野営にて
夕暮れが近づき、一行は街道脇の広場で野営の準備を始めた。
馬を繋ぎ、荷を降ろし、焚き火のために木を集める。シズクも手際よく動き、火の準備を整えると、魔法で小さな火種を起こした。
「……便利だな、魔法ってやつは」
ガルドが腕を組んで笑う。
「火打ち石の手間が省ける」
「まあ、こういうのは得意なんで」
俺は苦笑いしながら返す。
焚き火がぱちぱちと音を立て、やがて炎が勢いを増していく。香ばしい匂いと共に、鍋に入れられた野菜と肉が煮えていった。
「さっきの戦い、見事だったぜ」
ガルドが豪快に肉をかじりながら言った。
「剣の振りも悪くなかった。初めてとは思えん動きだったぞ」
「いや、必死だっただけですよ。ミナが抑えてくれたおかげです」
そう言うと、ミナは少しだけ首を横に振った。
「……シズクもちゃんと斬った。連携できてた」
その言葉に、ガルドが大きく頷く。
「そうだ。お前はもう十分、冒険者の一人だ。だから――」
肉を飲み込み、にやりと笑った。
「俺たちに敬語はいらねぇ。仲間なんだからよ」
「え?」
思わず固まる。
「お前、最初から丁寧にしゃべってただろ。悪くはねぇけどな、距離を感じるんだよ。仲間なら、気を張らずに話せ」
ミナも焚き火を見つめながら、小さく言葉を添える。
「……私も、その方がいい」
少し迷ったが、胸の奥が温かくなった。
(仲間……か)
深く息を吐き、頷いた。
「……分かった。じゃあ、これからは気楽に話すよ」
ガルドが豪快に笑う。
「ガッハッハ! そうこなくっちゃな!」
その笑い声に、俺も自然と笑みを返していた。
食事が終わり、皆で焚き火を囲む。
商人たちは商人同士で静かに話しているが、冒険者の輪は和やかで、どこか心地いい。
焚き火を囲んでいると、ガルドが声をかけてきた。
「お前、酒場でも器用に立ち回ってるよな。客の扱いとか見てると感心するぜ」
「ああ……まあ、なんとかやってる」
少し照れながら答えると、ガルドは満足げに頷いた。
「そういうやつは強ぇ。戦いも日常も、全部生き延びるために必要だからな」
その言葉に、胸がまた熱くなる。
焚き火の光が揺れ、仲間の顔を照らす。
炎を見つめながら、俺は思った。
(……この世界にも、ようやく居場所ができてきたのかもしれない)
夜風が心地よく、焚き火の音が眠気を誘う。
初めて「冒険者仲間」と呼べる存在と過ごす夜。
その温かさは、何よりも強い実感として胸に残った。




