報酬の受け渡しにて
森から戻った俺は、革袋を抱えてギルドの受付に並んだ。
窓口の奥に立つのは、昨日と同じエリナだ。
「依頼の納品ですか?」
「はい。薬草です」
差し出した袋を、彼女は丁寧に確認する。
一枚一枚、葉の形や状態を見て、最後に微笑んだ。
「きちんと採取されていますね。初めてにしては上出来です」
俺は思わず安堵の息をついた。
テーブルに置かれた布袋を受け取る。中身は銅貨数枚と銀貨一枚。
手のひらに乗せると、ずしりとした重みが伝わってくる。
「……これが、この世界での初めての稼ぎか」
金属の感触に現実味が一気に増す。昨日までの俺は異邦人でしかなかったが、いま確かに「この世界で働いて金を得た」と実感できた。
「お疲れさまでした。体は大丈夫ですか?」
エリナの問いに、思わず苦笑する。
「ええ、まあ。ただ……油断すると危ないなと」
頭に浮かんだのは、森で見たあの戦闘。
助けた女性冒険者の顔がよぎるが、言葉にはしなかった。
「……そうですね。気をつけてくださいね」
彼女はそれ以上追及せず、優しく頷いた。
夜、酒場に戻ると、いつにも増して賑わっていた。
冒険者たちがジョッキを掲げ、報酬を得た喜びを笑い合っている。
獲物の話、失敗談、次の依頼の予定。
それぞれの声が交じり合い、空気が熱を帯びていた。
「おや、帰ってきましたね」
カウンターに座っていたラウルが手を挙げた。
「どうでした? 初仕事は」
「おかげさまで、無事に終わりました。……金の重みは想像以上に現実的ですね」
ラウルは目を細め、どこか含みのある笑みを浮かべた。
「それを続けていけば、きっとこの街でも居場所ができるはずです」
ふと視線を巡らせると、賑やかな席の一角に数人の冒険者が集まっていた。
大柄な戦士風の男、快活に笑う若者、そして――どこか見覚えのある女性の後ろ姿。
後に深く関わることになる面々だと、この時はまだ知らなかった。
ジョッキを拭き、冷えた酒をカウンターに並べる。
客たちの歓声に混じって、報酬袋の重みをもう一度確かめた。
「……これが、俺の新しい生活の始まりか」
独り言のような呟きは、酒場の喧騒にすぐかき消された。