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街の散策にて

 

 護衛任務が一度終わり、次の出発まで二日の猶予ができた。冒険者仲間たちは装備の確認や休養に充て、シズクは一人で町を散策することにした。

 朝の市場は、露店が立ち並び、人々の声と香りで賑わっていた。果物の甘い匂い、肉を焼く香ばしい匂い、香辛料の刺激的な香りが混ざり合い、歩いているだけで楽しい。


「日本の商店街とは全然違うけど……これはこれでいい」


 自然と頬が緩む。

 ふと、酒樽を並べた露店の前で足が止まった。看板には「ウィス」と書かれている。樽から注がれた琥珀色の液体がグラスに揺れ、陽光を反射してきらめいていた。


「どうだい、旅の人。試してみるか?」


   陽気な店主が声をかけてきた。


 「……じゃあ、一口」


   シズクはグラスを受け取り、口に含んだ。

 強いアルコールの香りと、独特のスモーキーさ。喉を通る熱さの後に、深い余韻が広がる。


  「……これは、ウイスキーだ」


   思わず口に出していた。懐かしい味に、胸の奥がざわつく。


 「気に入ったか?」


  「ええ、三本程いただきます」


  「まいど!」


 小瓶を受け取ったシズクは、しばらくその色を眺めた。まさか異世界でこんな酒に出会えるとは思わなかった。


  「これを……ハイボールにすれば」


   脳裏に浮かぶのは酒場の光景。冷えた炭酸水と合わせれば、きっと客たちを驚かせ、喜ばせられるはずだ。

 市場を一通り回った後、シズクは軽い昼食を取り、街の酒場をいくつか覗いてみた。どの店も賑わっていたが、出される酒はやはり常温ばかりだった。冷たい酒の存在がないこの世界で、自分の魔法は大きな強みになる。


  「冷やして、炭酸で割って……くぅ、絶対盛り上がるな」


   思わず一人で笑ってしまった。

 日が暮れ、宿に戻ったシズクは買ったウィスの瓶を机に置いた。ランプの明かりで琥珀色が美しく輝く。


  「ただ飲むんじゃなく、どうやって楽しんでもらうか……それを考えるのが面白い」


   独り言をつぶやきながら、ニヤリと笑った。

 酒場で客の驚く顔を思い浮かべる。新しい酒、新しい味。それを提供するのは自分だ。


  「次の打ち上げで出してみるか」


   そう考えるだけで胸が躍る。

 窓の外では夜の喧噪が広がっている。シズクはベッドに横になり、これからどうやってこの世界を楽しんでいくかを思案しながら、静かに目を閉じた。


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