みんなとの打ち上げにて
夜の酒場は、依頼を終えた冒険者たちでいつにも増して活気づいていた。
昼間の討伐で手柄を上げたガルドたちのパーティが、打ち上げにと席を陣取っている。
笑い声、酒の匂い、皿の山。いつもより一段とにぎやかだ。
「シズク! お前も飲め!」
ガルドが豪快に声をかけてくる。
大ジョッキを掲げ、待ちきれない様子だ。
「はいはい。ただし飲み過ぎないでくださいよ」
俺は冷えたエールを差し出す。
ジョッキを受け取った瞬間、ガルドの笑顔がさらに大きくなった。
「やっぱ冷えてると違ぇな! こいつのおかげで打ち上げが華やかになる!」
その一言で周囲がどっと盛り上がる。
カウンターの奥からヴァンが「調子に乗るなよ」と呟いたが、声は笑っていた。
ライルは少し控えめに杯を傾けながら、俺に視線を送る。
「それにしても、今日は随分と魔法を使ってたな。火に風に氷……器用だな」
「まぁ、いろいろ触ってきただけですよ」
肩をすくめると、彼は感心したように頷いた。
「普通はひとつ極めるもんだが……まあ、それがシズクらしいのかもな」
そう言って笑みを浮かべる。
その横で、静かに杯を置いたのはミナだった。
彼女は普段と変わらぬ無表情で酒を口にしていた。
けれど、その視線だけは俺を捉えている。
「……氷槍」
ぽつりと落ちた言葉に、ガルドとライルが首を傾げた。
「ん? どうしたミナ」
「いや……あの魔法、ずいぶん正確だった」
「確かに。あんなに真っ直ぐ突き刺さるのは珍しいな」
ガルドが豪快に笑う。
俺は曖昧に微笑んでジョッキを拭いた。
「得意ってほどじゃないですけど、まあ、狙ったところには行ってくれますね」
「……そう」
それ以上は何も言わず、彼女は再び酒に口をつけた。
ただ、その目はほんの少しだけ探るような色を宿していた。
騒ぎの中心はガルドだ。
「よし、次は俺の武勇伝を聞け!」
「また始まった!」
「勘弁してくれよ!」
大笑いが響き渡り、酒場の空気がさらに熱を帯びていく。
その賑わいの中で、俺はひととき立ち止まった。
(案外この雰囲気にも馴染めてるな……。楽しいと思ってる自分もいる)
やがて夜も更け、客が少しずつ帰っていった。
残ったのはパーティの三人だけ。
ライルが立ち上がり、伸びをする。
「そろそろ引き上げるか。明日に響いても困るしな」
「おう、じゃあまた依頼でな!」
ガルドが肩を組んで去っていく。
その背を追いかける前に、ミナが一度だけ振り返った。
視線が俺を射抜き、短く言葉が落ちる。
「……あなた、戦い慣れてるのね」
それだけ告げると、彼女は歩み去っていった。
残された俺は、しばしジョッキを拭く手を止めていた。
言葉の意味を深く考えることもなく、ただ賑わいの残り香を味わっていた。