78 再会
あっ、と思った瞬間、脇腹に衝撃と激痛が走って思わずのけぞった。突き刺さった弓矢を引き抜くと、血が付着していた。
運良く内ポケットの生徒手帳に当たって威力は弱まったが、肋骨の間に傷が出来ていた。触ると手のひらにベッタリと血がついた。
内藤さんが悲鳴を上げながら、私の元へ駆け寄ってきた。
「ごめんなさい!本当は撃つつもりなんて無かったの」
ワナワナと震えながらポケットからハンカチを取り出し、私の傷口へ当てた。
「こんなに血が……どうしよう、どうしよう」
「この程度の傷なんて、戦場では蚊に刺されたようなものさ。気にするなベイビー」
ニヒルに微笑む私の顔を黙って見つめた内藤さんは、やがて力が抜けたように床へ座り込んだ。そして大きく息を吐き、涙を流しながら頭を下げる。
「あなたの仲間のこと、知らないと言ったけど、あれは嘘よ……ゴメンなさい」
意外な言葉に、私は苦笑してしまった。
「おいおい。もっと早く言ってくれよ。お陰でかなり派手に暴れちまったぜ」
「歩ける?……着いてきて」
広い店内を行き、辿り着いたのはショッピングモールに併設する、子供用の室内遊戯施設だった。
内藤さんが扉の鍵を開けた。
入り口横に設置されたソファに、制服姿の2人の少女が座っており、揃ってこちらを振り向いた。
ミッキーとチィだった。
「北村さん!」
「兄者!」
2人が駆け寄ってきた。
ミッキーが泣きながら私に抱きつき、チィは嬉々として私の背中に飛びついた。
「よかった、よかった。心配していました」
「兄者。会いたかったぞ。無事で何よりじゃ」
私は2人に揉みくちゃにされた。
「おいおいベイビー達。まるで数年ぶりに再会したような喜び方だな。だが、俺も嬉しいぜ」
キザな私の言葉に、ミッキーとチイは目を丸くした。
「どうしたんですか?いつもの北村さんじゃないみたいです」
「ひょっとして、このワイルド感溢れる夢Pに飲まれたのか?さっきから戦いの音が聞こえていたが、兄者だったのか?」
「ああ。実は、チョイと大暴れしちまったのさ」
「ちょっと待って……北村さん。それ、どうしたんですか?」
ミッキーが私の手のひらの血を凝視する。
「ああ。これは、その……」
言い淀むと、彼女は私の身体中を触ったり覗き込み始めた。そして、脇腹の怪我を発見すると、動きを止めて目を見開いた。
内藤さんが慌てて謝罪し始めた。
「ごめんなさい!私がボウガンを撃ったせいで……」
「あっ!お前は?!」
彼女の姿を見たチィがバトンを手にすると、クルクルと回して構えた。
「こやつは私達をこんな所へ閉じ込めた愚連隊のリーダーじゃ。今度こそ退治してやるぞっ!」
「ベイビーもういいんだ。過去のことは悪い夢でも見たと思って、綺麗に忘れてくれ」
「止めるな兄者!」
チィがそう言いかけた時だった。
素早く動いたミッキーが、内藤さんの頬を思い切り張った。パンッという音が響いて、同時に彼女は床に倒れる。
チィも私も、突然の事に時が止まったように動けなかった。
「北村さんに、こんな怪我を……!」
ブルブルと震えながら内藤さんを見下ろすミッキー。
打たれた頬を手で押さえて内藤さんが泣き出した。




