95 校内放送
ピンポンピンポーン。
『あー。あー。マイクのテスト中。ただいまマイクのテスト中』
この声は……。
「涌井さん?!」
『あ。やっほー、みんな聞こえる?』
傍に横たわっている涌井さんを見たが、依然として眠ったままだ。
『さっきの戦いを見ていたわよ。みんなカックイイ~!』
「どこにいるんだ?職員室?放送室?」
『私の最新必殺技、幽体離脱アーンド校舎へ憑依よ!実はこの校舎自体に心を移せるって事を発見したの。そこで寝ている私は抜け殻なの』
「抜け殻?」
「ミッキー風に言うと”意識を夢世界の固有オブジェクトへ移植・固定化した”って感じかしら?つまり、校舎が私自身なの。内藤さんの夢に入り込んじゃってから頭がガンガン痛むし、気を張らないと夢世界が消えそうになっちゃうから、最終手段として校舎へ乗り移っていたのよ。この方が身体が楽なの」
想像を超える出来事に、私達は顔を見合わせたまま呆然としてしまった。
『この混信って状態は酷いわね。これも全部その関谷さんが持っている、機械のせいなんでしょ?ちょっとアンタ。大騒ぎを引き起こした責任を取りなさいよね!』
名指しされた関谷が「ひっ」と、言って体を強張らせた。
『みんながここにいるってこと知っていたから、夢を消す訳にもいかないと思って、今までちょっと頑張ってみたけど……ハハハ……でも、身体がもう限界みたい……胸の辺りが苦しいのよ』
地面の揺れが大きくなり、踏ん張らなければ立っていられない状態になった。
保健室にあった姿見が空中に浮かんだまま飛んできて、私達の前でピタリと止まった。
『さあ、この中へ入って。例の離脱空間ってやつよ』
地震が大きくなり、体育館のガラス窓が割れ、天井の照明機器も落ちてきた。
「これ以上は危険よ!さあ、行きましょう」
塩原主任が叫び、関谷の襟首を持って鏡の中へ放り投げた。内藤さんも悲鳴をあげながらその後へ続く。
「ヒデさんは先に戻って緊急措置の準備をしてちょうだい!」
「了解です!」
「あなた達も、早く!」
主任が我々に向かって呼びかける。
ミッキーが再びドーム型バリヤを出して眠っている涌井さんの身体を覆った。しかし、体育館の鉄筋や壁が崩れてぶつかり、その度にバリヤには少しずつヒビが入っていく。
「涌井さん、涌井さん!目を覚ましてください」
「涌井殿!我らと共に行くのじゃ」
2人の叫び声が響く。
天井の梁が落下し、ついにバリアが崩壊した。
「涌井さんはこの夢の主だから、外へは行けないの!さあ、もう限界よ。鏡の中へ急いで!」
塩原主任がミッキーとチィの腕を引き寄せ、力任せに鏡へ押し込む。
「嫌ぁ!嫌ぁぁ!」
悲痛な声を残して、2人は鏡へ吸い込まれていった。




