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道具作成にて


 夕暮れ時、シズクはカイルの鍛冶場を訪ねていた。炉の熱気が外まで漂い、扉を開けた瞬間、むっとする熱風が頬を打つ。


 「よぉ、来たな」


 カイルが額の汗を拭いながら顔を上げた。作業を終えたばかりなのか、肩には煤がついている。


 「試作、いくつか出来たって?」


 「おう。言ってた道具をな、形にしてみた。完璧じゃねぇが、試してみてくれ」


 作業台には数点の金属製の道具が並んでいた。計量用のカップ、細い棒のようなスプーン、そして簡素なレバー式の計算器。

 シズクはひとつひとつ手に取り、重さや扱いやすさを確かめる。


 「おぉ……。メジャーカップ、ぴったり容量が分かるな。角度も注ぎやすい」


 「そいつは鍛冶師の腕ってやつよ」カイルが鼻を鳴らす。


 次にバースプーンを手にする。柄の部分が少し長めで、持つと自然に回しやすい。


 「これは……いいな。長さも程よい。これならグラスの底まで届く」


 「混ぜやすいように、少しねじってある。お前が言ってた通りにな」


 「さすがだな」


 自然と笑みがこぼれる。

 最後に計算器を試す。硬貨をはめ込み、レバーを引くと、音を立てて数字がカチリと動いた。


 「……すげぇ。本当に合計が出る」


 「まだ試作だ。細かい硬貨の種類は対応してねぇが、概算ならすぐ出せる」


 「いや、これがあるだけで会計がずっと楽になるよ」


 「そうか、それなら作った甲斐がある」


 炉の赤い火が二人を照らす中、シズクはしばらく道具を手にして試し続けた。ひとつひとつが現代で見慣れたものに近い。それをこの世界の技術で再現していることが、不思議で嬉しかった。


 「カイル、正直驚いた。ここまで形になるとは思ってなかった」


 「へっ、言ったろ。俺は親父の血を引いてる。頑固親父に比べりゃ柔軟だが、腕は負けねぇ」


 カイルは得意げに笑った。


 「それにしても……」シズクはふと真剣な顔をした。


 「どうした?」


 「いや、道具を試してて思ったんだ。これがあれば、俺がやろうとしてる酒場はもっと特別になる。今まで以上に、お客さんが驚いて楽しんでくれる」


 「それでいいんじゃねぇか?驚かせて、楽しませて、また来てもらう。それが商売ってもんだろ」


 「……だな」


 ふと、視線を工房の片隅にやると、布で覆われた長い包みが目に入った。


 「それは……?」


 カイルがちらりと視線を向けて答える。


 「あぁ、親父が打ってるお前の剣だよ。まだ途中だが、形は見えてきてる。……もう少しで出来るってさ」


 シズクの胸が高鳴る。魔法を纏わせても耐えられる剣。自分の戦い方に欠かせない一本になるだろう。


 「そうか……楽しみにしてる」


 「完成したら真っ先に知らせてやるよ」


 カイルは笑い、再び炉の方へ向き直った。

 工房を後にしたシズクは、試作品を抱えながら夜の通りを歩いた。月明かりに照らされ、道具の金属がわずかに光を反射する。

 胸の奥に確かな手応えがあった。酒場の未来が、また一歩近づいた気がする。


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