第27話 ロスタの町の話
アサルビ半島からオルビアンへの帰路。
ニルたちは陸路を歩いていた。
海が荒れて船が出ないため、ロバートに教えてもらった街道を進んでいる。一日ほど歩けば中継地点の町があり、もう一日でオルビアンに着く。
――少し遠回りだが、仕方ない。
少なくとも、彼らはそう考えていた。
「そういや、お前らは機械生命体を捕まえる話、まだ諦めてないのか?」
ニルの問いに、ステラとガルスは揃って力強く頷いた。
「そもそも、俺は諦めたつもりはない」
「めちゃくちゃ可愛かったじゃないですか! 特に鳥形の子!」
「お前らの気持ちは分かるが、知恵の樹が言ってただろ。『性格が合う個体』を見つけないと無理だって」
ステラとガルスの食い下がりに、ニルは呆れたように肩を竦めた。
『皆さん、あの話はまだ続いているのですか?』
「クロード、お前も止めてくれよ」
『では、ニルを応援します』
ガルスとステラが「えー」と声を揃えた。
「クロードさん、ひどいです!」
「だよな。せめて中立でいてくれよ」
『申し訳ありません。ですが、機械生命体を環境から切り離すリスクは、やはり無視できないかと』
そんなクロードの冷静な指摘に、ガルスとステラは「ぐぬぬ」と唸る。
ニルはガルスに「お前がやってもかわいくないからな?」と笑うと、ガルスは「そこに突っ込むのかよ……」と少し呆れて息を吐いた。
「まあまあ。いつか機会があったら、ってことで。な?」
そうしてニルがそう話を締めて二人を丸め込もうとした、その時だった。
「——おい、あれ」
ガルスが、街道の先を指差した。
丘の向こうに巨大な城が見える。
ただその城は、明らかに廃墟でもあった。
高く積まれているが、遠目からでも幾らかの崩落が見られる崩れた城壁。
城壁の間からは、朽ちた街並みを突き抜けるように一本の塔が立っている。その塔は眠りに付こうとする廃墟の姿を表すように、見る者に不安定さを覚えさせる角度で傾いている。石畳は緑色の草木に覆われており、かつては栄えていたであろう城下町の跡が静かに、そして怪しく佇んでいた。
「……でけぇな」
「ですね。あんな大きなお城、初めて見ました」
『かなり古い建物に見えますね。植物の生長具合から推測するに、百年以上前に廃棄されたのは間違いないかと』
クロードの言葉に、ニルは「へぇ、そりゃ古いな」と感心したように頷いて、足を止めて廃墟を眺める。
「流石に、旧文明よりは新しいか?」
『おそらくは。ただ大破壊の時系列が不明なので、旧文明時代と同等に古い可能性は十分にあり得ます』
「でも、何があってこんなに廃れたんでしょうね?」
クロードの問いに感心していたニルであったが、ステラの疑問には誰も答えられない。がさがさと風に揺れる木々の音だけが、ステラの言葉に虚しく応えている。
「なんかに襲われたか、疫病か…… 何かはあったんだろ。理由が思いつきすぎて、逆に分からん」
「だな。で、どうする? ちょっと寄り道してみるか?」
時間はあるけど面倒だな、とばかりにあまり興味が無さそうなガルスの問いに、ニルは少しだけ考えてから返事を返す。
「いや、別に寄らなくていいだろ。日が暮れる前に次の拠点に着きたいし」
「了解、俺もそっちの方が良いわ。通り過ぎようぜ」
「私もそっちのほうが嬉しいです。オルビアンに早く帰りたいですし」
『私は皆さんに合わせますよ』
四人は、廃墟の城を横目に見ながら、街道を進んだ。
——その時、ニルたちは気づかなかった。
城下町の入り口に立つ、古びた看板を。
そこには掠れかけた文字で、しかし誰もが読み間違えないようにしっかりと書かれていた。
『立ち入り禁止——帰れなくなる』
しかしその警告は、誰にも読まれる事なく佇んでいる。
今は、向けるべき相手がいないかのように。
◇ ◇ ◇
日が傾き始めた頃、ニルたちは次の町——ロスタの町に到着した。
「やっと着いたな。今日はかなり歩いた気がするわ」
