94 助っ人登場
私の両サイドに、いつの間にかスーツ姿の2人組が出現していた。
「やあ、スマン。待たせたね」
「緊急出動要請を受けたから何事かと思ったけど、これは本当に非常事態ね」
ボディービルダーのような筋肉隆々の男性、そして光るアーチェリーを持つ細身のキャリアウーマン風の女性だった。
「ヒデさん!塩原主任!」
涙目のミッキーが叫ぶ。
「王様と、魔女さん!?」
思わぬ再会に驚き、私も裏返った声をあげてしまった。
「お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」
「汚名返上に来たわ。今度は私たちが助ける番よ」
ヒデがスポーツ刈りの頭を掻きながら照れくさそうに笑い、塩原も恥ずかしそうな笑みを見せた。
塩原が光るアーチェリーで一矢放つと、それは何度も円周軌道を描きながら飛び、向かってきた敵の4列ほどが一瞬で消し飛んだ。
その傍らで、ヒデさんが敵を片手で軽く持ち上げて遠くへ放っている。
「……すごい」
もう、すでに私の出番が無い。
彼らには王様と魔女という印象しか無かったので、こんなに強い人物だとは思っていなかった。
「おやめなさい、関谷課長。これ以上の強制アクセスは、ホストへの負担が大きくなるわ」
「観念したまえ。そのアクセスツールでいくら化け物を出しても無駄だ」
「うるさい。もう俺は終りだ。貴様らみんな道連れだ!」
二人の呼びかけにも応じず、関谷は気が狂ったかのようにスマホを連打している。その間にも塩原主任のアーチェリー攻撃は止まず、ついには殆どのグールが消滅してしまった。
 
ワナワナと震えた関谷は、そのままペタリと座り込んでしまった。
塩原主任が彼の元へツカツカと歩き、その手からアクセスツールを奪った。そして関谷を見下ろして冷たく言った。
「あなたはボツになったこの機器の設計図を、某海外企業へ売ったのね?帰ったら確実に懲罰会議よ」
彼女がアクセスツールを素早くスワイプしながら画面を見つめる。
「夢の中へ強制介入するために、こんなに強い電波を照射するなんて……混信が起きるのも無理ないわ」
そう言って強制終了のボタンを押した。
ヒデさんが涌井さんの顔を覗き込み、深刻そうな様子で言った。
「ずっと眠ったままだな。実は、ここへ来る前に病院で確認したのだが、涌井さんの容態が悪いそうだ。医者が、今夜が峠だと……」
「そんな……涌井さん!」
ミッキーが彼女をゆり起こそうとするが、反応が無かった。
 
その時、チィがつぶやくように言った。
「地面が揺れている……地震?」
確かにカタカタと細かく揺れている。それは少しずつ大きくなり、建物全体から軋む音が聞こえ始めた。
「そういえば、校舎のいたるところが歪んでいた」
私の言葉に、ヒデさんが眉間にしわを寄せた。
「それはまずい兆候だ。この夢世界が崩壊するかもしれん」
「崩壊って、それは……まさか……?」
塩原主任が頷く。
「涌井さんの命が、尽きかけているのよ。急いでゲート探さなくちゃ」
皆で走り出そうとした時、突然、校内放送が鳴り響いた。




