深夜の酒場にて
その夜の酒場は、早めに静けさを取り戻していた。
常連客も冒険者も帰り、残っているのはカウンターに座る一人の女性だけ。旅人風の彼女は空になったジョッキを指でなぞりながら、シズクを見つめていた。
「……マスターじゃなく、シズクって呼べば良いのよね」
「ええ。呼びやすい方でどうぞ」
「じゃあ……シズクも一杯どうぞ」
彼女は自分のジョッキを軽く掲げる。
シズクは苦笑しつつ、グラスを取り出して並べた。自分用に注いだ酒も魔法で冷やし、二人で軽く合わせる。
「乾杯、ですね」
「ふふ、特別な夜みたい」
軽く笑い合いながら、彼女は旅先での話を語った。見た景色、商人とのいざこざ、そして「独りだとつい喋りすぎちゃう」と少し寂しげに。シズクはグラスを拭きながら、静かに耳を傾けていた。
やがて、酒場は二人きりになった。
「そろそろ閉めますね」
「……まだ帰りたくないの」
その言葉に、シズクはカウンター越しに身を寄せ、顎を指で持ち上げて軽く唇を重ねた。短いキス。しかし彼女はさらに頬を赤らめ、身を寄せてくる。
「……じゃあ、二階で休んでいきますか」
女性は小さく頷き、二人は酒場の灯りを落として階段を上がった。
――部屋に入ると、彼女は勢いよく抱きついてきた。
「なら、覚悟してもらいますよ」
シズクは耳元で優しく囁き、腰を抱き寄せて応じた。普段は柔らかい対応のシズクも攻められると応戦するため攻めに転じる。
触れ合うごとに熱が増し、互いに求め合うままに時間は過ぎていく。
やがて激しい時間は落ち着いていき、二人はベッドに横たわっていた。
女性は微笑みながら、少し照れくさそうに言葉をこぼす。
「……シズクのイメージより激しかったわ」
「そうしてほしそうだったから。……嫌だった?」
彼女は顔を赤らめながら、小さく首を振った。
「……い……嫌じゃなかったわ」
「それならよかった」
しばしの沈黙ののち、女性はシーツから抜け出し、服を整える。
「じゃあ、もう行くわね」
「ふふっ、さっぱりしてますね」
「旅人は後腐れしないのよ」
そう言って魅力的な笑顔を残し、彼女は去っていった。
部屋に一人残されたシズクは、窓から差し込む朝の光を見つめ、小さく息を吐いた。
「……やれやれ。深夜の酒場は油断できないな」




