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第20話 一つの噂の終わり

21話は12/30 20:00更新です。


20.5話外伝を12/28 20:00投稿予定ですが、そちらは読み飛ばし可能です。



 ――あれからニルとガルスがゴールの双短剣を回収したり、その間にステラがゴールの鎧の前で思いの整理したり、と。


 そんな調子で四人が思い思いの時間を廃村で過ごしてから、今は一つの集団となって森の中を歩いていた。


 ゴールの鎧は、今は廃村に静かに膝を付いている。

 もう、その歩みが聞こえることはない。


「いやぁ。しかし、マジで死ぬかと思ったな」

「ああ。というか、最後のは実質死んでたわ」

『状況に助けられた、と考えるしかない結果です……』


 ガルスが吐き出すようにそう言って、ニルはやばかったなといった顔で同意した。クロードの声も、何時もより明らかに沈んでいる。

 ガルスはそんなクロードに「まあ、気にするなって」と気にかけるような声をかけているが、ニルはそれを笑いながら「気にするなって言ったら余計に気になるんだよ」と揶揄っている。


『私は、非常に無力感を感じています……』

「なら『次に生かそう』ぜ。悪い方には考えなくて良いぞ?」

「だな。『結果が全て』だ。クロードからすればこれは結果論かもだけど、俺たちはまだ死んでないぜ? な、ステラ?」

「そうですね。色々ありましたけど……誰も死んでいません。私も、それで良いんだと思います」


 そんなガルスの言葉に答えるステラの目は、今は少しだけ色が違った。

 夜空のように美しい紫水晶(アメジスト)の瞳は、何時もよりもほんの少しだけ赤かった。まるで炎で照らされた夕焼けのように。


「ほらな。気にするなって。折角感じてる勝利の余韻が台無しになるぞ?」

『そうですね…… この敗北の傷が開く事が無いよう、努力します』

「俺はクロードの言い回しの方が好きだね」

「私はニルさんの方ですかね」

「ステラ、そこは『ニルさんの方が好きですよ』って言ってくれよ~」

「なんでそういう事言うんですか?!」


 ステラはニルに、デリカシーがないと言わんばかりの勢いで「空気読んでくださいよ!」と食いかかっている。

 そんな二人にクロードは『空気を読む……これは確かに、諸刃の刃のようです』と神妙な感じに呟き、ガルスは「そうだろ?」と笑いながら同意した。



 町を目指す四人の喧騒が、森の中に木霊する。


 小鳥のさえずりが遠くに聞こえ、優しい風が肌を撫でる。


 森の匂いが、服に残った焦げ臭さを少しづつ薄めていく。

 まるで戦いの熱を静かに流していくように、ゆっくり、ひんやりと。


 ニルとガルスの軽口も、ステラの笑い声も、クロードの分析だって——その全てが、静かに森に溶けていた。

 胸に感じていた、言葉に出来ない不安さえも。


 今はここにない、誰かの中にあった何かの想いも――――




  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 大きな冒険を終えた四人は、ゴールとの顛末をキーラに語った。


 ずっと何かを探していたんじゃないかということ。


 恐ろしい実力を持っていたこと。


 瓦礫から庇ってくれたこと。


 そして――神の酒を渡す事で、ゴールの鎧が完全に動きを止めたこと。


「――それで、ゴールさんの鎧は、今は廃村にあるんだ。キーラさん、どうしようか?」


 ステラの話を聞き終えて、キーラは静かに目を閉じた。


 彼女の返事は、聞こえない。


 店の外から聞こえる木々のざわめき、遠くで誰かが笑う声。

 棚に並んだ薬瓶が、少しだけ揺られて小さく鳴る。


 その全てが、キーラの沈黙を際立たせていた。


 ただ、何かを考えるように。

 あるいは区切りをつけるように。

 自分の中にある見えない何かに折り合いをつけるように――彼女は、静かに目を閉じ腕を組んでいた。


 どれだけそうしていただろうか。


「――…………そうかい……」


 そう呟いたキーラは、しばらく何も言わなかった。

 店の外から聞こえる人々の喧騒だけが、時間は前に進んでいるのだと静かに告げていた。


「……キーラさん?」

「いや……なんでもないさ」


 名を呼ぶだけのステラの問いに、キーラはようやく目を開けた。

 クロードの目には、瞼を開けたキーラの瞳の中に、少しだけ炎が宿っていたように感じられた。それはきっと、気のせいなのだろう。


「ステラ。ありがとうよ。あんたが無事で、よかったよ」

「――うん! ニルさんたちと……ゴールさんの、おかげだよ!」


 僅かにしんみりとしていたキーラの雰囲気が、ステラの言葉で霧散する。

 きっと、彼女も振り払ったのだろう。

 いつかに誰かと交わした、何かの約束を。


「とりあえず、ゴールの鎧は重たいだろうけど、持って帰る事をお勧めするよ。ニルとガルスなら、何回か往復すれば全部回収できるだろ。とりあえず、マグナスにでも預けときな。あいつなら、何かに使うだろうさ」