「ですね。流石に足が痛いですよ……」
「ステラにはきつかったか」
『私の感覚で言えば、ステラがあの距離を歩けたことに驚愕します』
「やっぱりですか? 私、かなり頑張ってますよね?」
ガルスの言葉に、クロードはステラの肩を持った。
味方を得たステラは「どうなんだ?」とばかりにガルスに視線をやっているが、ガルスは「冒険者なら普通だな」と笑っている。
「とにかく、まずは宿を取ろう。飯も食いたいし」
「だな」
「ガルスさん、逃げましたね」
「いや、ここに居るって」
「そうじゃありませんって!」
足が痛いという割に元気なステラも、どこまで本気で言っているのか。いつものような軽い冗談を交わしながら、ニルたちは人を避けながら町を歩く。
ロスタの町は、小さいながらも活気のある町だった。
オルビアンに向かう街道沿いにあるためか、旅人や商人が多く立ち寄るのだろう。宿屋も何軒かあり、ニルたちのような冒険者にとっては便利な拠点だった。
「おぉ? あそこの宿、良さそうじゃないですか?」
ステラが指差したのは、『旅人の休息亭』という看板を掲げた宿屋だった。小奇麗な外見はキチンと管理が行き届いているように見えるし、比較的明るい場所にあるのも入りやすくてありがたい。
「ぱっと見だけど、確かに良さそうだな。あそこにするか」
ニルたちは宿に入ると、すぐに受付で部屋を取った。
そうして一旦分かれた四人は荷物を部屋に置くと、食堂へ降りて再び集まる。
「さて、飯にしようぜ。何が頼める?」
「俺はとりあえず酒貰えるか?」
「あ、私はお水でお願いします」
ガルスとステラの言葉に店主は「了解だ」と笑って答え、ニルの問いにも「今日のおすすめは鹿肉の煮込みだよ。すぐに出せるしな」と笑顔で答える。
「じゃあ、それを三人。あと、俺も水を貰えるか」
「それで注文は全部かい?」
「だな。これで頼むよ」
「よし、少し待ってくれ」
ニルの言葉を確認した店主が厨房へ消えると、彼らはテーブルに腰を下ろす。
「しっかし、今日は疲れたな」
「ですね。でも、明日も同じ距離って考えると中々憂鬱です」
「これなら、港で2、3日待っても良かったな」
「おいガルス。俺もちょっと後悔してたんだから、言ってくれるなよ」
ガルスの軽口に、ニルは気落ちしたような溜息をこぼした。
そんなニルに気を遣うように、がやがやというごちゃついた喧噪の中にクロードの言葉が続く。
『とにかく皆さん、お疲れ様でした』
「クロードもな。今日はずっと背負われてたからな」
『大丈夫です。疲労は感じていませんので』
クロードの言葉に元気を取り戻したニルは「俺なら耐えられん」と笑い、ガルスも「お前は口が動くなら疲れんだろ」と笑っている。
そして馬鹿話をして時間を潰している間に、料理が飲み物と共に運ばれてきた。
「おお、うまそうだな」
「いい匂いですね!」
これは絶対においしいぞ、といった感じでテンションを上げているステラ
ニルたちは、料理を囲んで食事を始めた。
——その時、ニルたちは気づかなかった。
食堂の片隅で、一人の老人がニルたちをじっと見ていることに。
そしてその老人の目には、何か——諦めたような、哀れむような光が宿っていたことに。
そして——老人がポツリと零すように、小さく呟いたことにも。
「……ああ、今なのか」
その声は、誰も聞いていないように酒場の喧騒の中に消えた。
そうして老人は、目の前のグラスに注がれた酒を一息で煽った。そして懐かしむようにニルたちを見ていた視線を外して、まるで過去の幻影に背を向ける様に席を立つ。
—―その背にも腰にも、何もない。声をかける者も、誰もいなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日、ニルはいつもより少しだけ遅く目を覚ました。
窓から差し込む朝日を見ながらゆっくりと体を起こすと、すぐ近くに立てかけていたクロードから声がかかった。
