表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/100

6 なぜか演劇を始める

 王様と魔女が猛烈な抗議を始めた。

「そんな話、聞いておりませぬぞ!こんな素人を仲間に迎えると?」

「そなたの同級生だからと言って、ジョブを持たぬ者を仲間にするなど公私混同である」

 私も涌井さんへ囁くように言った。

「あ、あの……迷惑なようなので、ここはお暇させてもらうよ。連絡するから、こんどゆっくり会おう」


 すると突然、涌井さんが周囲をぐるりと指差して私たちの言葉を遮った。

「見てください。これが魔王によって破壊された世界です。呪いの森に覆われたこの狩谷町は瘴気に溢れ、何千何万という人民が犠牲になったのです……ああ、なんということでしょう」

 シクシクと手で顔を覆いながら、彼女は続けた。


「数多くの勇者が魔王を倒すべく森へ向かいましたが、帰ってきた者は1人もおりません。遂に城内に残存する戦士は私達だけになりました」

 そして次に私へビシッと人差し指を向けた。

「そんなときに、この者が現れたのです!彼はただの戦士ではなくサムライ。しかも、その上位レベルであるサムライマスターなのです」


 その言葉に、王様と魔女は仰け反ったようなオーバーリアクションと共に驚きの声を上げた。

「な、な、何と!あの伝説のサムライマスターとな?!」

「おお!まさに奇跡じゃ」

「サムライマスターには武器も甲冑も必要ありませぬ。矢にも当たらぬほど素早く動き、一瞬で相手を倒すことが出来ます」

「まさか、そんなことが出来るというのか!?」

 ワナワナと身体を震わせる王様。


 彼らの様子を見た私は、ひたすら困惑していた。

 3人とも先ほどから不自然に滑舌がよく、まるで何かの台詞を語っているかのようだ。身振り手振りが大袈裟で———そう、演劇っぽいのだ。コスプレでキャラになり切っているという範疇を越えている。

 一体どうしてしまったのだろう。


 涌井さんがじっとこちらを見つめ、何かを期待しているかのような眼差しを送ってくる。まるで『さあ、次のセリフを』と急かすように、私を見ている。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。まさか、僕にも演劇をしろと……?」

 戸惑いながら二歩三歩と後退した私に、笑顔の涌井さんがグイグイと無言で迫ってくる。


 その時、不思議な事に気づいた。

 私も彼らに合わせて演じたくなってきたのだ。いや、演じなくてはならないという使命に似た雰囲気を感じ始めたのだ。

 理由も無く演劇をするなんて理不尽にも程がある。

 我慢だ、我慢。


 だが、その意に反して私の脳は記憶の中の様々な映画やドラマを検索し、ファンタジー映画や時代劇がこの場に合っているという結論を出した。

 

 もう我慢の限界だった。私は右手を広げて声高に名乗った。

「我はサムライマスター北村!剣士の頂点を極た者なり。邪悪な魔王を倒すべく、修行の地より馳せ参じた!」

 役者でもないのに、人前でこんなふうに演じるなんて、と、恥ずかしさと戸惑いで気がおかしくなりそうだった。


 涌井さんは満足そうにニンマリと微笑み、指をパチンと鳴らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