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第16話 亡霊騎士を追って2:後編

長かったので前後編で分割しました。

内容は変わってません。



 個室へと移動した四人は、改めて情報の整理をする事にした。


「それじゃ、一旦情報を揃えよう。クロード、頼めるか?」

『了解しました。情報の整理を行います』


 クロードの声が、静かだった部屋に響く。


『1.廃屋近くの湖で目撃されているが、目撃情報は森全体にある』


 まずは一つ。

 最初にニルが、机に肘をつきながら頷いた。


『2.ゴールの武器は強力な魔法武器だが、使い方が分からない。

 3.ゴールの鎧も強力な防具である可能性』


 クロードの言葉を聞きながら、ガルスは念のためにといった感じで、腰からゴールの短剣を引き抜き机の上にごとりと置く。


『4.ゴールの戦闘能力が高い可能。

 5.ゴールに神の酒を渡したい』


 そして最後に、ステラがこくりと頷いて。


『以上、5つと判断中です。間違いはないでしょうか?』


 クロードの整理が終わると、三人は黙って頷いた。

 誰も口を開かない。


 だがそれは、意味のない沈黙ではない。

 それぞれが頭の中に思い浮かべた同じ森を、どうやって進むべきかを考えていた。この沈黙は、前に向かおうとするが故の沈黙だった。


「……そうだな……」


 地図無しが前提となる探索に、確証のない亡霊の話。

 そして、まだ手に入っていない神の酒。


 ニルはクロードの言葉を噛み締めるように体を揺らしながら考えを纏め、椅子に深く腰掛けて大きく息を吸い込んでから吐き出した。


「……よし。とりあえず順番に考えるか。まず目撃情報の話だけど、これは現地に行って探すしかないと考えてる。皆はどう思う?」

「ニルに賛成だな。クロードの広域スキャンで探せないかもしれないなら、しらみつぶしに探すしかないだろ」

『ガルスに同意します。この問題に関しては、具体的な解決方法の提示が困難かと』

「なら、私が覚えてるゴールの蜜の場所を中心に森を探索するって感じで良いでしょうか?」

「そうなるな。この話に関しては、ステラを頼りにすると思う」


 その言葉に三人が頷いた。

 ニルの簡単な確認に、三人の意見がスムーズにすり合う。息の合った会話の区切りに頷いたニルは「じゃあ次だな」と、腕を組みなおしてから言葉を続ける。


「ゴールの武器だけど、これは使い方が分からないのもどうしようもないと思ってる。ガルス、「何かやれそう」みたいな感覚ってないんだよな?」

「ないな。相変わらず重いぐらいだ」

『再度のスキャンを実施しましょうか?』

「でも何もわからなかったって言ってませんでしたか?」

「だな。クロードの判断でスキャンするのは構わないけど、気を使っての提案ならやらなくて良いと思うぞ」

『了解しました』


 クロードの言葉に、ガルスが「まあ、これについては使い方が分からないで保留だろ」と言葉を続け、ニルも「だな。思いつかんわ」と同意する。

 ステラもしたり顔で頷いているが、どこまで分かっているのかは不明である。


「という事は、鎧も強力な防具かも、の話も同じですかね?」

「そうなるわな。ちょっと根性論になるが、『普通の鎧じゃない筈だ』と思って気構えしとくぐらいしかできん」

「それで大丈夫なんですか?」

『ステラに同意します。問題ないのでしょうか?』


 しかししたり顔だと見えたのは、ニルの勘違いであったらしい。

 彼女は純粋にニルとガルスの心配をしていたらしい。

 まず大丈夫なのか、が先行するあたり、この問いかけには彼女の性格が端的に表れていた。クロードも未知の存在を警戒しているらしく、ステラと一緒になって不安を投げる。


「まあ気持ちは分かるけど、こればっかりはなぁ…… 普通の鎧だと思って変な事になったら致命的かもだし、気構えできてるなら十分だって思うしかないぜ」

「だな。まあ最悪逃げればいいし、何とかはなるだろ」


 とは言え、ステラとクロードは不安そうだが、前衛に立つ二人が大丈夫だろうと納得している。行き当たりばったりになってしまうが、ここについては任せるしかない、という結論が動かせない。


『私は、ゴールの具体的な強さが気になっています。ニルとガルスの戦闘能力はかなり高いと分析しているのですが、ゴールの戦闘能力は明確にあなた達より上なのでしょうか?』


 しかしクロードが追及するその問いに、ニルとガルスは「何とも言えん部分だよなぁ……」と歯切れの悪い感じで言葉を返す。

 実際、二人としても言い分は理解できるのだ。


「亡霊っての一口に言っても、色々あるんだ。攻撃を受け付けない代わりに未練を晴らさないと消えない死を忘れた生霊(レイス)。意思をほとんど失ってるが、肉体を持ってるから物理的な被害を発生させる死を失った者(リビングデッド)。まあどっちのパターンでも戦闘能力は無い、もしくは低下してるんだが……」


 そう言って言葉を濁すニルに、ガルスが続ける。


「だがまあ、どっちのパターンもとにかく死なん。レイスは未練を解消してやらないとどうしようもないし、リビングデッドの方はまあ死なん。あいつら、首を斬り飛ばしてもくっつくし」