『おはようございます、ニル』
「おう、おはよう。寝過ぎたか?」
『多少です。誤差の範囲かと』
「ならいいか。さっさと朝飯を食うか」
ニルはクロードを背中に背負い、食堂へ向かう。
食堂には既にガルスとステラが座っており、二人は既に朝食を食べ終えかけていた。
「おう、珍しく遅かったな」
「思ったより疲れてたのかもしれん」
「ステラは元気だったのにな」
「まあ、鍛えてますからね!」
残っているスープを飲みながら、ガルスはニルを揶揄う。そんなガルスの言葉に乗っかる様に、ステラもふふん、とばかりに胸を張った。
「俺ももうちょい鍛えるから、今回は許してくれよ」
『ニルはまだ伸びしろがあるのですか?』
「当然。……いや、すまん。多分まだ伸びるぐらいで」
そうしてニルは席に座り、店主に遅めの朝食を頼んだ。
するとガルスとステラに準備したものがあったからか——パンと目玉焼き、それにスープがすぐに運ばれてきた。
「んじゃいただきます、と」
「急がなくていいぜ」
「ですね。ゆっくりどうぞ」
ガルスとステラの言葉に、ニルは「すまんな」と笑って答え、運ばれてきた朝食に手を付ける。そうした時、ふとニルは、言葉に出来ない違和感を覚えた。
「……なあ、ガルス」
「ん? どうした?」
「変なこと聞いて良いか? 俺たち、今日は何をする予定だった?」
朝食のスープをことりと机の上に戻しながら、自分でも何故そんな事を聞いているんだろう、といった様子のニルの問いに、ガルスは「お前なに言ってんだ?」と呆れたように軽く笑う。
「オルビアンに帰る以外の予定なんかないだろ。ボケるの早くないか?」
「ああ、いや…… そうだったな。いや、違うって。そうじゃなくて」
ガルスのいつもの軽口に、ニルは記憶を掘り起こすように視線を泳がせる。その様子は、自分でも何を言いたいのかイマイチ理解できていないようだった。
「なんか……あの廃墟の城、調査しようって話、してなかったよな?」
そんなニルの言葉に、今度はガルスとステラがイマイチ理解できないといった感じの表情で、顔を見合わせた。
「廃墟の城を調査?」
「そうそう。昨日通り過ぎた城だよ。覚えてないか?」
ニルの言葉に、ガルスは「いや、当然覚えてるが……」と、何かを考える様に真剣な表情になって頷く。それはニルにどのような言葉をかけるべきなのか、言葉を探しているようでもあった。何時もの軽口の調子ではない。
「確かに見た。でも、調査しようなんて話はしてないぞ」
「あぁー……いや、そうだよな。そんな話、してないよな。すまんすまん、なんかそんな話をしたような気がしてただけだ」
「なんだよ、夢の中で冒険でもしたか?」
「覚えてないが、もしかしたらそうなのかもしれん」
ガルスの真面目な否定の言葉に、ニルは改めて納得してから頷いた。だが、やはりその声音には疑問が残っているように感じられた。自分の記憶を疑うような、喉に小骨が引っ掛かったような違和感だ。
「すまんな、変なこと言った。忘れてくれ」
「まあ、たまにはそういうこともあるだろ」
「ニルさん、オルビアンに戻ったら記憶に良い薬草使いますか? それとも、疲労が抜ける薬の方が良いですかね?」
「まだ若いわ、老人扱いするなって!」
ニルが普段の様子に戻ったからか、ガルスは真剣な表情をやめた。軽く笑って話を流し、様子を見ていたステラもそんな会話に便乗する。
——しかし。
目の前で繰り広げられる三人のいつもの馬鹿話を行うのを見ながら、クロードはどこか不自然な感覚を覚えていた。ニルの言動が、クロードに言葉にし難い違和感を抱かせる。
『……おかしい』
そう感じたクロードは、自分の記憶を確認する。
昨日、ニルたちは廃墟の城を見た。事実だ。
そして、「寄り道はしない」と決めて、通り過ぎた。これも事実だ。
これは絶対に間違っていない。断言できる。
——では、なぜニルは「調査しようって話があった」と思ったのか?
