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74 アクション映画の世界へ

 眠りから覚め、ゆっくり目を開けた。

 私はベッドで寝ていた。 

 白いカーテンで覆われた窓とオフホワイトの壁。そしてテレビが見える。

 今度こそ病院だ。無事にリアルワールドへ帰ってきた。


 夢世界へ行く前、私は酔っ払って転倒した。

「やっぱり入院したのか」

 安堵と自虐の混じったため息と共に呟く。

 今度は一体どのくらい眠っていたのだろう。3日……いや5日だろうか。

 苦笑しながらベッドから上半身を起こすと、ぼんやりしていた頭が徐々に覚醒してきた。

 チィやミッキー、そして関谷も帰還できただろうか。そう考えながらボリボリと頭を掻き、眠い目を擦る。


 その時、触った身体の感触が違うと気がついた。肌に張りがあり、筋肉も硬い。

「まさか……」

 私は高校生のままだった。

 離脱空間を抜けてきたはずなのに、まだ夢の中なのか?


 慌ててベッドから飛び起き、改めて周囲を見渡すと、どこかの医務室らしき場所だと分かった。

 ドアノブを回したが、外から施錠されているようで動かない。窓にも格子状の柵がある。これではまるで監禁だ。


 しかも、先程から濃い夢Pをジワジワと感じている。今まで味わった事のないシリアスな雰囲気だ。


 この何だか分からない状況下で夢Pに飲まれたくない。演劇などしている場合ではないのだ。しかし、私の心はそれに反して、アクション映画の主人公へと染まっていく。


 ひょっとすると、近くに涌井さんがいて、アクション映画ごっこを始めようとしているのかもしれない。イタズラ好きの彼女の事だから、どこかに隠れて、私の様子を笑いながら眺めているのだろう。


 ガチャガチャと解錠の音がしてドアが開き、数人がドカドカと入って来た。

 見たことのない連中だった。女1人、男2人……涌井さんの姿は無い。


 やや年長と思われる女性がパイプ椅子を引き寄せて座り、私の顔をジッと見た。年齢は20台後半だろうか。

 ショートカットのヘアスタイルに黒のTシャツ、迷彩柄のパンツ。腰のベルトには、大きめのアーミーナイフがぶら下がっていた。


「どこから来た?」

 その女性が低めの声で問いかけてきた。

 冷たい目。重苦しい空気。

 私は敢えて沈黙を続けた。

 アクション映画の主人公は、寡黙だと相場が決まっている。ベラベラと喋らず、冷静沈着に相手の出方を待つものだ。


「オイ。姉さんが聞いているんだ。何とか答えろ!」

 女性の手下だろうか。背後に立つ男が怒鳴ったが、彼女は右手を上げてそれを制した。

「やめろ」

 静かで鋭い一言だ。それだけで男は黙る。

「我々も色々と立て込んでいてな。何かと忙しく、部下達も気が立っている。だから、あまりてこずらせたくない。もう一度聞く。どこから来た?」


 おお。実にアクション映画的な台詞回しだ。素晴らしい。

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