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護衛依頼終わりにて

 

 隣町での護衛を終え、翌朝には街へ戻ってきた。

 石畳の道を踏みしめながら、見慣れた酒場の看板が視界に入る。

 胸の奥がじんわり温かくなった。まだ数日しか経っていないのに、この場所がもう俺の拠点のように感じる。


「おかえりなさい」


 扉を開けると、カウンターの奥にいたラウルが笑顔で迎えてくれた。


「初めての討伐も混ざった護衛でしたね。どうでした?」


「……まあ、なんとか、ですかね」


 俺は肩をすくめ、苦笑した。

 ミナは特に言葉を挟まず、静かに席に腰を下ろしている。


「ほう、帰ってきたか」


 奥のテーブルではヴァンが既に飲んでいた。


「ガッハッハ! 顔を見る限り、大怪我はなさそうだな」


「はい。魔物には遭いましたけど、ミナのおかげで無事でした」


 俺がそう言うと、ミナはちらりと視線を寄越しただけで、すぐにグラスに口をつけた。

 

 夕方が近づくにつれ、酒場は徐々に賑やかになっていく。

 木製のテーブルに次々と料理や酒が運ばれ、常連の笑い声が響き始めた。

 俺はカウンターの中に立ち、グラスを磨きながら、客たちの視線を感じる。


「おうシズク、聞いたぞ。護衛に行ってきたんだってな!」


 常連の一人、鍛冶屋の男が声をかけてきた。


「そうなんです。初めてで緊張しましたけど、なんとか帰ってこれました」


「おお、それはめでたい! 一杯奢ってやる!」


 笑いながらジョッキを差し出すので、俺は魔法で冷やして返した。


「おぉ、これこれ! 冷えた酒を一口やれば、どんな疲れも吹っ飛ぶ!」


 鍛冶屋の豪快な笑い声に、周囲の客も「冷やし酒だ!」と盛り上がった。

 横でそれを見ていたミナは、静かにグラスを傾けながら、ちらと俺を見ていた。

 その視線の意味までは、俺には分からない。

 

「で、どうでした? 実戦は」


 ラウルが穏やかな声で問いかける。


「……怖かったです。氷槍で牽制はできましたけど、決めきれなくて」


 俺は正直に答える。


「結局、ミナが全部仕留めました。俺はまだまだです」


「ふむ」


 ヴァンが豪快に杯を傾け、喉を鳴らした。


「若ぇもんが最初から完璧だったらワシらの立つ瀬がねぇ。転んで、這い上がって、それで強くなるんだ」


「……そうですね」


 素直に返事をすると、ヴァンは「よし」と頷いて笑った。

 

 その後も常連たちから次々と声をかけられた。


「護衛ってどんな感じだった?」


「魔物はどれくらい強かった?」


「怖くなかったのか?」


 質問の嵐に、俺は苦笑しながらも答えていく。

 馬車の揺れ、商人との会話、氷槍がかすったときの手応え。

 話すほどに、あの緊張が少しずつ形を変え、笑い話になっていく。


「へぇ~、やっぱりすげぇなシズク」


「いやいや、俺はまだまだですよ」


 そう言って笑うと、店内に柔らかい空気が広がった。

 

 ふと気づくと、カウンターの端に座るミナがこちらを見ていた。

 彼女は何も言わず、ただ静かに杯を口に運んでいる。

 だがその目には、わずかな熱が宿っているように見えた。


(……気のせいか)


 俺はそう思い直し、グラスを拭き続けた。

 

 夜も更け、酒場の喧騒が落ち着き始めたころ。

 俺は空になったジョッキを片付けながら、心の中で呟いた。


(もっと強くならないと。俺なりのやり方で)


 剣も魔法も中途半端かもしれない。

 でも、それを組み合わせれば、器用さを生かした戦い方になるはずだ。

 酒場の灯りの下、冷えたグラスが静かに光を返していた。


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