88 チィ、激怒する
私が先頭となり、見取り図を手に4階から回った。
見張り役の男を回避し、息を潜め、出来るだけ足音を立てずに歩く。
「兄者、これを見よ。建物が歪んでおる」
チィの指差した柱を見ると、なるほど確かに緩く捻れて亀裂が入っていた。同じような柱と床が、あちこちに見られた。
「夢世界の混信で、歪みが発生しているのかもしれません」
「安定した夢世界だと思ったが、イヤな予感がするな。急いだ方が良い」
我々は静かに階段を降りて3階へ向かったが、警備している男達の姿を頻繁に見かけるようになり、先に進めなくなった。
「姿を見られずに近づくのは無理です」
「仕方ない。部活棟へ戻って陽動作戦に使える物を探し……」
そう言いかけたときだった。
「あ、兄者っ……!」
チィの声に振り向くと、大柄のモヒカン男に背後から羽交い締めにされている彼女の姿が目に入った。
「ヘッヘッヘ。ずいぶんと可愛いネズミちゃんが入り込んできたなぁ。おじさんと良い事をして遊んじゃおうかぁ」
舌舐めずりをする男。
私は反射的に右手から電光剣を出し、ほぼ同時にミッキーも光の鞭を伸ばした。
「おっと、動くんじゃねえぞ。この娘がどうなっても……」
皆まで言う前に、鞭は男の足に絡みついてバリバリと電撃を発し、私の剣は男の頭部を貫いた。
大木が倒れるように床へ沈むモヒカン男。
チィが解放されたのもつかの間、今度は別の男がやってきてミッキーを捕らえた。
「ゲッヘッヘ。可愛らしい子ネズミちゃんがいるなぁ。あーそびーましょ」
そのセリフに、私は電光剣を構えたまま顔をしかめてしまった。
どうやら、モヒカンのモブ男達は、同じような下品な台詞を言うような設定になっているらしい。
男はヘラヘラとイヤらしく笑いながら、ミッキーの耳へ息を吹きかけた。
青ざめ、悲鳴を上げながら激しく身をよじるミッキー。
「やめろ!それはセクハラだ!というか、下品にも程があるぞ」
男を倒すべく、私は動いた。
だが、それよりも早くチィのバトンが如意棒のように伸びて男の顎へヒットした。よろけた男がミッキーを離すと、今度はバトンの先端を彼の股間へ突き立てた。
男はアソコを押さえたまま床へ沈んだ。
よほど腹が立ったのだろう。チィは男の尻を何度も激しく蹴飛ばした。
「よくも光の戦士である私の親友を辱めてくれたな!その腐った性根を叩き直してくれるわ!そこへなおれっ」
「あの、チィさん。私なら平気ですから……大声を出すと、敵に見つかっちゃいます」
ミッキーが彼女を止めようとした。
「止めてくれるなっ。おい、男!そのチン○ンを踏み潰してやる。それがセクハラの元凶じゃ!」
激怒しているチィを、私とミッキーでなんとかなだめる。
だが、その間にも、騒ぎを聞きつけた男達が周りからワラワラと集まり始め、あっと言う間に囲まれてしまった。
「売られた喧嘩は買う、なんて言ったけど、人数が多すぎるな」
「スケベ男の仲間め。まとめてチン○ンを切り落としてやるっ」
「あのう、チィさん。そう言った発言は、なるべく控えた方が……」
我々は武器を手にして構え、戦闘に備えた。




