66 お祭り
次の日の夕方。
学校前に、夏祭りの神社が出現した。
合宿所の窓から、色とりどりのノボリと屋台を照らす電球や提灯の光が見える。神社が眩しくライトアップされ、イカ焼きとソース焼きそばの香りが漂ってきた。どこからやってきたのか適度に人が溢れている。
「お祭りだー!」
「凄いです!驚異的な再現力です」
合宿所の窓からその光景を眺めたチィは嬉々としてはしゃぎ回り、ミッキーもしきりに感心していた。
「全員整列っ」
涌井さんの号令を前に、皆が気をつけの姿勢で並ぶ。
彼女は一人一人へ風呂敷に包まれた荷物を渡していった。
「みんなこれに着替えなさい」
「これは?」
「浴衣ですね?」
「それから、これもあげるわ」
涌井さんは全員に封筒を配った。中身は三千円。
「お祭りのお小遣いよ。ムダ遣いしちゃダメだからね」
「やったー!」
チィは飛び上がって喜んでいた。
浴衣に着替えた私達は、いざ神社へ、と出陣して行った。
立ち並ぶ出店の数々。
綿アメ屋のモーター音。
水を泳ぐ金魚の美しさ。
その見事な再現力に私は感動し、立ち尽くしてしまった。
「これらが、全て涌井さんの想像力によって作られたものなのか……凄いな」
「へへーん。そうでしょう?これが創造神涌井様の力よ」
そう言って彼女はドヤ顔で笑った。
チィが金魚すくいがしたいと言って強引にミッキーを引っ張って行き、涌井さんと私が取り残された。
「やっと北村クンと2人きりになれたわ」
そう言って、涌井さんが楽しそうに私の腕へ抱きつき、そのまま神社の拝殿まで歩いた。
「ほら。御賽銭を用意して。願い事しなくちゃ」
私は100円玉を2枚出して賽銭箱へ投げ入れた。
鈴を鳴らして柏手を打つ。
涌井さんは、本当はこういう青春時代を過ごしたかったのだろうな、と思うと少し切ない。病気のせいとはいえ、高校卒業以降の社会経験や人間関係がほとんど無いのだから、その無念たるや我々の理解を超えている。
しかし、涌井さんは同情を望んでいない。
彼女の事を本当に思うならば、夢の中での遊びに付き合い、共に心から楽しめば良いのだ。涌井さんの記憶とリンクして手に入れた青年の肉体。私はただ、これを享受すればよいのだ。




