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わたしとAIと小説と  作者: 藤村さつき
9/10

9- AI時代に小説家がすべきこと

 この数週間、AIが小説を書いたり、文体を模倣したり、編集をしたりする未来について考え続けてきた。そのおかげで、自分の心の中にあった小さな混乱や葛藤が少しずつ整理され、明るい未来が見え始めてきた気がする。


 そこで改めて思うのだ。


 AIが当たり前の存在になった時代に、小説家であるわたしは一体何をすべきなのだろう?


 これまで、わたしはAIができること、できないことを冷静に考え、その度に自分自身を振り返ってきた。AIと人間、それぞれの得意な分野がはっきりしてきた今、わたしたち人間作家がやるべきことも自然に見えてきたように思う。


 まずは、『自分らしさ』を追求することだ。

 少し前まで、わたしは自分の書くものが「誰かの文章に似ている」と指摘されることを恐れていた。三浦しをんさんの影響を指摘された学生時代のことも、その後、自分らしい文章を探して試行錯誤した日々もよく覚えている。


 でも、AIが巧妙に作家の文体を模倣できるようになった今、自分らしさを見つけることの重要性は、むしろ増していると思う。


 なぜなら、文体やテーマをただ表面的に真似することはAIでも簡単にできるが、その根底にある「作者の経験」や「感情」、そして「人生そのもの」を真似することはできないからだ。


 例えばわたしのエッセイには、よく猫のおもちが登場するが、このおもちは、ただの「猫」という一般概念ではなく、わたしだけが知っているおもち特有の気まぐれや癖、わたしとの特別な関係性があるから魅力的に描けるのだ。


 AIはどれだけ猫の情報を集めても、わたしが感じるおもちの小さな気配やぬくもり、目が合った瞬間の胸の高鳴りまでは再現できないだろう。つまり、自分だけが感じ取れる世界を描くことこそが、AI時代の人間作家に求められることなのだ。


 次に、『人間性』を大切にすることだ。

 AIが書く物語は、論理的で整然としている。でも、それが必ずしも読者の心を深く揺さぶるわけではない。人間が感動したり共感したりするのは、むしろ人間が持つ脆さや、弱さ、葛藤などの曖昧な部分が表現されているからだ。


 少し前にわたしが書いた短編を投稿した時、ある読者から『共感した』という感想をもらった話をした。その時わたしは、人間の弱さや曖昧さを隠さず、むしろ積極的に書くことの重要性に気づいた。


 わたし自身、文章を書いているときは「こんな感情を書いてしまっても大丈夫かな?」と不安になることがある。でも、実際にその弱さをさらけ出した時こそ、読者の心に響くことが多い。


 AIはおそらく、効率や正確さを追求しすぎるあまり、そうした弱さを描くことが苦手だろう。だからこそ、わたしたち人間作家が自信を持って表現すべきなのは、自分自身の『人間的な弱さや曖昧さ』なのだ。


 さらに、『AIとの協力関係』をうまく作っていくことだ。

 AIの登場に最初は不安を感じたけれど、今ではむしろ感謝しているくらいだ。なぜならAIのおかげで、「人間作家にしか書けないもの」が明確になったからだ。


 AIと人間が協力すれば、小説の世界はもっと広がる。AIが物語の土台や構造を作り、それを人間作家がより深い感情表現で仕上げるような、新しい創作のスタイルも登場するだろう。


 この『協力』という発想を得た時、わたしは自分の中の対抗心や嫉妬が消え、ワクワクした気持ちに変わった。AIを上手く活用しつつ、自分の感情や経験をもっと鮮やかに描けるようになる。それは作家として、ものすごく贅沢で魅力的な未来ではないか。


 最後に、『小説を楽しむ気持ち』を忘れないことだ。

 わたしが作家を目指した理由を振り返ると、シンプルに「小説が好きだったから」だと気づく。小説を読んだり書いたりする楽しさ、その過程で感じる喜びや苦しさ、読者と交流することで得られる感動を、わたしは決して失いたくない。


 AI時代だからといって、小説を読む楽しみが失われるわけではない。むしろ、小説という表現形式がAIによって新たな広がりを見せることで、楽しみ方も多様化していくはずだ。


 わたしたち人間作家がすべきことは、「小説ってこんなに楽しいんだよ」と伝え続けることだと思う。AIの小説にはない、人間特有の温度感を持った物語を、読者に届け続けるのだ。


 わたしはふと、机の上で寝息を立てているおもちを撫でながら、穏やかな気持ちになった。


挿絵(By みてみん)


 結局のところ、AI時代になっても、わたしはわたしのままでいいし、小説も変わらず楽しいままだ。AIの存在が、それを邪魔することはない。むしろ、人間とAIが共に手を取り合って、より豊かで面白い小説の世界を作っていけるのだ。


 そんな未来を想像すると、自然と胸が躍るのだった。

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