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剣術練習にて

 翌朝。

 俺はミナに声をかけた。


「なあ、剣術を少し教えてくれないか」


 彼女は一瞬だけ目を細めて俺を見た。


「……私も新人。基本的なことしか知らない」


「それで十分だよ。魔法だけじゃ心もとないから」


 しばし考え込んだのち、ミナは小さく頷いた。


「分かった。明日の依頼に備えて、少し見ておく」


 裏手の空き地で、木剣を手渡される。ずしりとした重み。握り方からして分からない。

 俺が不格好に構えると、ミナが静かに近づき手を添えた。


「握りすぎ。力を抜く……こう」


 彼女の指が俺の手を導き、柄の位置を直す。

 近い距離にわずかに緊張したが、その眼差しは真剣そのものだった。


「剣は振り回すものじゃない。重さを流れに乗せる」


 ミナは木剣を軽く振る。無駄のない動きで、風が切り裂かれる音が響いた。

 俺も真似をする。最初はぎこちなく、腕が空回りする。

 だが何度か繰り返すうちに、少しずつしっくりくる。


「……悪くない。でも剣が軽い」


 短い言葉に、思わず苦笑する。

 形にはなるが、迫力も重みも足りない。自分でも分かっていた。


「分かってるなら、それで十分」


 ミナはそれ以上言わず、次の型を示した。


 構え、踏み込み、払い。

 一通り繰り返したあと、俺は試しに木剣と魔法を組み合わせることを思いついた。


「――氷槍」


 短い詠唱とともに、小さな氷の刃が木剣の切っ先に沿うように生まれる。

 振り下ろすと、木の標的に薄い傷が刻まれた。


「……やる」


 ミナの声がわずかに驚きを含む。


「形にはなった。でも、すぐに息が上がる」


「確かに……付け焼刃だな」


 膝に手をつき、荒く呼吸を整える。

 魔力と体力の両方を消耗して、まだまともに戦える状態じゃなかった。


 日が傾き始め、稽古は終わった。

 俺は木剣を返し、地面に腰を下ろす。


「ありがとう。基礎が分かっただけでも大きい」


「礼はいい。……明日の依頼、護衛。街から隣町までの道を抜ける」


「護衛、か。剣が使えるなら確かに安心だな」


 互いに視線を交わし、わずかに笑みを浮かべる。

 冒険者としての一歩を並んで踏み出した気がした。


(不器用さも器用さも、どっちも俺の一部か……)


 夕陽が赤く染める空の下、俺は初めて剣を教わった一日を心に刻んだ。

 


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