『すみません。ニル、一つ確認してもよろしいでしょうか?』
「ん? どうした?」
『私の記憶では、昨日廃墟の城を見た時、あなたは「別に寄らなくていい」と言いました。それは覚えていますか?』
クロードの問いに、ニルは「ああ、そうだな」と頷く。
「さっさと休みたかったから、確かにそう言ったな。なんかおかしかったか?」
『いえ、念のための確認です』
ニルはクロードの言いたいことがよく分からなかったのか、「うん?」と首を傾げている。ガルスとステラはそんなニルに、「クロードにまで心配され始めている」と揶揄っていた。いつもの雰囲気だ。
——しかしクロードの心の中には、言葉に出来ない疑問が産まれていた。
『……この違和感は、何だろう?』
それは三人の馬鹿話にかき消されてしまうような、ほんの小さな疑問だった。
しかしこの疑問が、大きな決断に繋がることになるのを、クロードはまだ知らない。
◇
朝飯を食べ終え町を出たニルたちは、オルビアンを目指して街道を歩いていた。
「はぁ…… オルビアンまでの道のりが憂鬱だわ」
「でも馬車は使わなかったじゃんか」
「まあ使ってないけどよ…… それを今言うのはズルくね? ガルスとかステラだって、馬車を使おうって言わなかっただろ。なんでだよ」
「何となくですかね!」
「ほらみろ、こんなもんだろ。俺の所為にするんじゃねぇ!」
『オルビアン行きの馬車を探すところから始める必要もありますからね』
「そうそう、それもあるだろ」
普段通りの軽口。
普段通りの冗談。
そんな普段通りに笑い合う四人の会話に、しかし次の瞬間――何の前触れもなく、あり得ない場違いな言葉が混ざり込んだ。
「だって馬車を使ったら、昨日見た廃墟の探索ができないじゃないか」
当たり前のように口から出たニルの言葉に、場の空気が凍った。ステラは不安そうにガルスを見ており、ガルスは真剣な表情でニルを見ている。
「おい、ニル…… お前、まじでちょっとおかしいんじゃないのか?」
「ん? すまん、なんか面白くない冗談でも言ったか?」
「違うって。廃墟に行くなんて話、してないだろ」
「うん? あれ…… あの城に、行こうって話をしてたんじゃなかったか?」
ニルから返ってきたその言葉に、ガルスは今度こそ足を止めた。
「なら、なんで俺たちはオルビアンに向かってるんだよ。ニル、答えろ」
「そりゃぁ…… アサルビ半島から、オルビアンに向かってたからだろ?」
「そうだ。この話のどこに、廃墟に行くって話に繋がる?」
ガルスの指摘に、ニルは「……ほんとだ、確かにそうだな」と首を傾げる。
「それに、朝飯の時にクロードが確認もしてただろ。で、お前は『そんな話はしてない』って答えてた。違うか?」
「……ああ、そうだったな。すまん、覚えてる」
ガルスの言葉に、ニルは記憶を疑うように額を揉み込む。
自分の記憶か、それとも自分の言葉にか。どちらにか分からないが、何かが腑に落ちないと言った感じで、思考を纏めようとしてるように見える。
「すまん、なんか変だな、俺。ちょっと疲れてるのかもしれん」
「まあ、久しぶりの船旅もあったしな。オルビアンに戻れば、ゆっくりすればいいさ」
「そうですよ! うん、やっぱりニルさんには疲労が抜ける薬が必要ですね!」
「……すまん、マジで貰えるか? ちょっと不安になってきた」
「了解です! キーラさんのところに良い薬がありましてですね————」
そんなニルの様子に、ガルスとステラは軽く笑って話を流した。
再び三人が始めた会話は、どこもおかしくはない普段通りのやり取り。しかしだからこそ、クロードは違和感を覚えていた。
『……また……』
ニルが、おかしなことを口走った。
—―「馬車を使ったら、昨日見た廃墟の探索ができない?」
当たり前だが、ニルたちはそんな話はしていない。
これではまるで「廃墟に行く」という前提だけが、いきなり生えてきたような荒唐無稽さだ。
『これは……明らかにおかしい』
クロードは、自分の記憶を再度確認して推測を始める。
——なぜニルは、二度も「廃墟に行こう」としたのか?