「それなんだよな。体を全部吹っ飛ばすか、どこかにある魔力的な繋がりを切ってやらない死なないんだよ。強いというか、面倒くさい」


 不死性は高いが、強くはない。

 要するにそういう話であった。


 そんなニルとガルスの説明が一段落すると、部屋の外から誰かが階段を上り下りする音が聞こえてくる。


 それは宿屋の日常が、変わらず続いているその証でもあり。

 そんな当たり前の事実が、今から非日常へと足を踏み入れようとする彼らの話題を、ほんの少しだけ異常だと囁くように浮かせてくる。


「亡霊になってるから強くなってる、というのはないのでしょうか?」


 しかし、ステラは言葉を続けていた。

 足の先ほどを日常から踏み出した程度の沈黙には負けないとばかりに、いつもの調子で口を開いた彼女の素朴な疑問がニルたちを捉える。


「場合によっちゃそのパターンもあるが、たぶん今回はないな」

「亡霊になった方が生前よりも強いって状況は、特別な武具とか魔力術式を使った所為で魔力を取り込み過ぎてるパターンだな。今回はゴールの武器がこっちにあるし、生前より強くなってる事はないと思う。 ……まあ、多分だが」


 そう言うニルの視線は、机の上に置かれたゴールの武器に落ちていた。

 窓から差し込む午後の光を吸い込むような、不気味な鈍色に。

 生前の持ち主がどれほどの技量を持っていたのか不明だが、その武器の重みは確実に想像の中に重い影を落とし込んでいた。


『……外部的な要因で、魔力密度を向上させる事が可能という事でしょうか?』

「俺とかガルスが使ってる身体能力強化も、一応だが外部術式に分類されるんじゃなかったっけ? 俺は詳しく知らんけど」

「多分ニルが言ってるのは、【象牙の塔】――魔術研究の総本山だな。そこから環境適応による自然進化がどうだこうだ、みたいな論文の話だな。何時か忘れたけど、なんか出回ってたぜ」

『ガルスは知っているのですか?』

「いや、意味がわからんかったから途中で読むのをやめた」


 ガルスが知らないと言ったからか、ニルは仲間を見つけたように笑う。


「要するにお前も知らないのか、仲間がいて良かったぜ」

「ニル。俺はお前の知らない、には『全然』って意味も含まれてると思うぜ?」

『――すみません。関係のない話を推測してしまいました。ゴールの具体的な強さは不明だが、生前より強くなっているとは考えにくい。纏めると、これで良いでしょうか?』


 脱線しかけた話を戻すようにクロードがそう締めると、ニルとガルスは「そういう事になるな」と同意して頷く。


「それじゃ、これが重要なんだが……ステラ、神の酒を用意できるあてはあるか?」

「だな。たしか、ゴールの蜜はまだ足りてないんだろ?」

「キーラさんに一度相談しますけど……多分、大丈夫だと思います」


 ニルとガルスの心配を、しかしステラはどこか確信があるような口調で否定した。


『自信があるのでしょうか?』

「キーラさんとの約束は、この瓶一杯になったら薬の作り方を教えてくれる、でした。蜜は薄めて使うと言っていましたし、ゴールさんに渡す量ぐらいなら作れるんじゃないか……と思います。たぶんですけど」


 そう語るステラの目と言葉には、確かな自信が見て取れた。

 特にニルは、彼女の薬の知識を既に経験している。そんな彼女が大丈夫だと言うのだから、おそらく大丈夫なのだろうと納得を示す。


「なるほどね。ここはステラの知識をあてにさせてもらうか」

「どっちみちキーラさんと話はしないとって感じもするしな。この話はステラに任せるって事で頼んで良いか?」

「はい、任せてください」


 ステラの了承の返事によって、情報が出揃った。

 ニルが背中のクロードに「なら悪いけど、改めて頼む」と声をかけ、クロードが『了解しました』と肯定する。


『それでは、改めて整理を行います。

 1.目撃情報は近隣の森全体なので、近隣の森全体の探索を行う。

 2.ゴールの武器は強力な魔法武器だが、使い方が分からないため普通の武器として使用。

 3.ゴールの鎧も強力な防具である可能性があるので、何かあると思って対峙する。

 4.ゴールは生前の戦闘能力は高いと推測できるが、亡霊化による強化は発生していないと思われる。

 5.神の酒は現在手元にはないが、後に用意はできると考えられる。

 以上で問題はないでしょうか?』


 クロードが改めて整理した情報を聞き、三人は同意して頷く。

 現状で揃えられる札は、おそらく揃えられた筈だ。


「順番的には、ステラが神の酒を用意してから森に入る感じになりそうだな」

「了解しました。お二人は、準備できるまではどうしますか?」

「俺は町中で終わる日銭稼ぎで時間潰すわ。冒険者ギルドか宿に居るようにするから、なんかあったら声かけてくれ。ガルスは武器の使い方を慣らしとけよ。まだ使いこなせんだろ」

「んじゃお言葉に甘えさせて貰うか」


 方向性は決まった。

 ステラは持ってきた飲み物をぐいっと飲み干し、まずはキーラに会って今日の話をするのだと決意した。

 どんな反応と言葉が返ってくるのか分からなかったが…… きっと話せばわかってくれると、そう信じて。


 そして四人は同時に部屋を出て、それぞれに動き出すのだった。




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