6 なぜか演劇を始める
王様と魔女が猛烈な抗議を始めた。
「そんな話、聞いておりませぬぞ!こんな素人を仲間に迎えると?」
「そなたの同級生だからと言って、ジョブを持たぬ者を仲間にするなど公私混同である」
私も涌井さんへ囁くように言った。
「あ、あの……迷惑なようなので、ここはお暇させてもらうよ。連絡するから、こんどゆっくり会おう」
すると突然、涌井さんが周囲をぐるりと指差して私たちの言葉を遮った。
「見てください。これが魔王によって破壊された世界です。呪いの森に覆われたこの狩谷町は瘴気に溢れ、何千何万という人民が犠牲になったのです……ああ、なんということでしょう」
シクシクと手で顔を覆いながら、彼女は続けた。
「数多くの勇者が魔王を倒すべく森へ向かいましたが、帰ってきた者は1人もおりません。遂に城内に残存する戦士は私達だけになりました」
そして次に私へビシッと人差し指を向けた。
「そんなときに、この者が現れたのです!彼はただの戦士ではなくサムライ。しかも、その上位レベルであるサムライマスターなのです」
その言葉に、王様と魔女は仰け反ったようなオーバーリアクションと共に驚きの声を上げた。
「な、な、何と!あの伝説のサムライマスターとな?!」
「おお!まさに奇跡じゃ」
「サムライマスターには武器も甲冑も必要ありませぬ。矢にも当たらぬほど素早く動き、一瞬で相手を倒すことが出来ます」
「まさか、そんなことが出来るというのか!?」
ワナワナと身体を震わせる王様。
彼らの様子を見た私は、ひたすら困惑していた。
3人とも先ほどから不自然に滑舌がよく、まるで何かの台詞を語っているかのようだ。身振り手振りが大袈裟で———そう、演劇っぽいのだ。コスプレでキャラになり切っているという範疇を越えている。
一体どうしてしまったのだろう。
涌井さんがじっとこちらを見つめ、何かを期待しているかのような眼差しを送ってくる。まるで『さあ、次のセリフを』と急かすように、私を見ている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まさか、僕にも演劇をしろと……?」
戸惑いながら二歩三歩と後退した私に、笑顔の涌井さんがグイグイと無言で迫ってくる。
その時、不思議な事に気づいた。
私も彼らに合わせて演じたくなってきたのだ。いや、演じなくてはならないという使命に似た雰囲気を感じ始めたのだ。
理由も無く演劇をするなんて理不尽にも程がある。
我慢だ、我慢。
だが、その意に反して私の脳は記憶の中の様々な映画やドラマを検索し、ファンタジー映画や時代劇がこの場に合っているという結論を出した。
もう我慢の限界だった。私は右手を広げて声高に名乗った。
「我はサムライマスター北村!剣士の頂点を極た者なり。邪悪な魔王を倒すべく、修行の地より馳せ参じた!」
役者でもないのに、人前でこんなふうに演じるなんて、と、恥ずかしさと戸惑いで気がおかしくなりそうだった。
涌井さんは満足そうにニンマリと微笑み、指をパチンと鳴らした。