打ち上げにて
日が傾くころ、俺たちはギルドに戻ってきた。
報告を済ませ、討伐した魔物の素材を提出すると、銅貨と銀貨を合わせた報酬が手渡される。
「これで依頼は完了だな」
ガルドが大きく伸びをし、豪快に笑う。
「お前、初めてにしては上出来だったぜシズク!」
「いえ……皆さんに助けていただいたおかげです」
素直に答えると、ガルドは肩を叩いて笑った。
「謙虚だな。だが氷槍の威力はなかなかだったぞ」
横でライルが小さく頷く。
「冷静に撃っていた。慣れればもっと活かせるはずだ」
そして、ミナが口を開いた。
「……不用意に深入りしなかったのも良かった。自分の力量を分かってるってことだから」
淡々とした声だったが、その眼差しは真剣で、わずかに何かを探るようでもあった。
俺は曖昧に微笑み、礼を言うに留めた。
解散した後、俺は自然と酒場へ足を向けていた。
昼間は静かなそこも、夜になれば再び冒険者たちで賑わう。
「お、帰ってきたな!」
カウンターの奥で、ラウルが手を振った。
「初討伐依頼はどうでした?」
「無事に終えました。……本当に命懸けの仕事だと痛感しました」
俺が答えると、ラウルは目を細めて頷いた。
「それでも帰ってきた。それが何よりです」
そう言って、彼はグラスを取り出し、琥珀色の酒を注いだ。
「約束通り、一杯ご馳走しますよ」
「ありがとうございます」
俺はグラスを受け取り、口をつける。
冷えた酒が喉を滑り落ち、全身に疲労が抜けていくようだった。
「――うまい」
思わず呟いた言葉に、ラウルが笑う。
「それはきっと、無事に帰ってきたからですよ」
その夜も酒場は盛況だった。
依頼を終えた冒険者たちが成果を報告し合い、戦果を酒の肴に盛り上がる。
ガルドの声が響き、ライルがそれに呆れ、ミナは黙って盃を傾けていた。
俺はカウンターの中でグラスを拭きながら、その光景を眺めていた。
ほんの数日前まで日本にいたのに、いまはこの賑わいの一部になっている。
不思議な充実感が胸に広がった。
「ねぇシズクー、聞いた?」
常連客の一人が、面白そうに身を乗り出してきた。
「何をです?」
「何って、ギルドの酒場を前に切り盛りしてた姐さんの話だよ。めっちゃ豪快な人でさ、腕っぷしも強くて。戻ってきたら、きっとお前と意気投合するぜ」
「……そんな人が?」
「ハンナ姐さんってんだ。見た目は怖ぇけど、世話焼きでいい人だったってさ」
ハンナ――。
名前を聞いた瞬間、周囲の冒険者たちが「ああ、あの人か」と笑いながら頷いた。
どうやら伝説めいた存在らしい。
俺は苦笑しつつも、どこか興味を引かれるのを感じていた。
深夜。
喧騒が少し落ち着き、客がまばらになった頃、俺は再びカウンターを拭いていた。
酒場は賑やかさと静けさを交互に繰り返す。不思議と落ち着く空気だ。
「……ここでなら、器用貧乏でも居場所を見つけられるかもしれないな」
そんな独り言を、琥珀色の酒が優しく包み込んでくれる気がした。