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魔法訓練にて


 昼下がりの陽光が、訓練場の石畳を照らしていた。

 酒場の裏手にある小さな空き地――普段は荷物置き場にしている場所だが、今日は特別だ。


 「よし、今日はリリィの魔法の実力を見せてもらおうか」


 シズクが腕を組んで言うと、リリィは張り切った表情で胸を叩いた。


 「了解っす! 期待しててください!」


 「うん、でも無理はしないようにな」


 「任せてくださいって!」


 元気よく返事をしてから、リリィは少し距離を取って魔法陣を展開した。

 掌に淡い光が集まり、小さな火球が浮かび上がる。


 ――おお、基礎はちゃんと出来てるな。


 シズクは心の中で感心する。

 だが次の瞬間、リリィが勢いよく魔力を込めた瞬間――


 「え、ちょ、あっつつつつつ!?」


 火球が予想以上に膨れ上がり、爆ぜるように弾けた。

 慌ててシズクが手を振ると、風魔法で爆風を散らす。

 リリィは尻もちをついたまま、顔に煤を付けて呆然と空を見上げた。


 「……っす……?」


 「リリィ、大丈夫か?」


 「……大丈夫っす……たぶん……」


 「はは……勢いはすごかったけど、魔力の制御がちょっと荒いね」


 「うう、わかってるっす……。でも、ちゃんとやるつもりだったんすよ?」


 しゅんと肩を落とすリリィに、シズクは笑みを浮かべて手を差し伸べた。


 「見本を見せようか」


 「……はいっす」


 シズクはゆっくりと右手を掲げた。

 魔法陣を展開――火、水、風、土。複数の属性が重なり合い、形を変えながら静かに輝く。

 火球が生まれ、風が包み込み、温度を抑えたまま掌の上で安定して回転している。


 「これくらい、力を抑えて……ほら」


 ぽん、と小さな火の玉を空へ放つと、それは夜空の花火のように弾けて消えた。


 「……すげぇ……」


 リリィは目を丸くして見とれていた。


 「今の、全然暴れなかったっす。どうやってるんすか?」


 「うーん……感覚、かな。力を出そうとするんじゃなくて、流れを“通す”感じ」


 「通す……っすか」


 「焦らず、ゆっくりやれば大丈夫。リリィは魔力の出力が強いから、コントロールできればすぐ上達するよ」


 リリィは煤のついた頬をぬぐいながら、ぱっと顔を上げた。


 「よーしっ、次は成功させてみせるっす!」


 「おっ、いい意気込みだ」


 「見ててくださいね、シズクさん!」


 ――あぁ、やっぱりこの子は素直だ。


 そう思いながら、シズクは少し距離を取り、彼女の背中を見守った。

 その日、リリィは何度も火球を作り、何度も失敗し――けれど、最後にはようやくひとつ、

 小さくも安定した光を浮かべることに成功した。


 「できた……!」


 「やったな」


 リリィは嬉しそうに拳を握りしめた。

 その笑顔を見て、シズクも思わず頬を緩める。


 ――こうやって少しずつ成長していくのか。


 その姿が、どこかミナの最初の頃と重なって見えた。


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