『……』
無言で高負荷処理を行うクロードの思考が、一つの可能性に辿り着く。
もしや、記憶の改変?
――――いや、違う。
最初にたどり着いた回答を、しかしクロードは即座に却下した。記憶が改変されているのであれば、ニル自身が違和感を覚えるはずがない。ニルはガルスに指摘されると「自分がおかしなことを言っている」事を自覚できている。
『…………』
では、思考の改変?
――――いや。やはり、これも違う。
仮に思考が改変されているなら、ニルはもっと明確に「城に行こう」と言い出すはずだ。ニルの言動は、あくまでも「行くという話をしたよな?」「行けないじゃないか」といった感じの、『城に行く前提』で話をしているだけだ。
思考を改変されている、とまで表現するのは違和感がある。
『………………』
何が起きている?
回答が出ぬまま、クロードは三人の会話に加わらずにひたすらに思考を回す。
もしかして、行動の改変?
――――これも、違う。そうではない。
ニルの動きは「アサルビ半島から、オルビアンに向かう」というもので、行動自体は一貫している。その行動に、何故か廃墟に向かう、という違和感が差し込まれているだけだ。
『……………………』
では……意志の改変?
—―そうだ。
仮定としてになるが、感覚的にはこれが一番近い。
ニルは、「城に行きたい」と思っているわけでも、城に行くための行動を起こしている訳でもない。
ただ漠然と、「城に行こうって話があった」と“思っている”だけだ。
——つまり、これは。
『“行動を起こさせない”ための改変?』
クロードは、その可能性に思い至る。
もしこの状況が、何かが——あるいは誰かが。ニルたちを「あの城に行かせないようにしている」結果なのだとしたら?
そんな仮定を深掘りする様に考えて——その改変が不完全だから、ニルは「城に行こうという話があった」と考える形で、違和感が表に出てきている?
『……いや、断定してはならない』
その可能性に思い至ってしまえば、ガルスとステラの行動もおかしく感じる。
二人ともが当たり前のようにオルビアンに向かっているが、「ニルが変なことを言った筈なのに、その後の会話が自然過ぎる」気がする。
まるで、「そんな会話自体が存在しなかった」とでもいうような行為にも見える。のだ。
勿論、心根の優しい二人だから触らないようにしていると言われるとその通りなのだが…… 頭の回るガルスなら、【この話題を自分から発言することで、ニルとの会話をコントロールする】ぐらいの気は回すはずだ。
—―クロードは、慎重に仮定を進める。
ニルがおかしいのか、それともガルスとステラがおかしいのか。さっぱり分からない。だが——もしも、この仮説が正しいのだとしたら。
『私は、この改変の影響を受けていない——?』
仮定に仮定を重ねて思考する。それはなぜか、と。
そうして、クロードは自分の存在を思い返す。
自分は、「剣に宿ったAI」だ。
旧文明の施設からニルに救われて、この剣に転送された。
——もし、この改変が「ある特定の時点」を基準にしているなら?
—―――そしてその基準点に、「剣に宿ったAI」という存在が含まれていなかったら?
『……私は、改変の対象外にいる?』
仮定に仮定を重ねている、不確定情報。
しかし浮かんだその可能性を否定できないクロードは、静かに一つの決意をする。
『……もう少し、様子を見よう』
もし、本当に何かが起きているなら——必ず、違和感が現れるはずだ。
それがニルのものなのか、それともニル以外になのかは分からないが。
だがその時にこそ——クロードは、真実を確かめる必要がある。
彼はひっそりと、心に決めるのだった。