「あの村に、安置しておかなくても良いんですか?」

「あんなところに置いてちゃ、冒険者連中が持って行っちまうさ」


 終わった話よりも「今」なのだと。

 それで良いのかと問いかけるステラに、キーラはからりと笑ってそう答えた。


 話題を切り替えるべく、ニルが口を開く。

 空気を読むとはこう使うんだぞと、クロードに教えるように。しかしガルスは、そんなやつにはこう返すんだぞ、揶揄うような調子で言葉を返した。


「まじかよ。冒険者って最悪なやつらだな。殆ど墓荒らしじゃん」

「まあ俺たちも冒険者だし、普段やってるのもほぼ墓荒らしだけどな」

『ゴールの場合、あれが墓の定義に当たるかは議論が必要かと』

「冗談だからな? 君たちが作ろうとしている空気は、非常に危険だぞ」

「分かってるって」

『同じくです』


 そんな三人にキーラは「バカな事言ってないで、寝るまでには絶対に終わらせておくんだよ」と言葉を投げる。


 彼女の声は、いつも通りだ。

 古びた薬屋の中には、いつのように笑い声が響き、染みついた薬草の匂いが静かに香っている。


 その香りが何時もより少しだけ甘いことを、ステラとキーラだけが知っている。




  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ――そして、その日の夜。


 宿屋【ヒノキの止まり木】の食堂で、デウェは一人でグラスを磨いていた。



 窓の外、夜の色に沈み始めた森の方角を見つめる。

 あの森には、長い間彷徨っていた騎士がいるという噂があった。

 デウェとマグナスが名前ぐらいは聞いた事のある――そしてキーラがよく知っているなんて噂もある、一人の騎士が。


 今は、もういない。


「安らかに眠れると良いね」


 誰に言うでもなく小さく呟いて、グラスを棚に仕舞う。

 部屋の一つからは、賑やかな笑い声が聞こえてくる。

 ニル、ガルス、クロード――そしてステラ。


 あの親馬鹿が、娘を男二人の――それも冒険者の部屋に行かせている。


 デウェは小さく笑った。

 マグナスの考えが、手に取るように分かる。


 流通の要所である港湾拠点オルビアンからであれば、どこへでも行ける。

 そして、戻ってもこれる。


 ――きっとあの子たちは、次の冒険に向かうのだろう。三人ではなく、四人で。


「……さて、明日の仕込みでもするかねぇ」


 あの湖、今も変わらずそこにある。

 誘うための謳い文句は、ロマンティックなものへと変わるのだろう。

 それを少し楽しみにしながら、デウェは食堂の奥へと静かに消えていった。


 オルビアンの夜は、いつも通りに更けていく。

 がやがやとした表通りと、眠りに就こうとする裏通りを内包しながら。


 次の旅人たちを、優しく迎えるために。






  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ――――そして、その後に。


 ゴールの鎧をマグナスに預け終えた四人は、宿の食堂で今後の話をしていた。


「それで、次はどうする?」

「カイサリアの自由市に行くって話、まだ生きてるよな? そっちはどうだ?」

「時期的にはそろそろだけど、ちょっと頭金が不安なんだよなぁ」


 ゴール戦で負った傷の治療に使った薬の代金は、キーラの好意で浮いてる。

 しかし今回の冒険も金銭的な収入は現在のところは無く、数日滞在した費用だけが嵩んでいるのが現状だった。


「最悪は見に行くだけでも良いだろ。飯食って商品みて、次の冒険先を考えるってのもありだし」

『私も自由市は気になります』

「ほら、クロードもこう言ってるしよ」

「んじゃ行くか。商隊の護衛依頼ついでって考えてもいいし」


 ガルスの言葉にクロードが同意した事で、ニルも了承の言葉を出した。

 金がないと言いつつも、元々行ってみたかった話でもあるのだ。

 これだと否定する材料が、そもそもニルにはない。


 方針が決まった事でニルとガルスは頷きあった。

 そして改めてといった感じで、二人はステラに視線を向けた。


「ステラはどうする? 改めての勧誘になるけど、一緒に行かないか?」


 ――そう聞くニルの問いは、以前のステラが断ったものであった。


 しかし、今のステラは考えが変わっていた。

 ゴールとの戦闘で廃村はかなり荒らされており、薬草採取のペースは落ちるだろう。ニルたちと冒険していて気が付いたが、マグナス(お父さん)もステラの世話が絶対に必要な訳でもなかった。

 そして何より変わったのは、お金の――ニルたちへの感情だった。


 ――ニルの問いに、ステラは少し考えてから口を開いた。


「そうですね……自由市での買い物はニルさんのパーティーが奢ってくれるなら、ぜひ一緒に行かせて欲しいです!」

「ん? そんな事で良いのか?」


 ニルはステラから提案された随分と楽な条件を聞き、はてなと首を傾げた。

 実はステラの耳が赤くなっているのだが、髪の中に隠れているその様子を知る事ができるのは、クロードだけであった。

 しかしガルスは彼女の心情など知らずとも、これ幸いとばかりにやれやれと言った感じで言葉を引き継ぐ。


「いや、重要な事だろ。これは実質のパーティー加入発言と受け取れるね」

『ガルスの意見を肯定します。前回の発言と比較すると、ステラの遠慮の感情が低下している可能性が高いです』

「クロードさん、それは言わなくても良いですから……」


 むぅ、という感じでステラがむくれて、四人の笑い声が宿屋に響く。


 照れのような、羞恥のような、それでいて暖かなこの感情。

 言葉にし難いその言葉を、人は何と呼ぶのだろうか。

 少なくとも彼ら四人の中で、それはきっと同じ言葉の意味を持つ。


 そうして四人になった彼らは、少しだけ広がった世界へ思いを馳せていた。


 次の冒険は、もうすぐだ――――



21話は12/30 20:00更新です。


20.5話外伝を12/28 20:00投稿予定ですが、そちらは読み飛ばし可能です。


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