93 大乱戦
私とチィの背中から、大きな天使の羽に似た光の塊がゆっくり広がると、気分は光の戦士グランドマスターとなった。
「光の戦士、降臨っ!」
2人の周囲で光のパーティクルが派手に飛び交う。まさに神々しい戦士が天界から降りてきたような光景だ。
関谷がスマホをタップすると、コピー人間達が一斉に襲いかかってきた。
「死ね!お前たちがここで死んでも証拠は残らねえ。今度は戦争だ!」
私は電光剣を構え、必殺技を発動させた。
「極刃!国士無双!」
真空の刃がカマイタチのように発生し、数十人の男達を一気に斬り付けた。
「蒼月断罪聖矢!」
チィの必殺技も発動。
体育館の天井付近で青白い光が巨大な球状に広がる。その中から無数の矢が放たれ、射抜かれた男達が霧散した。
「無限雷閃!」
再びチィの必殺技。
今度は床から螺旋状にイナズマが走り、その電気ショックで男達が四方へ弾け飛んだ。
「このやろう!そんなにファンタジーが好きなら、これでもくらえ!」
関谷がスマホを素早く操作すると、単眼の巨人が床を割って這い上がるように現れた。猛獣のように激しい咆吼と共に、一つの目玉でギョロリとこちらを睨み付けた。
「サイクロプスだ!兄者!こいつの攻撃力は半端無いぞ。気をつけるのじゃ!」
チィが叫ぶ。
巨人は大きな拳で強烈なパンチを叩き落とした。ギリギリのところでそれを避けたが、我々がいた場所には大きな穴が空いた。
「こりゃすごい」
「だが、動きが遅い。足を狙おうぞ!」
巨人が再びパンチを繰り出そうと大きく振りかぶった隙に、2人で左右の脚を切りつけた。
悶絶しながら床へ膝をついた巨人であったが、苦し紛れに再び拳を突き出してくる。
チィがそれをバトンで受けた。
ガギンという音が響く。
「チィ!?」
「平気じゃ!この隙に、とどめを!」
私はサイクロプスの背中へ飛び乗ると頭へ駆け上り、その脳天へ剣を突き刺した。
動物のような叫びをあげながら地面へ崩れ落ちた巨人は、霧のようにスッと消えていった。
こんなのが大量に出てきたら、ひとたまりも無い。私は関谷のスマホを取り上げようとダッシュした。
だが、今度は黄土色のモンスター達がウジャウジャと湧き出て、私の行く手を阻んだ。
「おらおら!もっと楽しめ。ファンタジー映画の世界ってヤツをよ!」
気が狂ったようにスマホをタップする関谷がゲラゲラと笑う。
「兄者。こいつらはグールじゃ!」
「な、何だそれは?!」
「死体を貪り食うアンデッドで、爪には麻痺毒があるぞ」
まるで巣穴から這い出た蟻のように、床から無数に湧き上がって来る。その圧倒的な数に私達はしばし途方に暮れた。
「きゃっ!」
チィがグールに胸ぐらをつかまれ、齧られようとしていた。
私は咄嗟にそいつの脇腹へ剣を突き刺して倒した。
マズイ。必殺技を出す間もなく、敵が雪崩のように迫ってくる。
「ミッキー!チィを中へ!」
「はいっ!」
バリアが一瞬だけ途切れ、その隙にチィが中へ入った。
群れを成した魔物に囲まれて、ジリジリと詰め寄られる。こんなことなら、もっと必殺技の練習をしておくべきだったと後悔した。
「死ね!死にやがれ!」
化け物達の背後では、目を血走らせ髪の毛を振り乱した関谷が発狂したように怒鳴っている。
その時、鋭い閃光が円周状に走り、グール達がドミノ倒しのようにバタバタと崩れた。




