80 トリプル夢P
「事情は大体わかりました」
ミッキーが立ち上がり、敬礼した。
「私は国の機関の調査員、三木と申します。夢暴走に関する調査、および事案の解決を専門としています」
そして右手を差し出し握手を求めた。内藤さんは反射的に握った。
「あなたの事を、夢世界を乗っ取ろうとする工作員か、反社グループの一員かと誤解していました。暴力を振るってしまい申し訳ありませんでした。お詫びします」
深く頭を下げるミッキーを唖然と見つめる内藤さん。
「国の機関?私を助けてくれるの?」
「はい。お任せ下さい」
ミッキーが再び敬礼し、そして皆をキリリと見つめる。
「涌井さんの夢から帰還する祭に、こちらの世界に迷い込んだのです。おそらく夢の混信現象が起こっていると思われます。内藤さんの夢世界に涌井さんとチィさんが取り込まれる、トリプル夢Pという状態です」
その話を聞き、離脱空間へ突入した際の事を思い出した。
「そういえば、鏡が割れて君と涌井さんが離脱空間へ吸い出されていたように見えた」
ミッキーが頷く。
「涌井さんはこの夢世界のどこかにいます。それは北村さんの姿が高校生のままだから、ということで証明されます」
「おお。なるほど」
私は手をポンと叩いた。
「そして、関谷課長もこの夢世界に来ています。混信の原因は、彼が強制アクセスツールを起動させているからだと思われます」
「つまり、関谷君はまだ夢世界の乗っ取りを諦めていない、という訳だな?」
「よし、行こう。涌井殿と課長を探し出すのじゃ」
チィが勢いよく立った。
「うむ。まず付近の探索をしよう。何か手がかりがあるかもしれない」
私も立ち上がった。
だが、ミッキーは深刻な表情で私達を止めた。
「待ってください。これは、我々機関の人間が起こした不祥事です。皆さんのような一般市民を巻き込むわけには……」
「悪を叩き、弱き者を助けるのが光戦士の務めじゃ」
「でも、こんな事象は初めてで、この先何が起こるか分かりません。危険ですから私1人で……」
「皆で協力し合いながらここまで来たじゃないか。これからも力を合わせて行こう」
「そうじゃ。我らの力をもってすれば百人力じゃ」
ミッキーが半ベソをかきながら私達の顔を交互に見た。
「ありがとうございます。とても助かります」
我々の会話を聞いていた内藤さんが、慌てて言った。
「ちょっと待って!外には帝国軍がいるのよ。アイツら、私が考えた設定より強くなっているの。襲われたらタダじゃ済まないわ」
「僕ら3人がいれば、問題なく戦えるよ」
「私もバリアを有効に使って、皆さんの安全を確保します」
「案ずるな北村殿。其方は我らが守る」
そう答えた私達を、彼女は唖然として見つめ返した。
「あなた達は何者なの?」
その問いに、我々は顔を見合わせ、ほとんど同時に答えた。
「国の機関の調査員です」
「会社員です」
「光の戦士じゃ」




