7 手から剣が出る
途端、風も無いのに周辺の草木がザワザワと揺れ出し、地面から大きな振動が伝わってきた。
皆へ向かって、王様が手を上げて制した。
「静かに!邪悪な気配を感じるぞ」
草木の間を割って姿を見せたのは、人間の2倍ほどもある大きさの蜘蛛だった。
魔女塩原が叫んだ。
「キ、キバ蜘蛛だ!」
赤く光った8つの目と巨大な牙。背中の斑点模様と毛むくじゃらの身体は、地獄から這い上がってきた不気味な化け物のようだ。
蜘蛛は私達を獲物だと捉えたようで、2本の脚を大きく広げて狩猟態勢に入った。
「吐く糸は鋼鉄よりも堅く、牙は闘牛をも一噛みで倒す!素早さは天下一品で、蜘蛛が故に空中戦も得意という……」
「塩原っ、モンスターに関する知識を披露するのは後にして、早く攻撃するのじゃ!」
王様が抗議する。
「では、私の得意とする炎魔法で攻撃することにしよう」
魔女塩原は杖を構えると、ブツブツと何かを呟き始めた。
「我、灼熱の大地と燃え上がる太陽より生まれし、炎を操る者として……」
彼女の周囲に複雑な模様の魔方陣が浮かび上がり、杖の先端に赤い光の玉が出現した。それは徐々に大きくなっていき、野球ボール大の燃え上がる火の玉へと成長した。
すごい。本当の魔法だ!と、私は目を見張った。
「……紅蓮の炎で敵をなぎ払え!ファイアー!」
杖から火の玉が飛んでいき、毛むくじゃらの身体に当たる。が、コツンという音と共に弾き返されてしまった。
攻撃を受けた蜘蛛が尻から白い糸を吐き出し、塩原の身体にベタベタとくっついた。彼女は簀巻状態になって地面へ倒れこみ、ヒイヒイと悲鳴を上げた。
王様は剣を構え、キバ蜘蛛に向かって走った。
「よくも仲間をやってくれたな!覚悟しろ」
蜘蛛が再び尻を向け、機関銃のように細かい粒状の糸を何度も発射してくる。
王様はそれを剣で薙ぎ払っていたが、やがて手や顔に糸がくっつき、身動き取れなくなってしまった。
「助けてくれー!何も見えないよ!」
キバ蜘蛛が赤い8つの目で私と涌井さんを見下ろし、威嚇の声で吠えた。
「さあ、北村君。あなたが強いという証拠を見せる良い機会だわ。剣道部の有段者でしょう?」
「う、うむ……」
私は躊躇した。
20年以上も竹刀を握っていないし、最近では膝が痛むこともチラホラとあるからだ。
「ここでは、あなたは若者でサムライマスターなの。だから動けるわ!それに剣だって持っているのよ」
涌井さんが再び私の目の前で指をパチンと鳴らす。
途端、私の右手から青白い光を放つ剣が出現した。




