8 これが噂の異世界転生?
「これは……!?」
映画やアニメの世界でよく登場する、憧れの電光剣だ。
なぜ急にタイミングよくこれが現れたのかという疑問も湧いたが、溢れる好奇心と戦闘意欲がそれをかき消した。
剣を振ると、電気のスパークと共に風切り音が鳴る。
「カッコいい……」
思わず呟くと、涌井さんが私の背中を叩いた。
「さあ、その剣で敵をやっつけて!」
「うむっ。では参る!」
頷いた私は、剣を中段で構えると敵を真正面に捉えた。
キバ蜘蛛は再び両脚を大きく広げ「シャーッ」という鳴き声を響かせながら飛びかかって来た。
その瞬間を捉え、電光剣を振る。
空中に光の筋を描いた切っ先が、鎌のような前脚2本を切り落とした。
想定外の攻撃に狼狽えた蜘蛛は糸を吐き出したが、私はそれをヒラリと躱し、奴の頭の上へ飛び乗ると、剣を突き立てた。
毛むくじゃらの身体から緑の体液が飛び散り、岩が堕ちるような轟音と共に、その巨体が地面へと沈んだ。
スゴイ切れ味だ。
水色に輝く光の刀身を、私はドキドキしながら見つめた。
いや、剣も凄いのだが、よくぞあのように瞬発的に動けたものだと自分の足腰にも感心する。さすが高校生の身体だ。
「キャーッ!すごーい。ステキ!」
目をキラキラさせて手を叩く涌井さん。
女子の歓声を浴びた私は最高に気分が良くなり、時代劇ヒーローのように電光剣を頭上へ掲げてポーズを決めた。
「サムライマスター北村、見参!」
この独特の雰囲気に自分は進んでノッている。
強制的に演技させられ、とても困惑しているにも関わらず、心のどこかで楽しんでいるのだ。
ジャングルに覆われた町並みが夕日に照らされ、静かに深いオレンジ色へと染まり始めている。
私へ寄り添った涌井さんと共に、キリリと強い視線で狩谷高校を仰ぎ見た。もし、これが映画や舞台ならば、壮大な音楽が流れる場面だ。
暗黒城の魔王を討伐しようというヘッポコ王様と魔女。そして美しい女官。鬱蒼と茂る呪われた森。そして魔法とモンスター。
それらのワードから、ある一つの言葉が思い出された。
『異世界転生』
某界隈で流行しているあれだ。
ひょっとして、ここは死後の世界ではなく、異世界なのかもしれないと思った。