断罪イベント365 ― 第2回「雨漏り」
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
豪奢な大広間。シャンデリアはまばゆく輝き、床は大理石。
壇上の王子が胸を張り、声を張り上げる。
「本日この場をもって――」
ぽたり。
「……?」
王子の鼻先に冷たい雫が落ちた。
続けて天井から、ぽたぽた……。
観衆がざわつく。
「雨漏り!?」
「殿下、屋根に穴が!」
「えっ、王宮なのに?」
使いが慌ててバケツを持ち込み、床に並べる。
カン、カン、カン……水滴のリズムが断罪の宣言をかき消した。
「こ、これは! 神々の涙である!」
王子は必死に両手を広げてごまかす。
「ちがうでしょ!」
「修繕費ケチったな!」
「殿下、クラウドファンディングなされては?」
観衆の突っ込みが容赦ない。
バケツの数はどんどん増え、音は合奏のように広がっていった。
「これは神聖なる演出! 断罪交響曲だ!」
王子は声を張るが、
カンカンカン……観衆は笑いをこらえきれない。
そのとき、東屋の悪役令嬢(予定だった婚約者)が立ち上がった。
扇を広げ、すっと目を細める。
「殿下。屋根も直せないのに、
婚約者を守れると本気でお思いで?」
カン、と雨水がいいタイミングでバケツを叩く。
場内、爆笑。
「浮気の証拠? 必要ありませんわ。
財政難こそ最大の裏切りですもの」
すると、もう一人。
本来“悪役”とされていた令嬢までもが、
冷ややかに立ち上がった。
「殿下……わたくしも、もう愛想が尽きました」
「えっ……!」王子の顔から血の気が引く。
「屋根すら守れない方に、未来を託せません。
雨漏りに怯える玉座など、誰が座りたいと思うでしょう?」
観衆は大きなどよめきとともに拍手を送った。
王子は真っ赤になって叫ぶ。
「ま、待て! これは断罪に深みを――」
「深いのは穴でしょう」
観衆が一斉にツッコんで、会場は笑いと失望の渦になった。
最後に王子を見た悪役令嬢の瞳は、
完全に氷のように冷えていた。
総評:まずは屋根を塞げ。話はそれからだ。