかった。
だから机の上に出していた弁当は、再び鞄の中へとしまい、頬杖をついて窓の外を眺めた。
一つのテーマに思考が絡みつき、また次の思考を呼び寄せ、やがて一つの大きな疑問へと膨らんでいく。その答えを求めて必死に頭を巡らせているうちに、食事のことなど入り込む余地はどこにもなかった。
その日を境に、同じテーマについて一人でぼんやりと考え込む時間が、目に見えて増えていった。
「私、昨日彼氏と別れたんだけど?」
「え、本当? どっちから言い出したの?」
「当然、私よ。愛してるとか言いながら、やたらといやらしいことばっかり求めてくるから、即切った」
「だよね。どう考えても、あんたのほうがもったいないよ!」
「でもさ、3組のあの子、めちゃくちゃイケメンじゃない?」
「わかる〜。私もずっとそう思ってた」
「今フリーだし、一回アプローチしてみようかな?」
窓の外に向けていた視線をそっと戻し、その会話が交わされている方へと目を向けた。
どこの学校にもいそうな、ごくありふれた不良グループだ。暑いという理由で制服の前ボタンを二つ開け、露骨に胸元を晒している姿や、自分の席ではなく誰かの机の上に腰掛けて集まり、騒いでいる様子を見れば、不良生徒だという印象は一目瞭然だった。
その集団に視線を向けたまま、自然と周囲にも目を走らせる。静かに勉強している生徒もいれば、まだ昼食を取っている生徒もいる。そんな周囲の状況を一切気にせず、大声で騒ぎ続けているのだから、目立つのも当然だった。
普段なら気にも留めないはずの会話に、なぜか意識が向いてしまったのは、彼女たちの口にした言葉と、今まさに考えていたテーマとが重なっていたからだ。
――「愛」。
少しだけ彼女たちの会話に耳を傾けたあと、再び視線を窓の外へと戻した。
どうして、人はあんなにも簡単に恋に落ちることができるのだろうか。
あの会話の中で語られていた「愛」という言葉は、本当に愛なのだろうか。
あれは巡り巡って、他人に自慢するための手段に過ぎないのではないか――そんな感覚が、強く胸に残った。
もちろん、周囲で仲睦まじい姿を見せつけられれば、異性と交際したいという気持ちが芽生えるのは不自然なことではない。
ただ、ああして見せびらかすために付き合うのではなく、自分の内側を満たしている巨大な孤独を、そっと和らげてくれる誰かが傍にいてくれたら――そんな思いが、体中を巡っていた。
一生分の孤独を拾い集めるように生きてきたはずなのに、なぜか今日に限って、胸の奥がひどく痛んだ。
孤独によって裂けた傷は、とうの昔に塞がっているはずなのに。
あれこれと考えているうちに、いつの間にか彼女たちの声は耳に入らなくなっていた。
意味のない一点に視線を置き、深く思考に沈み込むと、周囲の音が消える――それは、実に都合のいい身体の反応だと思う。
窓の外を見つめていた視線を戻し、今度は目の前の席へと向けた。
やはり、あの日の出来事が影響しているのだろう。孤独感が、いつも以上に膨れ上がっている。
もし、あの日あの場所へ行かなければ、今こんな思考に囚われることもなかったのだろうか。
もし、あれを見つけなければ、こんなことをしなくて済んだのだろうか。
その時、不意に背後から肩を軽く叩かれた。
振り返らなくても、気配だけで誰なのかはわかる。
そしてすぐ耳元で、静かな声が、淡く響いた。
「近くに出たみたいだ。急ごう。」
正面を見つめていた視線を後ろに向ければ、誰なのか確認することもできたはずだった。
だが振り返ることはせず、わずかに首を回して教室の扉の方を見るだけに留めた。
教室の外では、別の誰かが焦った表情で二人を見つめながら待っていた。
その姿を目にした瞬間、先ほどまで胸の内に渦巻いていた思考を、丁寧に畳んで窓の外へと投げ捨てる。
そしてすぐに席を立ち、教室の外へと歩き出した。
もう、考えに沈んでいる余裕はなかった。
教室を出ていく姿を見て、クラスメイトたちは「また外かよ」と、口々に不満を漏らす。
だがそれは不平ではない。彼らなりの、暗黙の応援だった。
いつも通りの、ひとつの儀式のようなものだ。
それでも、生徒たちが文句を言う姿を見るたびに、自然と口元に微笑みが浮かんでしまう。
教室を出る直前、身体をひねって軽く手を振り、胸の奥に刻み続けてきた誓いを、もう一度思い出した。
――この人たちのために。大切な人たちのために。
災厄を、必ず食い止めなければならない。
それが、俺の役目であり、俺たちの仕事なのだから。
「じゃあ、また明日!」
まだ日本語が下手で翻訳機に依存して文を書いたので、誤訳があるかも知れません。 多少変な翻訳部分があっても些細なハプニングだと思ってくださって面白く見てください。




