81 女子ウケの悪い敵モブキャラ
ショッピングモールから外へ出た。
目前に広がる駐車場には乗り捨てられた車が並び、その向こうには広大な住宅街が見える。一般的な郊外型商業施設だ。
「内藤さんの夢世界の再現率もなかなかのものです」
ミッキーが辺りを見回しながら感心していた。
確かにモール内の細部や街並みなど本物と寸分変わらぬクオリティで、涌井さんに負けじ劣らじといっても過言ではない。
駐車場に足を踏み入れたときだった。今まで誰もいなかった場所に突如として帝国軍が出現した。
「奴らが現れたわ!」
怯えた内藤さんが私の背後に隠れた。
改造したバイクや車のけたたましい爆音が辺りに響き、ミッキーとチィが「うるさい」と言いながら耳をふさいだ。
 
30人以上いる帝国軍は、ショッピングモールを襲ってきたのと全く同じ連中だった。
モヒカンヘアと伸ばし放題の無精髭。革ジャンの隙間から見える大胸筋と真っ黒な胸毛。
手には釘バットや角材を持ち、ヘラヘラ笑いながら、いたずらにアクセルを吹かしている。
漫画や映画の中でよく見かける、典型的な敵モブだ。
内藤さんは震えていた。
「奴らの見た目は悪役プロレスラーだけど、実際はすごく弱いという設定にしていたの。だから安心して戦争ごっこしていたのに、急に強くなり始めたのよ」
ミッキーとチィが眉間にしわを寄せて彼らの様子を眺める。
「確かに絵に描いたような悪人じゃな」
「なぜ、揃えたようにモヒカンヘアと棘のある黒い肩パットなのでしょう?」
「うむ。悪役とは言え、もう少し衣装は清潔感を出すべきじゃ。今どきこんなコスプレをしている者は、イベント会場にもおらん」
「七界大戦に登場する悪役は、みんなスマートで恰好良いのですが……世界が違うとこんなにも差が出てくるのですね」
「ごめんね。私、特殊な世紀末観が大好きで、もし、自分が物語を作るなら、ああいうゴツくて分かりやすい悪役を登場させたいと思っていたの」
内藤さんが恥ずかしそうに俯いた。
 
我々を見た男達がいやらしく舌なめずりをする。
「ゲッヘッヘッヘ。なかなか、いかした女じゃねえか」
「おい、お嬢ちゃん達。俺達とイイコトして遊ばねえか?」
「かくれんぼでもお医者さんごっこでも、何でもしてやるぜぇ」
おおっ。なかなかイヤらしいセリフを言うじゃないか。アクション映画の敵モブはこうでなくちゃならない。
と、私は感心したのだが、チィとミッキーは顔を歪ませ、汚物を見るような眼差しで彼らを一瞥した。
「最っ低な連中じゃ。喋っている事が昭和っぽくセンスが悪い。マッチョで強そうじゃが、脳も筋肉なのか?」
「とても下品で身震いします。セクハラにも程があります」
「映画の世界とはいえ、言葉遣いが悪く見た目も暑苦しい。良いところが一つもないぞ」
「それに、なんだか臭そう。私、無理です」
2人の歯に衣着せぬ物言いに、内藤さんは顔を真っ赤にした。
「ごめんなさい。ホントごめんなさい」
 
再びアクション映画の夢Pが私達を取り巻き始め、気持ちがソワソワしてきた。
全員が同じ事を感じたようで、お互いに顔を見合わせながら静かに頷き合った。
内藤さんが皆へ向かって言った。
「これよ!私の考えを無視して、勝手に戦闘の場面が始まっちゃうの」
「これは強い夢Pですね」
「さっき、ショッピングモールで戦った時と同じ雰囲気を感じる」
釘バッドやヌンチャクを手にした男達が、こちらへ近づいてくる。
我々は剣を構えた。
 




