85 追跡
内藤さんの行方を追うため、我々はすぐに行動した。
ショッピングモール付近の道路には、撒き散らされたシャンプーが点在している。
「おおっ」
それを見たチィが声を上げた。
「さすがサバゲー経験者じゃ。我らが追跡してくるだろうと信じて、印を残しておる」
曇天で無風。シャンプーは干からびることなく、蒔かれたままの状態で残されていた。
幸いなのは、髪に優しい植物系の明るい緑色だったことだ。痕跡がとても発見しやすい。
「ホストの生命が脅かされる事態が起こったと判断し、緊急応援要請を発報します」
ミッキーは首からドッグタグ状のネックレスを取り出して、小さなボタンを3秒ほど押した。
「これは非常用の呼び出しです。多少時間はかかりますが、本部から応援が来ます」
「じゃあ、それまでに自分達の出来ることを続けよう」
「光の戦士は、いかなる時でも正義の味方じゃ」
3人で車へ乗り込み、シャンプーの跡を注意深く探りながら追跡を開始した。
道路に残る小さな緑色のそれは、住宅街の道路上へ規則正しくマーキングされている。追っていくと町の外れまで進み、ついには無意識領域まで辿り着いた。
車から降りて、周りを見る。
「まさか、この先へ行ったのか?」
「向こうには何も無いはずですが……」
「兄者、ミッキー殿、あそこに何か見えるぞ」
チィが指差す。
浜辺のように円弧を描いて続く夢世界と無意識領域の境目。
そこを目で辿って行くと、遠くの方に岬のように突き出る建物群の姿が見えた。
「こっちにシャンプーの跡があります!」
ミッキーの呼ぶ声に駆け寄ると、グレーの地面に緑の液体が残っていた。点々と続くそれは、建物群へと向かっている。
「あそこに内藤さんが連れて行かれたようだ」
「よし。行ってみようぞ!」
車に乗り込んで更に進む。
だが、あと少しでたどり着くという手前で、エンジンがストップしてしまった。男達が乗っていたオンボロ改造車なので、壊れてしまったのだろう。
しかたないので徒歩で進むことにした。
右には住宅地が連なり、左には無彩色の平面が広がっている。我々はその境界を緑のマーキングを追いながら歩いた。




