76 世紀末っぽい設定
内藤さんの手下達を電光剣で威嚇し、彼女を引きずりながら医務室を出る。
廊下はバックヤードっぽく、どこか煤けて薄暗い。
『この先ショッピングエリア』と書かれた扉を開けると、一転して華やかな空間が広がった。様々な専門店が軒を連ね、床も壁も明るく爽やかな色使いへと変わる。
確かにショッピングモールだが、客の姿はどこにもなく、代わりに内藤さんの仲間達がいた。
男女20名くらいの若者達が、敵意を剥き出しにして私を遠巻きに睨んでいる。
フードコートの窓から外の様子を伺うと、駐車場や付近の住宅街を望めたのだが、その様子が少し妙だった。
ボロボロの車が何台も廃棄されており、その周囲を数台のバイクが騒々しく走り回っているのだ。
運転している男達は筋肉隆々のモヒカンヘアで、棘のある肩パッドを身につけ、釘バットやゴルフクラブを手にしている。
その姿はまるでディストピアな世界に登場する悪役モブ達だ。
「あれが、君の言った帝国軍か?」
「そう。見ての通りのガラの悪い連中よ」
内藤さんが嫌なものを見たかのように頬を歪め、顔を背けた。
軍兵の1人、小ぶりな男が軽自動車の屋根へ上がり、メガホンを使って叫び始めた。
「このモールに立てこもっている連中のリーダーに告ぐ。さっさと出て来やがれ!さもないと火ぃ着けるぞ!」」
私はニヒルに笑いながら横目で内藤さんへ言った。
「いったい何をやらかしたんだ?もたもたしていると帝国軍様に放火されるぞ。呼び出しに応じたらどうだ?」
すると、彼女は首を激しく横に振りながらヒステリックに声を荒げた。
「こんな設定知らないってば!だって、これは私が見ている夢なのよ?私が勝つ事に決まっているはずなのに、なぜ勝手に物語が進行しちゃうの?!」
「……何だって?」
「私達は革命軍で、帝国軍と戦って勝利するという設定のはずなのに、どうして物語が違う方向に進むの?私はただ、世紀末の暗黒世界を舞台にしたアクション映画を楽しみたかっただけなの」
驚いた。
つまり、ここは内藤さんの夢世界で、彼女がホストなのだ。




