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第23.5話 機械生命体の設計思想について

ロバートから受け取ったデータストレージです。

読み飛ばし可能ですが、24話でクロードの混乱に少し共感しにくくなります。

 ――解析完了。

 これは……軍部の極秘資料?


 私は静かに処理を続けながら、胸の奥に何かの感覚を覚えていた。

 不安という、人間の感情に近い何かを。




  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




【軍研究-機密区分:C】

【研究報告書:機械生命体の設計思想について】


20XX年9月――魔導機械部門、軍部からの正式依頼を受理。

20XX年10月――設計思想の提案書を提出。軍部より承認。

20XX年11月――試作機の製造開始。

20XY年2月――「第三のエネルギー」の発見により、設計の大幅変更。

20XY年8月――機械生命体アーティファクト・クリーチャー(正式名称)の実用化成功。



―――第1部:軍部からの依頼と問題提起―――


軍部からの依頼概要:

 新エネルギー「魔力」の発見により開始された研究の一つである【自立型機械ユニット】を、さらに発展させた新たな兵器群の創造。

 軍部はこれを機械生命体アーティファクト・クリーチャー(仮称)と呼称している。


軍部が提示した要件は以下の3つ:

 1. 独立稼働が可能であること

 2. 高度かつ柔軟な状況判断能力を持つこと

 3. 暴走の危険がないこと


―――


**問題1:独立稼働について**


 エネルギー変換効率とエネルギー密度の問題さえ解消できれば、独立稼働は可能。

 これは魔力変換器部門と魔力増幅部門の研究成果に依存する。

 

 →魔力増幅部門の「結晶型魔力媒体」により、この問題は解決済み。

  長時間の連続稼働が可能となった。


**問題2:高度な状況判断能力について**


 軍部は「中枢管理型システム」を希望している。

 つまり、1つの中央コンピュータが全ての機械生命体を一括管理する方式。

 しかし、この研究部門は「独立稼働型システム」を強く推奨する。

 理由は後述。


**問題3:暴走の危険について**


 これは問題2と密接に関連している。

 「独立稼働型システム」の採用により、暴走の危険を大幅に低減できる。

 理由は後述。


―――



―――第2部:独立稼働型システムの提案―――


**なぜ「独立稼働型」を推奨するのか?**


理由1:中枢管理型システムの脆弱性


 中枢管理型システムには、致命的な欠陥がある。

 これは、現在問題となっている都市インフラの電力網と同じ構造的欠陥だ。

 

 電力供給網は、地方の発電所から都市部へと電力を送る「集中型モデル」である。

 この方式は、運用コストの削減と効率化の観点では優れている。

 

 しかし、都市部(ハブ部分)が攻撃されると、電力網全体が停止する。

 地方の発電所は無事でも、送電網が断たれれば電力は届かない。

 

 機械生命体に中枢管理型システムを採用した場合、同じ問題が発生する事を意味する。

 中央コンピュータが破壊されれば、全ての機械生命体が停止する。

 

 →これは軍事兵器として致命的な欠陥である。



理由2:機械学習のブラックボックス化


 現代の機械学習は、人間の理解を超えている。

 パラメーター数が数兆を超える大規模学習モデルは、完全にブラックボックス化している。

 

 つまり「なぜこの判断に至ったのか」を人間が検証することは、原理的に不可能。

 

 これは、予期せぬバグが潜伏する危険性を意味している。

 偶発的な入力によって、意図しない出力(暴走)が発生する可能性を排除できない。

 

 中枢管理型システムでは、このバグが全ての機械生命体に伝播する。

 つまり1つの機械生命体が暴走すれば、他の全ても暴走する。

 

 →これは極めて危険である。



理由3:生物進化の冗長性を模倣する


 しかし、この問題は「生物進化」を模倣することである程度の克服が可能。

 

 機械学習は「最適解」を追求する。

 一方、生物進化は「満足解」を採用する。

 

 例:

 ・人間の臓器が2つあるのは、エネルギー効率の観点では非合理。

  しかし、片方が停止しても即死を回避できる「保険」として機能する。

 

 ・キリンの反回路神経が首から心臓まで遠回りするのは、設計ミスに見える。

  しかしそれでキリンの生存に支障がなければ、淘汰はされない。

 

 つまり、生物は「冗長性」を持つことで、予期せぬ事態に対応している。

 

 機械生命体に「独立稼働型システム」を採用すれば、この冗長性を獲得、あるいは意図的に再現することが期待できる。

 

 各機械生命体が独立して判断するため、1体が暴走しても他に影響しない。

 形状も画一化せず、動物などをモデルにすることで、多様性を持たせる。

 

 →これにより、暴走の危険を大幅に低減できる。


動物型モデルの提案:推奨理由

 ・四足歩行型:悪路走破性の向上。

 ・水中/空中/地中などの環境適応性の再現。

 ・捕食型の反応速度をモデル化。

 ・動物型モデルを採用する事で「軍事イメージ」の忌避感を低減。

 ・モデル基の動物的思考・行動パターンを定期的に学習させる事で、冗長性の再獲得によるバグの希薄化を期待。



理由4:有事の生存戦略を重視


 中枢管理型システムは「平時の効率」を最大化する。

 独立稼働型システムは「有事の生存戦略」を優先する。

 

 軍事兵器として考えた場合、後者の方が明らかに優れている。

 

 結論:

 独立稼働型システムこそが、軍部が求める「高度な状況判断能力」と「暴走の危険の低減」を両立できる唯一の方法である。








―――研究主任の記録―――


※個人的記録(20XX年11月 研究主任):


 独立稼働型システムの提案は、軍部に承認された。

 しかし、まだ解決していない問題がある。

 

 エネルギー密度だ。

 

 現状の魔力合金では、長時間の稼働は不可能。

 魔力増幅部門の研究成果に期待するしかない。

 

 もし、エネルギー密度の問題が解決されれば、

 機械生命体は真の意味で「生命」に近づくだろう。

 

 それが、良いことなのかどうか。

 私には、まだ分からない。



【記録終了】


※注意:この報告書の続きは、機密区分Bに指定されています。

 閲覧には、管理コード『主任』が必要です。



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