久しぶりの討伐依頼にて
冒険者ギルドの掲示板に、新しい依頼が貼り出されていた。
「ゴブリン種増殖につき、中規模討伐依頼。近隣の村への被害を防ぐため、総勢二十名での掃討作戦」
昼過ぎにギルドへ立ち寄ったシズクは、その張り紙を見て立ち止まった。後ろから声が飛んでくる。
「お、シズク! お前もこの依頼、出るのか?」
振り返れば、バランが斧を担いで立っていた。いつも明るい彼は既にやる気に満ちている。さらに後ろからガルドも現れた。
「ちょうど良い規模だな。シズクも出るなら心強い」
シズクは自然に笑みを返す。
「ああ。こういう討伐なら、俺の立ち回りも役に立つだろうしな」
以前なら「俺なんて」と謙遜していた言葉は、もう出てこない。冒険者として認められた実感が、胸の奥でしっかり根を張り始めていた。
――
討伐当日。二十名の冒険者が郊外の草原に集合した。顔見知りの者も多く、和やかな空気の中で軽い打ち合わせが行われる。
標的の巣は小高い丘のふもとにある洞穴だ。既に周辺でゴブリンの姿が確認されており、こちらに気づけば群れで襲いかかってくる。
「前衛は俺とバランで押し込む。シズクはサポートだな」
「了解。隙間を埋めるのは得意分野だからな」
仲間たちはにやりと笑い、肩を叩いていく。その言葉に嘘はないと皆が知っていた。
――
作戦開始。
洞穴から飛び出してきたゴブリンたちが甲高い声を上げながら突進してくる。数は二十を超えている。
「行くぞ!」
ガルドが剣を構え、バランが大斧を振り下ろした。前衛の突進で敵の勢いを削ぎ、後衛の魔法と弓矢が一斉に放たれる。
シズクはその隙間を縫うように走り込む。剣で一体を斬り伏せながら、氷槍を放って仲間の背後に迫った敵を撃ち抜く。
「シズク、後ろ!」
「分かってる!」
すぐさま土魔法で地面を隆起させ、敵の動きを止めた。仲間がその隙に討ち取る。
「助かった!」
「任せろ」
短い言葉の応酬が自然と成り立つ。誰もがシズクの立ち回りを信頼し、その器用さに助けられていた。
数十体のゴブリンを掃討するまで、全員の息がぴたりと合った。
――
討伐を終え、ギルドに戻った後。依頼主から報酬が手渡される段になって、ギルド側の担当者が言った。
「今回、特に活躍の目立った者に追加報酬を渡したい。シズク、君だ」
差し出された袋は他の者よりも重い。シズクは一瞬目を見開いた。
「俺は出来ることをやっただけだぞ?」
「その“出来ること”が、どれだけ助けになるか分かってるか?」
ガルドが笑いながら背を叩く。
「いいからもらっとけ。お前のおかげで被害ゼロで済んだんだ」
「そうそう!シズクのサポートがなかったら、俺の斧も空振りしてたかもしれねぇ」
バランも大きく頷く。
周囲の仲間たちも口々に同意の声を上げる。その熱に押されるように、シズクは袋を受け取り、少しだけ苦笑した。
「……分かった。ありがたく受け取っておくよ」
袋の中身の重みを感じながら、シズクは心の中で静かに数えた。
――これで独立資金に、また一歩近づいた。
今まで遠い未来の話のように思っていた「自分の店」が、ぐっと現実に近づいてきた気がする。
酒場での顔と冒険者としての顔。どちらも今の自分には欠かせない。
その両方があるからこそ、独立の未来も掴めるのだとシズクは思った。
そうして彼は袋を腰に下げ、夜の街を歩き出す。酒場で仲間たちと交わす乾杯を思い浮かべながら。




